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内科救急 見逃し症例カンファレンス
M&Mでエラーを防ぐ

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M&M(morbidity & mortality)とは、死亡例・重症例・見逃し症例などを検討し、再発防止のためにシステムや環境の改善を行うカンファレンス。本書はM&Mカンファレンスで取りあげられた内科救急の症例をもとに、エラーの原因に迫り、致死的疾患に隠れる落とし穴や間違った認識などについて、最新の文献をもとに解説する。M&Mカンファレンスのやり方も詳しく、自施設で始めてみたい人にも最適。
長谷川 耕平 / 岩田 充永
発行 2012年05月判型:B5頁:192
ISBN 978-4-260-01517-2
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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まえがき

 「誰がやったんだ!?」
 「どうして検査しておかなかった?」
 臨床現場でエラーが発生した際に,耳にすることが多い言葉です.
 何かエラーが発生すると,原因を分析することよりも先に,周囲から(時にはマスメディアからも)責任を追及する発言がなされることが多く,このような環境では当事者にも「これは仕方がなかったんだ.不幸な偶然が重なってしまっただけなのだ…」と防衛反応ばかりが働いてしまいます.
 エラーの原因を分析し,それを教訓として同じ過ちを繰り返さないように学ぶ貴重な機会が失われてしまうのは,とても残念なことです.
* * *
 5年ほど前の秋,エラーを皆で共有し,エラーから学ぶためにはどうしたらよいのか,方法論を学びたいと考えていた折に,学会後の懇親の場で初めてお会いした長谷川先生から,遠慮がちに「日本にM&Mカンファレンスを紹介したいのですが,よい機会はないでしょうか…」と声をかけていただきました.
 M&M(mortality & morbidity)という言葉になじみがなかったのですが,彼の明快な説明で,エラーの原因を分析し,次の失敗を回避する方法を見つけ出すためのカンファレンスであることを理解した私も,彼の思いに共感し,どうしても責任追及の場になってしまいがちな日本のカンファレンスの現場にぜひ紹介し,そして自分もそのようなカンファレンスを実践できるような医師になりたいと思ったことを覚えています.
 その後,医学書院の協力で,内科医に広く読まれている『medicina』誌にて,長谷川先生によるM&Mカンファレンス症例の紹介に,日米の医療の実情の違いを考えて,日本のERで働いている立場から私がコメントさせていただくかたちで1年半の間連載したところ,幅広い世代の読者から反響をいただくことができました.
 そこで感じたのは,内科救急の現場で起こるエラーは時代や場所を選ばずに共通のパターンがあり,自施設の症例でなくてもエラーを振り返ることは,自分や,これから内科救急の現場に立ち向かう後輩たちが同じエラーを回避するための非常に効果的な学習機会になるということです.
 今回,書籍化にあたり,読者の皆さんの施設でもM&Mカンファレンスを実践する際の手掛かりとしてもらえるように,症例の紹介だけでなく,M&Mカンファレンスの実践法やエラーの分析法について加筆を行いました.
 本書が,日本の臨床研修病院で行われている数多くのカンファレンスに新しい風をもたらし,ひいては,内科救急でのエラーの回避,医療の質向上につながる一助となれば,われわれにとってこれ以上の喜びはありません.
 最後になりましたが,われわれの企画を取り上げてくださいました滝沢さん,連載時に素敵な文章に添削してくださった高島さん,書籍化にあたり出産直前まで労をとってくださった安部さん(元気なお子さんを産んでくださいね),医学書院の皆様に深く御礼を申し上げます.

 2012年4月
 著者を代表して
 岩田充永

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まえがき

第I章 M&Mカンファレンスの方法論と実践
 M&Mカンファレンスの目的と歴史
 医療におけるエラーの種類,その分析ツール
 ハーバード式M&Mカンファレンスの実践法 あなたの施設でM&Mを行うために

第II章 見逃し・誤診症例に迫る!
○システムエラー
 CASE 1 脚ブロックがあるので,心筋虚血は評価できないですよね!?
 CASE 2 肺炎はごみ箱診断と心得よ!
 CASE 3 エピネフリン筋注が効かなかったら,どうしよう?
○認知エラー 情報収集のエラー
 CASE 4 痙攣発作,まずは頭部CT?
 CASE 5 がん患者の呼吸困難,肺血栓塞栓だけではありません
 CASE 6 はぁはぁしてるから過換気でいいですね
○認知エラー 情報処理のエラー
 CASE 7 たかが腰痛,されど腰痛
 CASE 8 どうせいつもの片頭痛?
 CASE 9 家族そろってかぜ? ちょっと待った!
 CASE 10 脳卒中の予備軍に気をつけろ!
 CASE 11 本当に尿路感染症でいいの? 高齢者の意識障害
 CASE 12 どうせいつもの認知症?
 CASE 13 失神患者にはどのルールを使うんだっけ?
 CASE 14 本当に痔でいいんですか?
○認知エラー 情報検証のエラー
 CASE 15 胸痛+他の臓器症状ときたら,アレ
 CASE 16 「ぐるぐる」「ふらふら」に鑑別は,もう古い!?
○認知エラー 間違った知識
 CASE 17 胃腸薬が効けば心臓じゃない?
 CASE 18 心筋梗塞と同様,これも時間との闘いだ
○無過失エラー
 CASE 19 皮疹のないうちに見つけたい致死的疾患
 CASE 20 知りませんではすまされない,アノ中毒の攻略法
 CASE 21 年頃の女性の痙攣をみたら…

「あとがき」にかえて
【対談】 日本でM&Mを成功させる秘訣 長谷川耕平・岩田充永

第II章 見逃し・誤診症例に迫る! 診断名一覧
索引

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日本の病院でM&Mを開催する医療者のバイブルとなる書籍
書評者: 渡瀬 剛人 (Attending Physician/Harborview Medical Center DIvision of Emergency Medicine University of Washington)
 私が研修医だったころ,見逃し症例があった場合には上級医に怒られるのが怖くて怖くて仕方がありませんでした。患者さんのためのみならず,上級医にしかられないように頑張っていたのが現実です。役に立つフィードバックをしてくれる上級医は少なかったし,見逃し症例を検証するシステムは皆無でした。

 私がアメリカに渡って救急のレジデンシーを始めた際に,著者の長谷川耕平先生と同じくM&Mの存在に大きく感動したのを覚えています。日々起こるミス/ニアミスを取り上げ,個人を責めることもなく客観的にそれを分析し,次回に生かす。日本でも同様のカンファレンスの存在が叫ばれたのは,比較的最近のことでしょう。先見性を持ってこれに切り込んだ本書は賞賛に値します。

 私がこの本で非常に参考になった点を挙げさせていただきます。

M&Mの歴史
 アメリカで必要に迫られてM&Mが生まれ発展した経緯がつづられています。アメリカでも最初からスムーズにM&Mが発展しなかったことは,これからM&Mを開催する者たちを勇気付けるものとなるのでしょう。

「エラー」のわかりやすい説明
 M&Mをきちんと開催するには正確な言葉の定義が大切です。皆さんが外国に行った際にその国の言語を話せないと苦労することと同じで,皆さんがM&Mを開催する上でエラーの定義や共通言語を理解しないと意思疎通が難しいものです。これをエレガントに説明している点はとても役に立ちます。

豊富な症例をM&Mの視点で解説(もちろん臨床的な情報も豊富)
 症例ごとの思考過程で起きたエラーを簡潔に説明しています。これは,さまざまなエラーがどのように起こるかをM&Mに慣れていない人でも理解できる点で非常に有用です。

アメリカと文化の異なる日本でいかにM&Mを根付かせるか
 この本の最も意義深い部分は,最後に取り上げられている日本でのM&Mの根付かせ方だと思います。M&Mの理論は理解し,かつその必要性を感じ取りながらも病院でそれを実現できない方は少なくないと思います。異なる文化でcultural changeを起こすことは容易なことではありませんが,そのヒントがこの本には隠れています。

◆最後に

 M&Mにまつわる洋書の翻訳本はありますが,今後,日本の病院でM&Mを開催する医療者にとって,日本発のM&M本である本書はバイブルとなると確信しています。アメリカの名門救急レジデンシーを修了した長谷川先生が紹介するアメリカのM&Mカンファレンスの優れた点と,日本のERの酸いも甘いも知り尽くした岩田充永先生が語る日本独特のER文化とが融合した新しい形の「大和M&M」が誕生する起爆本となることは間違いありません。
臨床的にも教育的にも大きな価値を与えてくれる名著
書評者: 萩原 佑亮 (都立小児総合医療センター救命・集中治療部救命救急科)
 この本は紙上にてM&Mカンファレンスを再現した一冊である。

 M&Mカンファレンスという言葉を聞いたことがあるが,それが実際にどういう風に行われるのか知っている,または体験したことがある者は少ないのではないだろうか。体験したことがある人の中には,魔女狩り的なカンファレンスとして,記憶の片隅に嫌な思い出として残っている場合もあるかもしれない。「多くの事故は一つの致命的なミスから発生するのではなく,システムの中で小さなミスが積み重なったときに発生する」というスイスチーズモデルという概念がある。M&Mカンファレンスの役割は,体系的にこれらのチーズの穴を見つけ出して穴を埋め,またはチーズを多層化することで今後の事故を防ぐことにある。つまり,人間は誰しも間違える存在であることを前提とし,それら失敗から学び,次の失敗を回避する方法を見つけ出すことこそが目的であり,決して個人の責任追及の場ではないのである。

 救急外来という現場で日々戦っている人であればあるほど,救急外来という現場の怖さを実感していることだろう。時間の流れが早く,混雑した騒がしい救急外来で,われわれ救急医は常に冷静な判断を求められる。ときに判断を間違い,他科の医師などに怒られることもあるが,それだけならまだ良い。それが最終的な患者の予後に影響を与えることだけは誰しも避けたいはずである。しかし,誰しもが救急外来での苦い経験も持ち,あのときああしていれば良かったかもしれない,と後悔の念を持ち続けていることだろう。そして,その経験は個人の中では生かされているが,実は同じ過ちがいつの時代にも誰にでも起こる可能性があり,実際に起こっているのである。多くの過ちは,個人の能力の問題だけではなく,共通したパターンから起こっているのだから。どうしたらその失敗を最大限に生かし,共有化できるのか。

 この本に登場する21症例は決して珍しい症例集ではない。臨床経験が豊かな者であれば,正しい診断に至ることは大して難しくはないだろう。経験によって,陥りやすい過ちのパターンを認識して自然と回避しているからである。正しい診断からそれていく過程や原因について体系的に言及し,論理的に解説しているこの本は,そういった豊かな臨床経験のある者にこそ価値があると思われる。自身でも気付いていなかった脳内の思考過程やパターンが言葉として示され,今までアートであった領域がサイエンスに変わる瞬間に気付く。臨床的にも教育的にも大きな価値を与えてくれる名著であると断言できるので,ぜひ一読をお薦めしたい。

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