医学界新聞

寄稿

2013.07.01

【寄稿】

病院外心肺停止に対する
病院到着前エピネフリン投与の有効性に関する調査

永田 高志(九州大学大学院医学研究院先端医療医学部門災害・救急医学分野 助教)


 筆者は,九州大学大学院医学研究院 環境社会医学分野・萩原明人教授が発表した下記の研究に一救急医として参加する機会があり,本稿を書く機会を得た。本研究は消防庁との委託研究で行われたものである。

 Hagihara A,et al.Prehospital epinephrine use and survival among patients with out-of-hospital cardiac arrest.JAMA. 2012 ; 307(11) : 1161-8. doi : 10.1001/jama. 2012.294. [PMID : 22436956]

研究の要旨

 わが国では2006年4月1日より,病院外心肺停止に対する病院到着前のエピネフリン(アドレナリン)投与が薬剤投与認定救急救命士により実施されるようになった。その一方で,病院外心肺停止に対する病院到着前エピネフリン投与の有効性は世界的に明確になっていない。

 病院外心肺停止の患者特性は,年齢・性別に加え,目撃のある心肺停止か否か,心原性ないしは非心原性,バイスタンダーCPRを実施したか,通報から現場到着までの時間,通報から病院到着までの時間など,さまざまな要因があるため,病院到着前のエピネフリン投与の有効性を明らかにするには本来なら無作為化試験が必要である。しかし,救急措置の現場で,エピネフリン投与と非投与を無作為に割り付けることは,実際には倫理的に不可能である。そこで消防庁が病院外心肺停止症例全例を前向きに登録しているウツタイン解析データを用いて傾向スコア解析を行い,短期および長期生存との関連を検討した。

 2005年1月から2008年12月末までに発生した院外心停止例43万1968人から,18歳以上かつ110歳未満で,救急車到着前に心肺停止状態で救急隊員により病院前救護を受けながら病院に搬送された41万7188人を抽出した。

 傾向スコアでマッチングした患者データを用い,病院到着前のエピネフリン投与の患者予後に及ぼす影響を評価するため,条件付きロジスティック回帰分析を行った。エンドポイントは病院到着前のエピネフリン投与と自己心拍再開(Return of Spontaneous Circulation; ROSC),1か月生存,1か月時の脳機能カテゴリー(Glasgow-pittsburgh-Cerebral Performance Category; CPC)が1または2(良好または中等度の脳障害)による生存,1か月時の全身機能カテゴリー(Glasgow-pittsburgh-Overall Performance Category; OPC)が1または2(良好または中等度の神経学的障害)による生存の4つである。病院到着前のエピネフリン投与の影響は(1)他要因の影響を一切調整しないモデル,(2)傾向スコアの影響を調整したモデル,(3)傾向スコアおよび先行研究で蘇生転機の要

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