MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.12.24
Medical Library 書評・新刊案内
水野 雅文 編
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
《評 者》羽藤 邦利(代々木の森診療所理事長)
大いに共感し,触発される刺激的な一冊
本書には,長期入院患者の「退院促進・地域定着支援」の実践報告がたくさん収載されている。精神科病院8施設,精神科診療所2施設,社会福祉法人1施設,就労継続A事業所1施設からの報告である。
「退院促進・地域移行」と言うと,厚労省が2003年から始めた「精神障害者退院促進支援事業(精神障害者地域移行・地域定着支援事業)」(通称"退促"事業)を思い浮かべる人が多いと思う。"退促"事業は,社会的入院7万2000人を10年間で解消することを目標に,都道府県ごとに相談事業所(ほとんどが地域活動支援センターを併設)を主な実施主体として取り組まれたものである。2003-09年の7年間では,事業対象者数7903人,退院患者数2825人であった。
実績数は少ない。しかし,数には表せない大きな成果があったと言われている。相談支援事業所の職員が精神科病院に出向き,病院職員と一緒に対象患者に働きかけ,「退院する気がない」患者を退院する気にさせ,退院準備,退院,地域定着に至る。地域定着までには,どのケースも1-2年かかっている。その間,病院,家族,地域の関係者を巻き込んだ波乱万丈のドラマがあったと聞く。"退促"事業を通して,相談支援事業所の職員はとても力をつけた。さらに,相談支援事業所を核にして,精神科病院,診療所,保健所,福祉事務所など地域の社会資源のつながりがつくられた。実績数は少なくても,"退促"事業は精神障害者を地域で支える基盤をつくった。
ところで,本書に掲載されている報告は,相談支援事業所などの"退促"事業のことではない。主に精神科病院で行った「退院支援・地域移行」の取り組みである。対象患者は一部重なっていたと思われるが,取り組み主体が違う。
精神科病院の取り組みは10年以上にわたっている例もある。その間,対象患者,その関係者にとってだけでなく,精神科病院にも,波乱万丈の展開が起きている。その中から,病院はたくさんのノウハウを蓄積し,機能を飛躍的に高めている。
例えば,デイケアが重要であること,訪問看護の活用の仕方,24時間電話相談が必要であること,退院促進プラン,トータルコーディネート,ケアマネジメントといった手法のこと,チーム医療,全体ミーティング,職員研修,職員の意識改革など。さらに,地域移行加算,退院前訪問指導といった診療報酬のこと。「退院させるにはまず"気合い"だ」といった言葉など,本書に掲載された報告には,退院支援に欠かせない重要なアイデアや工夫が盛り込まれている。その一つひとつが,医療現場で「膨大なエネルギー」を注ぎ込んで...
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