医学界新聞

2013.07.01

プライマリ・ケアの専門性向上を

第4回日本プライマリ・ケア連合学会開催


 第4回日本プライマリ・ケア連合学会が,5月17-19日,仙台国際センター(仙台市)にて濃沼信夫会長(東北薬科大)のもと開催された。2017年より始まる新たな専門医制度の下,「総合診療専門医」が19番目の基本領域の専門医に位置付けられることが決まっている。そうした背景のなか「新しい地域医療を拓く――がんばろう日本」をテーマに掲げた今学会は,地域におけるプライマリ・ケアの重要性を再認識し,専門性の一層の向上を展望するものとなった。


濃沼信夫会長
 オープニング講演では,厚労省医政局長の原徳壽氏,日本医師会長の横倉義武氏が,今後の地域医療を展望した。

 原氏は,高齢化が進行する中で,一人当たりの病気の発症率も高まると指摘。危機感を持って,人材育成と提供体制の充実という二面から医療改革を行う必要性を強調した。今後の策としては,今年度より全国30か所に増設される地域医療支援センターにて大学と協働して教育・スキルアップ支援に取り組むことや,幅広い患者を診られる総合診療医の育成,医療機能に応じた病院および病床区分の明確化とその報告制度,各地域の状況に即した病院ごとのビジョン策定などを提示した。

 横倉氏は,地域医療の再興と質向上をテーマに講演。医師不足や,地域・診療科による偏在解消策として,各大学への「地域医療再興講座」の設置や「学生医」制度,医療事故調査制度の創設などを提案した。日本医師会でも,かかりつけ医の診療能力向上のため年間約6000題に上る生涯教育講座や在宅医療支援フォーラムを開催。患者との信頼関係の強化を目的に,倫理綱領の制定を準備していることも示した。医師会が“行政のカウンターパートナー”として,地域の実情を反映した医療体制構築に貢献していきたいと結論付けた。

総合診療専門医をどう育てるか

 厚労省「専門医の在り方に関する検討会」(以下,検討会)の報告書にて「日常的に頻度が高く,幅広い領域の疾病と傷害等について,わが国の医療提供体制の中で,適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供すること」が要件とされている総合診療専門医。特別シンポジウム「どうする 総合診療医の認定と育成」(座長=聖路加国際病院・福井次矢氏)では,その専門性をどう規定して育てていくかが議論された。

 まず池田康夫氏(日本専門医制評価・認定機構)が,新しい専門医制度を概説した。基本構想は,医師の自律的な制度であること,学会単位でなく診療領域単位で認定され,基本・専門領域の二段階制を取り,第三者機関により認定がなされること。専門医資格を公のものとするためにも,第三者機関は中立的・客観的に研修の評価と認定を行うことと規定した。同機構では現在,研修プログラムの整備指針を策定中で,近日公開の予定。さらに本年中に第三者機関の設立,2017年より新制度での後期研修開始,20-21年に専門医認定の開始,というスケジュールを示した。

 日本医師会からは生涯教育を担当する小森貴氏が登壇。2040年,全都道府県で人口減少に転じ,全国で75歳以上の高齢者が27%に達するという推計や,高齢化・人口減少が顕著な石川県・舳倉島での診療経験から,総合的な診療能力を持つ医師の必要性を痛感していると話した。医師会としても,プライマリ・ケア能力の専門性を評価・認定することは妥当と考えているが,臓器別専門医と総合診療専門医との双方向性を堅持してほしいと要望した。

 伊藤澄信氏(国立病院機構本部総合研究センター)は,総合診療医は在宅医療など地域包括ケアの主体という役割に加え,中規模以上の病院での入院診療でも,高度医療技術の適用困難な高齢患者や複数疾患を合併した患者のマネジメントができる存在として求められていると主張。特定看護師(仮称)制度など,医療行為の役割分担が進むなか,総合診療部門の在り方が問われるとも指摘した。また,大学に所属していなければ専門医資格が取得しにくいといった状況を懸念し,地域で診療をしながらでも専門医の認定を受けられるようなキャリアパス整備の必要性にも言及した。

 吉村博邦氏(地域医療振興協会)は,総合診療医の医師像が明確でなければ,養成プログラムの作成は困難と指摘。検討会座長の高久史麿氏による「僻地,離島,過疎地などの地域で,幅広く何でも診る医師」であり,「米国の家庭医や英国のGPに近い」という総合診療医像を紹介した。また,既存の資格や研修プログラムと総合診療専門医制度との位置関係を検討し,地域のかかりつけ医や,他科専門医を取得してからの認定など,さまざまなルートを想定した制度設計に期待を寄せた。

ワクチンで地域医療を支える

 昨今の風疹問題でも明らかなように,ワクチンがコミュニティで本来の効果を発揮するには,集団免疫を獲得できるほどの接種率向上が重要である。シンポジウム 「どうすれば,ワクチンで地域医療を支えることができるのか?」(座長=メファ仁愛会マイファミリークリニック蒲郡・守屋章成氏,佐賀大・坂西雄太氏)では,接種率向上に向けた各種の取り組みが共有された。

 今年度施行された改正予防接種法においては,新たに3種のワクチン(Hib・小児用肺炎球菌・HPV)が定期接種に加わり,副反応報告制度の法定化も盛り込まれた。厚労省結核感染症課の田村圭氏は,これら見直しの経緯を報告するとともに,法改正の附帯決議により,4ワクチン(B型肝炎・水痘・おたくふくかぜ・成人用肺炎球菌)についても今年度末までに定期接種化すべきかどうかの結論が出る見込みであることを紹介した。

 日本助産師会保健指導部会の渕元純子氏は,助産師によるワクチン啓発の取り組みを報告。複雑化した予防接種スケジュールに保護者が混乱している現状を明らかにするとともに,思春期の性教育,妊娠初期,育児期などにおいて,助産師が適切な「ナビゲート」を行う必要があるとの見解を示した。

 インターネット等を通じて流布されるワクチン否定論に影響を受け,過剰な不安を抱く市民に対し,いかに効果的なパブリックヘルス・コミュニケーションを行うか。堀成美氏(国立国際医療研究センター)は,その実践者の一人だ(twitterID:@narumita)。氏は,欧米にも日本同様にアンチ・ワクチン団体がある一方,政府など公的機関が予防接種を強力に推進することでバランスを取っていることを例示。「日本にはそうした“語り”も,裏付けとなる“数字”もない」と問題提起した。

 最後に登壇した峯真人氏(峯小児科)は,地域における予防接種推進の試みを紹介した。埼玉県では,小児科医はもとより,予防接種にかかわりのある産婦人科・内科・耳鼻科などの医師,保健師・助産師・看護師,コメディカルなどが会員となり,「彩の国予防接種推進協議会」を2011年に設立。講演会や市民講座の開催,ホームページでの情報提供の活動を行っている。氏は,「地域の試みの集積が日本全体の推進につながるはず」と訴えた。

 討論では,予防接種を始めるに当たっての悩みや課題が多数の施設から寄せられ,「勉強会で地ならしを行う」「まずは1歳児から始めて徐々に対象を広げる」などの解決策が示された。

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