MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.08.20
Medical Library 書評・新刊案内
加納 宣康 監修
三毛 牧夫 著
《評 者》森谷 宜皓(日赤医療センター・大腸肛門外科)
発生学からみた筋膜構造に重点を置く,既存の殻を破った初めての手術書
このほど『腹腔鏡下大腸癌手術――発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技』が,書評依頼付きで腹腔鏡下手術の経験のない私に送られてきた。戸惑ったが精読してみた。
本書の中心を流れる三毛手術哲学の特徴は,血管や臓器の細部に言及する従来の系統解剖に手術手技の理解の基礎を求めるのではなく,optical technologyの進歩により可能となった筋膜構造の視認に腹腔鏡下手術の基礎を置く臨床解剖の重要性を一貫して主張しているところにある。発生学からみた筋膜構造に重点が置かれた初めての手術書であろう。
簡潔明瞭でカラフルな図が随所に挿入され,重複している図も含まれるが211点より成る。基礎編と応用編で構成されている。応用編では低位前方切除術など7つの代表的な大腸癌手術の実際が詳述されている。これからラパロでの大腸癌手術を勉強しようとしている青年外科医にとって本書は大変有用である。
同時に開腹手術を得意とする外科医が,骨盤内筋膜構造をあらためて勉強する目的にも大変役立つ。随所に自信に満ちあふれた記述が見られる。例えば"D3信仰"だとか,"実際の臨床解剖とはかけ離れた誤解した著書が多く存在する"などの一見教条的な記述にもたびたび遭遇する。この意味では既存の殻を破った手術書といえる。
局所解剖の理解における筋膜解剖の重要性は佐藤達夫,高橋孝両先生により1980-90年代にわたり,専門書で精力的に啓蒙された。この時代に腫瘍外科医としての規範と手術哲学を身につけた私にとっては30数年前に戻ったような感慨で筋膜構造の記述を読んだ。三毛牧夫先生は高橋先生が研究された臨床解剖学の継承者を自任しておられる。そこで三毛先生の英語論文"Laparoscopic-assisted low anterior resection of the rectum-a review of the fascial composition in the pelvic space. Int J Colorectal Dis. 2011 ; 26 (4) : 405-14."を読んでみた。繰り返し学習することで理解は深まった。筋膜構造の中で最も力点が置かれている筋膜は直腸固有筋膜と直腸仙骨靭帯であろう。本書の中で,前者は30回におよび言及されている。そして「腹膜下筋膜深葉が,直腸仙骨靭帯として頭側に折り返り,直腸固有筋膜を形成する。直腸固有筋膜は頭側に向かい収束し,上下腹神経叢部で再度腹膜下筋膜深葉と癒合する」と記述されている。
私は腫瘍外科のpriorityとして,(1)根治性,(2)機能温存,(3)短い手術時間・少ない出血,(4)inexpensiveな手術コスト,が重要であると考えている。筋膜構造の理解が大腸癌手術においてなぜ重要なのかと考えてみると,(1)-(3)のすべての項目に筋膜構造の重要性が合致する。骨盤内臓全摘術に関する筋膜構造の勉強のため,Uhlenhuth著"The Anatomy of the Pelvis"を横浜市立大学図書館からコピーし勉強した時代を懐かしく思い出しながら本書を読んだ。
A4・頁232 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01476-2


中村 純 編
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
《評 者》樋口 輝彦(国立精神・神経医療研究センター理事長)
幅広い世代の精神科医に必携の書
向精神薬に関する解説書は数多く出版されている。そのコンセプトは,添付文書に限りなく近いものから,薬理に重点を置くもの,使い方に主眼を置いた実践的な書などさまざまである。そしてその多くはマニュアルあるいはハンドブックの体裁をとっており,通読するよりも,むしろ外来や病棟に常備して,必要の都度,必要な項目に目を通すのに適しているものが多い。
本書は以上のような類書とは一味違った構成である。言い換えれば,これまでの類書の良いところを取り込んだハンディな一冊といえるだろう。以下,本書の特徴について,2,3記してみたい。
その一つは冒頭の「精神科臨床エキスパートシリーズ刊行にあたって」の中で述べられているように,「現在,精神科臨床の現場で最も知識・情報が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートに診療の真髄を惜しみなく披露していただく」というコンセプトが実行されている点である。執筆者がその道のエキスパートであるのは言うに及ばない。「診療の真髄」は「臨床上のヒント・注意点」と「臨床ケース」ににじみ出ている。
二つ目に本書は6つの章で構成されているが,通読向きの章(第1-3章,第5章)と,必要の都度,その薬の項目をピックアップして読む,言ってみればハンドブック的な章(第4章)があるので,一冊で2回違った味を求めることができる点である。
三つ目に,第4章の項目立てが大変よくできており,実践向きである点である。まず,冒頭に添付文書情報がコンパクトにまとめられている。次に概説,薬理学的作用機序,薬物動態,適応症と治療方針,副作用とその対策,相互作用とその対策,臨床上のヒント・注意点,臨床ケースの順に簡潔にまとめられており,大変読みやすくできている。
本書は専門医をめざす若手の精神科医にも,また生涯教育を受ける世代の精神科医にも必携の書になるものと思われる。
最後に一点,希望を述べさせていただくと,薬はこれからも次々に開発され,新規薬剤が市販されるので,それをキャッチアップするために頻繁に改訂を加えていただければありがたい。
B5・頁240 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01487-8


兼本 浩祐 著
《評 者》池田 昭夫(京大准教授・臨床神経学)
臨床てんかん学の面白さ,重要さを実感できる充実の一冊
医学書院から,このたび,愛知医科大学精神科教授の兼本浩祐先生による『てんかん学ハンドブック 第3版』が新たに出版されました。本書は1996年に初版が出版され,その後2006年に第2版,そして第3版が2012年に出版されました。
本書の特徴は次の二つと考えられます。一つ目は,臨床てんかん学の特に臨床的な内容が非常にコンパクトでありながらも広く網羅されていることです。二つ目は,本書が兼本先生の単独執筆による著書であることです。
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