真に臨床教育に資する医師国家試験をめざして(高久史麿,別所正美,北村聖,青木茂樹)
対談・座談会
2013.04.08
【座談会】 | |
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日本における医師国家試験は,本年度で107回目を数えます(合格発表記事)。国試に関してはこれまでも,医師になるための最終関門にふさわしい試験であるよう検討と改善が重ねられてきましたが,今なお,試験形式や問いの内容,実施方式などについて議論が絶えません。そこで本座談会では,国試に関する諸課題を洗い出し,医師としての真の臨床力を問う試験とするための策を考察します。医学生・研修医の皆さんもぜひ,当事者の立場から,医師国家試験の在り方について考えてみてください。
高久 日本における医師国家試験は図のような変遷をたどっており,2001年度からは3日間で500問を解く形態が定着しています。皆さんご存じのとおり,医学生は4年次の終わりから5年次初めにかけ,大学ごとに共用試験(CBT・OSCE)を受けて臨床実習に入り,その後卒業試験をパスした上で国試に臨みます。
図 近年の医師国家試験の変遷(医師国家試験改善検討部会報告書より改変転載) |
私が学長を務めていた自治医大では,卒後すぐに地域医療の第一線に出る学生が多いこともあり,臨床実習を非常に重視してきました。一方,各自治体の医師の卵を預かっている立場から,彼らを確実に国試に合格させる必要もある。膨大かつ細部にわたって“知識”を問う国試対策にかなりの時間が費やされる結果,実習期間が削られてしまうこと,さらに初期研修までにブランクができ,実習で得た現場感覚が薄れてしまうことを以前から懸念してきました。このようなジレンマは,どの大学も多かれ少なかれ共通して抱えているのではないでしょうか。
別所 全国医学部長病院長会議が第102回の国試受験生に実施したアンケートでは,大学での国試対策は早ければ5年生の終わりから始まり,6年生のほとんどの時期を費やす場合もありました。卒前・卒後の臨床教育の連続性が,国試によって途切れてしまうという懸念は,もっともなことと思います。
高久 そこで本日は,臨床教育を促進するプロセスの一環に国試を組み込み,臨床現場で真に必要な力を問う試験とするために,どのような変革・改善が必要か,議論したいと考えています。
「3日間で500題」は適切なのか
高久 私がまず気にかかっているのが,500題という問題数です。外国の医師に話すとその数に驚かれることもあるのですが,学生の負担になっているのではないでしょうか。
別所 昨年,第106回国試の受験生の声としては,試験のボリュームについては「適当」と「多い」との回答が相半ばしている状態でした1)。教員の回答と比べると,受容度は意外に高い印象を受けます。
青木 500題は,確かに少なくはありません。ただ,学生側からの「医師としての体力と知力を要求している」という声もあり,ハードな試験を乗り切れるだけの力も,医師になるためには必要ではないかと感じています。
北村 Multiple choice question(多肢選択式問題)の利点は,数をこなすことで“まぐれ”での合格・不合格を減らせることですから,その点からも,ある程度の問題数は維持するべきと考えています。また国試を経験した研修医に聞くと,答えに悩む問題の比率が増えてしまうので,問題数は減らさないほうがいいという声もありました。
高久 なるほど。出題形式に関してはもう一つ,禁忌肢があることに対するプレッシャーが大きいとも言われますが,実際のところはいかがでしょうか。
青木 11年6月の医師国家試験改善検討部会による報告書2)で初めて禁忌肢による不合格者数が公表されましたが,第104回,第105回はともに0人でした。また,禁忌肢は1問選んでしまっただけで不合格になるわけではなく,ここ数年は3問より多く選んだ場合を不合格と判定しています。そうした事情を踏まえると,現状では,学生にとってそこまで恐れる対象にはならないと考えています。
■「臨床研修を始める」資格を問う試験に
高久 それでは,問題の内容について議論していきたいと思います。青木先生,現在,問題作成はどのような基準のもと行われているのでしょうか。
青木 国試の出題基準は4年に1度,医師国家試験改善検討部会による報告書に基づいて改定されます。12年5月に発表された最新の出題基準3)では,前回改定に引き続いて臨床重視の方向性が踏襲されており,実習で教わること,あるいは目にすることを盛り込んだ問題の出題が求められています。
問題作成においてもそうした方針を反映できるよう心掛けており,例えば第107回の問題では,血管造影の手順(B-26),採血法(C-10),中心静脈カテ-テルの入れ替え時期(C-15),静脈留置針の留置手順(H-17),尿道カテ-テル留置の際の固定法(F-25)などが象徴的だと思います。第106回では点滴ラインの写真を出してその使い方を問うもの(第106回F-15)もありました4)。
高久 医学部長病院長会議では,どのような見解でまとまっているのですか。
別所 本会議では,2011年「医師養成の検証と改革実現のためのグランドデザイン――地域医療崩壊と医療のグローバル化の中で」5)において「医師国家試験は『医師として具有すべき知識および技能について,これを行う』と定めた医師法第9条に立ち返り,『知識』と『技能』に対する評価としての資格試験とする。なお,評価される知識・技能・態度レベルは,医師として卒後研修を開始するのに必要な基本的な臨床能力であり,それ以上に高度である必要はない」という提言を行っています。
高久 病歴の聴取とフィジカル・イグザミネーション,そしてクリニカル・リーズニングといった基本的な診療能力がきちんと身についているか,研修に出る前に試せるような機会とするべきということですね。
別所 ええ。この提言は,昨年実施した全国の医学部・医科大学の教員へのアンケート6)でも実に98%の賛同を得ています。
北村 具体的に言えば,定型的な知識の確認はCBTに任せ,国試の出題領域も「初期臨床研修を始めるための試験」との位置づけのもとに限定すべきでしょう。研修の2年間,一度も見ないような病名ではなく,現場で即必要とされるプラクティカルな知識やcommon diseaseに絞って問う。そうすれば,実習の成果を生かせると同時に座学の負担も減りますし,なにより実習,国試,研修を通じて臨床教育の連続性を強化することができます。
現状の500題の内訳は,一般問題が250題,臨床実地問題が250題(そのうち必修問題は100題)です。そのうち一般問題をカットして臨床実地問題のみとし,そのなかで必修問題を200題,長文の症例問題を300題としてはどうでしょうか。一般問題には誤答肢に珍しい疾患が入ることなどがあり,“重箱の隅をつつく”ような試験対策の原因となり得ます。確かに長文問題を300題にすると,単純計算で100例の症例が必要になりますが,各診療科にうまく振り分けることで,問題作成も可能になると考えています。
青木 症例問題の増問を考える際には,ぜひ同時に試験のコンピューター化も検討していただきたいと思います。紙ベースの試験だと,どうしても連続する設問からヒントが得られてしまう。例えばある症例に関する問題の1問目に患者の情報があり,診断名を問われたとします。2問目にその患者に施された治療が書いてあれば,治療から推測される診断を,1問目まで戻って解きなおすことができる。つまり3問とも読んでから,整合性が一番ある選択肢を選べばよいということになります。
高久 本来問いたい能力を,きちんと測れない可能性があると。
青木 はい。刻々と変化する臨床情報をどのように処理するかという経時的な判断を問いたいのですが,前の設問の解答を踏まえ,次に行うべき判断を問うような問題作りが現状では難しく,かなり苦労しています。
北村 確かに,コンピューター試験ならそうした対策も可能になりますね。実際,CBTでは解き直しができないので,次に出てくる問いを読めば答えがわかるような問題も多く出題されています。
また,コンピューター化することで,画像を読み取る問題などもかなり出題しやすくなるのではないでしょうか。
高久 CBTを実施していますから,各大学の設備は整っているでしょう。会場をまとめるのは難しくとも,各大学で一斉に試験をするといったかたちで,コンピューター化も検討できるか...
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