医学界新聞

2013.06.03

Medical Library 書評・新刊案内


PT・OTのための
これで安心 コミュニケーション実践ガイド

山口 美和 著

《評 者》中山 孝(東京工科大教授・理学療法学/学科長)

時代が求めているテキスト

 「見事なコミュニケーション・テキストを書いてくれて,本当にありがとう」と,著者の山口美和氏に素直に伝えたい。私は著者と同じ専門学校に勤務していた時代,共に学生教育に悪戦苦闘した同僚教員として,著者がこの素晴らしい本を世に送り出したことへの称賛を惜しまない。

 本書は「コミュニケーション臨床応用学」と呼べるほど,首尾一貫した理念と体系に基づいて記述されている。理学療法・作業療法領域では,往々にして用語の定義があいまいな書籍が多いが,本書は登場する用語をまず明確に定義し,次に論点を展開して解説しているため,読者にとって非常に理解しやすく,著者のメッセージがダイレクトに伝わってくる。普段の何気ない会話の背景に存在する確固たる「コミュニケーション理論」が根底にあることを読者に気付かせてくれる。このような観点から眺めると,本書は科学的理論に裏打ちされた実践書といえる。

 一方で,本書には入学した学生が成長と共に遭遇すると予測されるコミュニケーション場面や具体例がふんだんに盛り込まれているため,臨場感にあふれ,読み進むにつれ読者をくぎ付けにする豊富な展開には目を見張るものがある。本書はいわゆる“How to本”とは異なり,コミュニケーションがTPO(時,場所,状況)によりダイナミックに変化し得ることを強調しながら,解決すべきは当事者にあることを論理的に説いている。そして著者は,コミュニケーションは「理論を並べ立て,その筋書き通りに事を運べばすべてめでたしである」という単純な解決法を提示するのではなく,実践・経験を通して自ら学ぶことが重要であると訴えている。さらに,自分だけで解決できないときには援助を求めることが決して間違いではなく,“自己肯定感”を高めるために必要なことであるとも述べている。本書に貫かれている著者の「学生への応援メッセージ」を随所で読み取ることができる。

 テキストとしての構成も魅力的である。“節”ごとに要約を設けて強調したいエッセンスをリフレインしていること,ポイントがチェック式になっていること,“Work”という名の読者が与えられた課題を実際に解いていくことなど,本書には学習者の技能が定着することを意識した知恵と工夫が施されているのも特筆すべき点である。さらに本書では,コミュニケーションの場に応じた優先順位が明確に示され,わかりやすくまとめられている。長い年月にわたり臨床指導者として,また教育者として,つぶさに学生の成長を支援してきた著者の力量がここに結実した。

 本書には,著者の「コミュニケーション」に対する幅広い知識と,これまでに携わってきた臨床・教育・研究場面での生きた経験を基にした深い洞察が凝縮されている。そして,学生への愛情,あらゆる人に対する温かいまなざしと博愛の精神に満ちた著者の人間性に触れることができる。正しい日本語の語法と場に応じた言葉遣いの達人が,コミュニケーションの重要性を伝えるために満を持して本書を世に送り出した。学生はもとより,複雑な人間関係,個別性の高い臨床現場の中で働く理学療法士・作業療法士のみならず,あらゆる関係者にぜひ一読していただきたい珠玉の1冊である。

B5・頁232 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01569-1


 その機能と臨床 第4版

信原 克哉 著

《評 者》工藤 慎太郎(国際医学技術専門学校・理学療法学)

肩の理学療法にかかわるすべての理学療法士のために

 2001年4月に第3版が出版されてから11年が過ぎ,医学書院から信原克哉先生の『肩 その機能と臨床』の第4版が出版された。1979年に初版が出版されて以降,30年余りが過ぎても,なお改訂版が求められていること,さらに第3版では英文版が出版され,英国医学会の優秀図書賞を受賞されていることから,その内容の奥深さは語るに及ばない。まさに「珠玉の名著 四たび!」である。

 第4版では,前版以降の10年余りの肩の外科にかかわる数多くの研究,特に投球障害や理学療法に関する研究を引用しながら,臨床・研究に新たな視点を与えてくれる。そこで,投球障害のリハビリテーションに従事する理学療法士の視点から僭越ながら論評させていただく。

 投球障害に対するリハビリテーションでは,選手の投球時の疼痛や不安定感などの症状の発現機序を明確にして,その症状の消失とパフォーマンスの改善をめざして,理学療法がプログラムされる。しかし,大きな可動性を持った球関節とその複合体を制御する多くの靭帯や筋の織りなす複雑な病態,さらには投球という約1.5秒の短い時間に行われる高速の全身運動を運動学・運動力学的に理解することは困難を極める。動作から機能障害や病態の仮説を立てることは,理学療法士のアイデンティティーである。そのため,投球障害に対するリハビリテーションにおいて,投球動作を分析し,病態との関係をとらえるのは,運動療法の第1歩である。しかし,観察による動作分析の習熟は,臨床において最初にぶつかる大きな壁

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