ここが変わった! 新しいNANDA-I看護診断(小田正枝,中木高夫,本田育美)
対談・座談会
2013.01.28
【座談会】 | |
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昨年,3年ぶりに改訂された「NANDA-I看護診断」。新たに加わった診断や大きく変わった診断が複数あるほか,特筆すべきは,診断名をはじめ,診断指標や関連因子等,広範な日本語訳の見直しがなされたこと。より使いやすく,わかりやすい看護診断をめざしたこれらの変更について,広く知ってもらい,臨床・教育現場でのさらなる活用につなげたい――日本看護診断学会理事長の小田氏,前回改訂まで学会内の用語検討委員会委員長を務めた中木氏,現委員長の本田氏が,改訂の経緯やねらいを語った。
日本におけるNANDA-I看護診断の歩みとは
小田 昨年7月に開催された第18回日本看護診断学会学術大会では,用語検討委員会の交流セッションに多数の参加者があり,看護診断の動向や,改訂のプロセスへの関心の高さが伺えました。そこでまず中木先生から,日本におけるNANDA-I(MEMO)の看護診断の動向,および本学会の沿革について,振り返っていただけたらと思います。
中木 そもそもは,日本POS研究会(現・日本POS医療学会)で“看護のプロブレムをいかに表現するか”をテーマに,NANDA-Iの看護診断をベースにしたワークショップなどを行っていたのが始まりです。しかし,次第にワークショップの開催が困難になるほど参加者が増え,日野原重明先生(現・日本POS医療学会会頭/聖路加国際病院理事長)や松木光子先生(現・日赤北海道看護大名誉学長)と相談して,看護診断学会を設立する運びとなりました。
当初は研究会の体で,年1回イベントを行う程度の活動でしたが,看護過程や中範囲理論に基づいた臨床への興味が高まった時代背景もあり,会は順調に成長していきました。関連本の訳書もさまざまな出版社から発行されるようになったのですが,その際,日本語の看護診断ラベル(現・看護診断名)が訳者によってバラバラなことが問題視され,統一基準の策定が要望されるようになりました。
小田 そこで学会内に,用語検討委員会が作られましたね。
中木 ええ。ちょうどそのころNANDA-Iから小さな用語集が出て,委員会が翻訳を担当することになりました。ただ,原書はアルファベット順に用語が羅列されていて,そのままでは日本人にはわかりにくいだろうと,当時,NANDAが看護診断の分類法として採用していた「9つの反応パターン」(タキソノミーI)の順序に従って訳すことになりました。それが『NANDA-I 看護診断 定義と分類1992-1993』(1994年,医学書院)であり,この訳書を実質的に学会公認のものとすることで,看護診断ラベルの統一が図れたと思います。
小田 その後,2年に1回の改訂というスピードに,ご苦労されたことも多かったのではないでしょうか。
中木 そうですね。いろいろな出版社から「診断ラベルだけでも早く発表してほしい」というニーズがありましたから,12月ごろ,改訂版の原書が発行され次第入手して急いで訳し,メールで理事会に諮り,最終的に承認を得た内容を学会ホームページに張り出して,関連書籍もそれに沿って作ってもらう流れを作りました。
小田 改訂が3年ごとになったのは前回(2009年)からでしたね。
中木 ええ。日本ではこれまで,できるかぎり最速での出版を心掛けてきましたが,やはり国によってはそこまでのスピードで翻訳することが難しいようで,時間的に少し余裕を持たせようという配慮がなされたと聞いています。
より“わかりやすい”看護診断をめざして
小田 それでは本田先生,今回の改訂で,特に大きく変更された部分を説明いただけますか。
本田 はい。NANDA-I側での変更は大きく4つ,日本語訳レベルでは2つの変更があります(表)。
表 NANDA-I 看護診断 2012-2014年版の変更点(概要) | ||
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6.多軸システムの第1軸「診断概念」が「診断焦点」に変更 暫定的変更であり,次版では「diagnostic concept/診断概念」に戻る予定 |
まず,新たに16の看護診断が採択され,12の看護診断が改訂されました。これには定義の修正以外にも診断指標の大幅な変更も含みます。また,2009年のNANDA-I大会で採択された通り,看護診断の定義そのものも変わりました。さらに暫定的な処置ですが,多軸システムの第1軸であり,「診断名」の核となる「診断概念」が「診断焦点」へと変更されました。
そして,日本語訳レベルの変更は,まず「診断ラベル」を「診断名」と修正したこと。「診断名」についても,「診断焦点」の訳を9つ修正した結果,15個の表記が改まることになりました。
小田 日本語訳の変更は,どのような考え方のもとに行われたのでしょうか。
本田 今回めざしたのは「わかりやすい診断にする」ということです。その一環として,従来の診断名から,臨床の看護師がより耳慣れた言葉,日本の医療文化に即した診断名に変更することで,より利用しやすくなるのではないかと考えました。
小田 前回まで訳を手がけられていた中木先生は,どうお考えですか。
中木 これまで心掛けてきたのは「同一の単語は,なるべく同一の日本語に置き換える」ことでした。私は看護診断を使う人たちには,ぜひ原書の言葉にまで興味を持ってほしいと考えています。逐語訳に努めることで,訳書と原書とを照合しやすくしたいという思いがありました。例えば“Self-Esteem”という言葉は,よく使われる「自尊心」をはじめとしてさまざまな訳語がありますが,“self”は逐一「自己」と訳す原則を定め,それに従い“Self-Esteem”も「自己尊重」と訳してきたのです。
ただこの原則を徹底することで,なじみのない訳語が採用され,違和感を覚える方もいたかもしれませんね。最近では,訳が複数ある用語の場合,わかりやすさを追求するなら,原語をそのままカタカナ化していくのも一つの手かなと考えています。
本田 そうですね。今回も「霊的安寧」から「スピリチュアルウエルビーイング」など,カタカナに変更した用語があります。
そのほか,...
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