緩和ケア医をめざす若手医師の未来(西智弘)
寄稿
2012.10.08
【寄稿】
家庭医療の歩みに学ぶ
緩和ケア医をめざす若手医師の未来
西 智弘(川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター)
昔,私の救急指導医は言った。
「君は家庭医になりたいのか。それは大変だろう。日本の中でまだ新しい専門分野だから。そんなこと誰でもできる,と言われたり。救急も昔はそうだったんだよ。でも今では,救急が誰でもできるなんて思わないだろう?」
そう,私は家庭医になろうと思っていた。そう思って初期研修を行っていた。しかし,研修中に出会った緩和医療にひかれてしまった。以前は「がんで苦しいのは仕方ない」と考える,今思うととんでもない医師だった。しかし,緩和医療の指導医は,そんな私から患者さんを引き継ぐと,あっという間に苦痛を取ってしまった。苦痛でベッドから動けなかった患者さんが,次の日には廊下を歩いていたりするわけだから,私が「魔法か」と思ったのも無理はない。
それから,私は緩和医療を真剣に学び始めた。症状の取り方,精神的苦痛や社会的苦痛への対応などなど,指導医から学び,患者さん・家族から学び,本で学び……,と知識と経験を深めていった。
緩和ケア医をめざす上での不安
そして,あるとき気付いた。「自分以外に緩和ケア医をめざしている医師って,どこにいるんだろう?」と。家庭医をめざしていたころは,先輩・後輩,学生を含めて多くの出会いがあった。日本家庭医療学会主催の夏冬のセミナーなど実際に会う機会だけでなく,メーリングリストなどで日常もつながっていた。「家庭医をめざすのはひとりじゃないよ,みんなで頑張ろう」という安心感があった。
しかし,緩和ケア医をめざしてからは,そんな機会は皆無だった。地域の緩和医療研究会はあるが,同世代の医師はほとんどいない。学会やセミナーでも,知らない医師に突然話しかけるのもためらわれ,結局は同じ施設の医師と一緒に行動していたり。結果,「ほかの施設ではどんな研修をしているのだろう? 自分のやり方は正しいのか?」という不安が頭をもたげることになる。
不安を抱いたのにはもうひとつ理由がある。それは「研修を受けた施設ごとに,カリキュラムが全く異なるのでは?」と感じたことだ。私は内科をベースとした研修を受けたが,「麻酔科の研修はいらないのか? 精神科は?」など,非常に悩み戸惑い,葛藤し,「私の研修は正しいのか?」と不安になっていった。「ああ,他施設の研修医と"君のところの研修,どう?"と語り合えれば,もっと楽になれるのに! これではいけない,私たちも横のつながりをもっと大事にすべきだ!」と考えたときに,思い出されたのが冒頭の指導医の言葉である。
家庭医の世界も,以前は各地に散らばる家庭医志望の若手医師が,「どこでどのように研修すれば家庭医になれるのか?」とそれぞれが悩み,孤軍奮闘していた時代があった。「そうか,新しい分野の歴史は繰り返すのかも。そうだとしたらわれわれが学ぶべきは,日本における家庭医療の歴史かもしれない」と思ったのだ。もちろん,救急と家庭医療のたどってきた歴史も相当違うだろうし,それは緩和医療もそうではあるが,いずれ...
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