MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.12.03
Medical Library 書評・新刊案内
白日 高歩 著
川原 克信 執筆協力
《評 者》永安 武(長崎大大学院教授・腫瘍外科学)
呼吸器外科のあらゆる手術手技と著者の哲学を網羅した渾身の手術書
手術書の中には,医学書そのものとして高く評価されるばかりでなく,まるで小説のように著者らの強い思いが読者に伝わってくるものがある。本書を読んだ直後の感想である。このような大作を出版された著者と執筆協力者の労に対して,まずは敬意を表したい。
本書を読んで,読者はこれまでの手術書とは一線を画した内容となっていることに気付くだろう。手術手技が対象疾患ごとに分けられており,それが肺癌手術手技ばかりでなく,良性疾患や肺移植,さらには希少疾患である先天性肺疾患や小児呼吸器疾患などの手術手技まで実に多岐にわたり,詳細に論じてあるからだ。疾患ごとにその病態の説明がなされているのも手術手技の理解に大いに役立つことだろう。しかもいずれの手術法の解説にも実に細やかな配慮が施されている。的を射たカラーイラストは逆にシンプルなところが素晴らしい。手術手順の段階でどのような点に注意すべきか,あらゆる場面を想定した解説は,まさにかゆいところに手が届く内容である。
特に目を引くのは,肺葉切除,区域切除という呼吸器外科において最も基本となる切除法が,標準開胸手術と胸腔鏡下手術に分けて,別項目で詳細に解説されている点である。無論,標準開胸手術の延長線上に胸腔鏡下手術はあるべきであり,胸腔へのアプローチ以外に両者の手技に違いはないとするならば,同じ項目で一緒に論じるという考えもあろう。しかし,今や呼吸器外科手術の過半数を占めるようになった胸腔鏡下手術には標準開胸手術とは異なる技術や工夫も必要であることは明白な事実である。胸腔鏡下手術の黎明期からその普及にかかわってきた著者だからこその視点で,本手技を早期に習得することの重要性を説いているように思う。
一方で本書は,著者が胸腔鏡以前からその手技の研鑽に努めてきた気管・気管支形成術,隣接臓器合併切除,胸膜肺全摘術などの拡大手術や,膿胸,気管支断端瘻などの術後合併症に対する手術についても,合併症を起こさないコツやトラブルシューティングを随所に織り込みながら懇切丁寧に解説されている。本書の読者である外科医は,胸腔鏡下手術全盛の時代においても決して廃ることのないこれら難度の高い手術手技を,それぞれのキャリアの中で初めて執刀する,いや執刀しなければならない機会に必ず遭遇することになるだろう。その際に本書は大きな助けとなるに違いない。
本書には手術に関する本文以外にコラムというユニークな欄が設けてあり,著者の外科手術に対する心構えや考え方が,読者へのメッセージとして綴られている。そこには外科医としての信念と若手外科医に対する愛情が時に厳しく時に優しく表現されている。ベテラン外科医が後進に対する指導の一助として,あるいは若手外科医が一人前に成長するための教訓として,ぜひ心にとどめておいてほしい内容であり,本文とともに熟読していただきたい。
このように本書『呼吸器外科手術のすべて』は著者の外科に対する哲学を随所に織り交ぜながら,文字通り呼吸器外科に関するあらゆる手術手技を網羅した,まさに渾身の手術書といえるのではなかろうか。
A4・頁424 定価26,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00791-7


研修医のためのリスクマネジメントの鉄則
日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?
田中 まゆみ 著
《評 者》邉見 公雄(全国自治体病院協議会長)
研修医だけでなく,指導医,職員にも読んでいただきたい珠玉の一冊
このたび医学書院より『研修医のためのリスクマネジメントの鉄則――日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?』が出版された。著者の田中まゆみ氏とは数回しかお会いしていない。いずれも研修医を対象とした研修会においてであったと記憶している。
その研修会ではピカピカの研修医に対し,医療界のガイダンスやオリエンテーションをはじめ,医師としての基本的な姿勢,「今日からは学生ではなくプロフェッショナルな"ドクター"ですよ」と"刷り込み"的な講義が2日間続いた。この第1日目の講師に田中氏と私が前になったり後になったりして講演したのである。この研修会では,残念ながら2011年6月に亡くなられたCOMLの辻本好子さんも患者の立場から講演され,大変好評であった。田中氏については「どこかの看護系大学の教授かな」と思っていたが経歴を見てびっくり。大学の後輩ではないか。われわれ紛争世代が今もって悔やみ,コンプレックスを抱いている海外留学の経験もあるではないか。
私の立場は,医療をできるだけポジティブにとらえ,チーム医療の中に患者や家族も参加していただき,私が作った赤穂市民病院の"医療安全いろはカルタ"「と」の札のように「トラブルも 日頃の関係 ボヤで済む」という姿勢である。できるだけ楽しいホスピタルライフ,医療人としてのスタートを切って欲しいという話をボランティアの活動なども交えて紹介した。一方,田中氏の講演名は,本書の第3章のタイトルでもある「リスクマネジメントのABCD」であった。
前置きが長くなってしまったが,本題に入ろう。本書の第1章にある「医師に求められるリスクマネジメント」は,患者を守り医療者も守るという大原則を忘れないという序論だけで目からうろこ,続くインフォームド・コンセントの手順などは「そうだそうだ」とうなずくばかり。第3章に述べられている「リスクマネジメントのABCD」は,著者の長期間にわたる多彩な米国での経験に裏付けられた結論であろう。第4章では医療事故の訴訟や再発防止対策,第5章ではさまざまなケースでのリスクマネジメントが例示されている。長い医師人生の中で,多くの医師が,きっと一度は同様のケースに遭遇するのであろう。
とにかく本書の著者田中氏の経歴を見れば,天理よろづ相談所病院,マサチューセッツ総合病院,聖路加国際病院,そして現在の田附興風会北野病院と症例数と研修医など若手医師の多い医療機関ばかりであり,「研修医のためのリスクマネジメント」を著すのにこれ以上適任の方はいない,と考えるのは少し後輩への身びいき過ぎるだろうか? それは読んでから言っていただきたい!!
研修医はもちろん,指導医の方々,院長をはじめ幹部職員の皆様方にお読みいただきたい珠玉の一冊である。
A5・頁168 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00439-8


長谷川 耕平,岩田 充永 著
《評 者》渡瀬 剛人(Attending Physician/Harborview Medical Center DIvision of Emergency Medicine University of Washington)
日本の病院でM&Mを開催する医療者のバイブルとなる書籍
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