これからの終末期医療に必要なリハビリテーションとは(田村茂)
寄稿
2013.02.18
【寄稿】
これからの終末期医療に必要なリハビリテーションとは
田村 茂(地域リハビリ支援室・タムラ)
終末期医療に新たな可能性をもたらすリハビリテーション
私が本格的に訪問リハビリテーション(以下,リハビリ)にかかわって十数年。病院からの訪問リハビリを行っていたころは,患者の多くは回復期リハビリを経過した脳血管障害患者でした。しかし訪問看護ステーションからの訪問リハビリを行うようになってからは,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経難病の患者が多くなり,がん患者ともまれにかかわるようになりました。病院での「回復期」に対し,在宅の患者の状態像はいわゆる「維持期」ですが,実際には,大田仁史氏が提唱するところの「介護期リハビリテーション」,もしくは「終末期リハビリテーション」であるのが現状です1)。
柳田邦男氏は,リハビリ医学を「臓器中心主義や疾患中心主義に陥りがちだった現代医療に風穴を空ける役割をはたしている」と以前から称賛しており,「医療者は患者の伴走者,支援者であり,患者が何を最も大事にしているか,患者にとっての最高のQOLとは何かを知らなければならない。リハビリ医学は終末期医療においても大きな意義と可能性を持つ」と再々指摘しています2)。しかしながら,現代医学が治癒を前提としたcureに全力を傾注するのに対し,「死にゆく患者」「障害が残る患者」など,治癒の見込みのない患者に対するcareへの関心は,いまだ高くありません。入院患者個々の状態を考慮しにくい疾病による在院日数制限や,日本版P4P(Pay for Performance)による回復期病棟の質評価が導入されたため,現在のリハビリ医療環境が十年前と比べて一段と窮屈になったのでしょう。私たち理学療法士と終末期にある患者のかかわりは,まだ浅いままです。
とっさに何も答えられなかった
私も,訪問リハビリを通してがんの方の看取りや,ALS等の非がんの方の終末期にかかわるなかで,数年前から患者の機能・症状の悪化と改善に一喜一憂してきました。特にリハビリ技術以上に,言葉の掛け方やコミュニケーションに戸惑い,悩むことが多くあります。
以前担当した,乳がん,多発性骨転移,肝臓転移,脊髄不全対麻痺を持った50代女性は,抗がん薬治療のために1年間入院し,その後移動移乗全介助,尿道カテーテル留置の状態で退院しました。在宅療養に当たって本人と家族の希望は,車椅子への移乗,バルーンの管理,排便の調整を自分でできるようになることでした。
退院後すぐに訪問看護と訪問リハビリが開始され,1か月後には寝返り,起き上がり,端坐位の保持が可能となりました。車椅子への移乗もできるようになり,諦めていたトイレが自力でできたことを,涙して喜ばれました。私も自然と涙が止まりませんでした。夜間も体位変換介助の必要はなく,自力で寝返りし,食事の際は車椅子で食堂まで移動できるほど改善しました。なにより本人が希望していたプロのバイオリニストのコンサートに出かけることができ,「心配していた坐位保持が3時間もできた」と以前の自分を取り戻したようにうれしそうでした。4か月後には歩行器で数歩進めるようになって積極的に患者会や花見に行くなど,退院後1年間は身体的にも精神的にも良い状態が続いたのです。
しかし,がんの進行とともに発熱と下肢の浮腫,痛みが強くなり,ベッド臥床が多くなり,リハビリも起居移動動作の練習より浮腫,痛みに対するマッサージに重点が置かれました。訪問するたびに体調が悪化し,以前のような元気...
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