MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.09.24
Medical Library 書評・新刊案内
日本神経学会 監修
「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会 編
《評 者》六角 僚子(東京工科大教授・看護学/認知症ケア研究所代表理事)
看護学生・看護師が使える医学専門書
医学専門書の書評を依頼されたのは初めてで,果たして私が理解できるのかと疑問を感じながら,あっという間に読み終えた興味ある本でした。
まず,このガイドラインは認知症の定義から始まり,診断,治療原則,経過と治療計画,原因別疾患などについて,Evidence-Based Medicineの考え方に基づきながら,Q&A方式で解説されています。非常にわかりやすい形式です。質問に対して簡単な回答,解説・エビデンスという構成です。簡単な回答に5段階の「推奨グレード」が付いており,多くはグレードB,C1が表示されていました。ちなみにBは「この回答は科学的根拠があり,行うように勧められる」,C1は「この回答は科学的根拠がないが,行うよう勧められる」というグレードとなります。その後は詳しい解説・エビデンスですが,回答を裏打ちする研究結果をいくつか紹介しています。それに対してもOxford Centre for Evidence-based Medicine Level of Evidence分類とMinds分類のエビデンスレベルを提示しています。どのような研究方法で結果を出したのかというものです。
そして質問内容が精神医学,病理学,薬理学,看護学(介護)など幅広く扱われていることに感動しました。書名が治療ガイドラインということで,治療内容や薬物に特化しているというイメージでしたが,認知症者の周囲を囲む専門職にとっても有益な内容であることが理解できました。介護者の負担や家族介護者に対する心理社会的介入など,家族介護者の問題についても触れ,わかりやすい解説となっています。専門職者のみならず,看護学生の臨床実習時に行うアセスメントや卒論での文献学習で十分に活用できるものと考えます。さらにコンパクト版ということで,エッセンスが凝縮されている点,持ち歩きやすい点は読者にとってはうれしいことです。
より興味が引かれたのは「終末期のケア」です。ケアの鍵となる4つのテーマとして,(1)認知症者の終末期の予測が困難であること,(2)コミュニケーションが成立しにくいこと,(3)医療処置に関すること,(4)緩和ケアの適切さに関すること,が提示されています。一方,家族介護者にとって患者の死は,自身が解放されたとした者が72%,また90%以上の介護者が患者本人の救済にもなったと信じていることも書かれていました。認知症者に関する終末期の医療ケアの研究は先ほどの4つのテーマに配慮し,倫理的熟慮も必須であるため,研究自体はあまり充実していないとのことです。このように,1つのQ&Aだけでもエビデンスを眺められ,今後のケアに役立てられると思います。
後半では原因別疾患に関する知識だけではなく,必ずケアの解説が付いています。最後はプリオン病で締めくくられていますが,読み終えたとき,「看護師・看護学生が活用できる医学専門書」と推奨したいと思いました。専門職者に幅広く読まれることを期待したいと思います。
A5・頁256 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01337-6
増島 麻里子 編著
《評 者》小松 浩子(慶大大学院教授・慢性臨床看護学)
がん患者とケアをつなぐ実践書
これまでに,リンパ浮腫の実践書は種々発刊されているが,その中でも,本書は次の点で実用性に優れている。
一つ目は,指導内容のポイントが,表や模式図を用いて簡潔にまとめられている。二つ目に,具体的な指導内容やケアのポイントが患者の目線から記されている。例えば,「リンパ浮腫の早期発見のポイント」という項目では,「患者が自分で観察しにくい部位」を指摘し,医療者による客観的な観察ポイントを図示している。三つ目に,リンパ浮腫指導管理料と弾性着衣の療養費支給に関する具体的な実践内容が示されている。特に,「診療録・指導記録の工夫」などは,臨床現場の看護師にとって,「かゆいところに手が届く」うれしい解説である。そして,書籍全体にわたり,簡潔,かつわかりやすい記述が心掛けられている。
2008年度の診療報酬改定時にリンパ浮腫指導管理料が新設されたことにより,特定のがんの術前術後における患者指導などに対して算定できるようになった。さらに2010年度の診療報酬改定では,退院後に再指導を行った場合でも,1回に限りリンパ浮腫指導管理料を再算定できるようになった。このように適用範囲は広がったが,指導管理を必要とする人々が現場で適切にスクリーニングされ,受療できているとは言いがたいのが現状だ。
先日,私が主催している乳がんサポートグループで,「術後7年目を迎えたところでホッとしていたが,最近,手術した側の腕がむくんでいるように思う。術後から時間が経ち,どこに相談したらよいかわからない」との声が上がった。幸い,サポートグループを開催している施設にリンパ浮腫ケアステーションが併設されていたため,紹介することができ,ケアにつながった。しかし,日本のすべての医療施設にリンパ浮腫の専門的なケア部門があるとは限らない。ケアの第一線を任されているすべての看護師がリンパ浮腫ケアの基本的事項について理解し,スクリーニングの役割を果たすべきである。
本書が,がん診療が行われている医療施設で,医療従事者,およびがん患者に読まれることにより,リンパ浮腫の予防,そして発症後,早期における対処がタイミングよく,適切に行われることが大いに期待できるだろう。
B5・頁208 定価2,835円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01415-1
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