C型肝炎治療の新展開(熊田博光,豊田成司,茶山一彰,菅原通子)
対談・座談会
2012.07.02
【座談会】 新規薬剤の導入で変わる臨床現場
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肝がんの背景病変の実に70%以上を占め,早期の根治的治療が求められるC型肝炎。昨今,従来と異なる作用機序を持つ薬剤の開発,臨床現場への導入によって,その治療効果に大きな進展が見られている。
新規薬剤の国内臨床試験に携わり,同薬を用いた抗ウイルス療法の実践経験を持つ4 氏が,新たな局面を迎えたC 型肝炎治療を考察した。
C型肝炎治療は時間との勝負
熊田 新たな抗ウイルス薬,NS3-4Aプロテアーゼ阻害薬「テラプレビル(Telaprevir;TVR)」が2011年11月に臨床導入され,2012年5月には,従来の厚労省研究班によるガイドライン1)とは別に,日本肝臓学会から『C型肝炎治療ガイドライン第1版』2)が公表されるなど,C型肝炎治療の現場は今,大きく変わりつつあると言えます。
まず,現在の国内のC型肝炎の状況について教えてください。
茶山 日本のC型肝炎ウイルス(HCV)感染者は,150-200万人存在すると推定されています。HCVに感染すると約70%が慢性化し,未治療の状態だと20-30年で肝硬変,肝がんへと進展することがわかっています。
熊田 治療はどのように行うのでしょうか。
茶山 標準的治療とされている抗ウイルス療法は,2004年に保険認可されたペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリン(RBV)との2剤併用療法です。同療法は高いHCV排除効果を持ち,HCV持続感染によって起こる肝がんや肝疾患関連死の抑制に大きく寄与しています。
しかし,日本に最も多く存在し,難治例とされている,HCVの遺伝子がGenotype 1型で高ウイルス量のタイプの症例では,同療法をもってしてもウイルス学的著効(sustained virological response:SVR)率は約50%にとどまっています。ですから,SVRが得られていなかった残り50%の方々のHCV排除を達成することが,C型肝炎治療における課題となっていました。
豊田 C型肝炎は早期の根治的治療が求められ,まさに「時間との勝負」という面のある疾患ですよね。
茶山 現在,HCVキャリア全体の平均年齢は70歳近くなっています。高齢になると副作用の身体的負担も大きく,抗ウイルス療法の実施が困難になることからも,いまだSVRの得られていない患者さんの根治的治療の実現が急がれます。
高い治療効果を示す3剤併用療法
熊田 2011年11月から臨床現場で使用できるようになったTVRは,どのような薬剤なのでしょうか。
豊田 HCV遺伝子の非構造蛋白のNS3-4Aプロテアーゼを直接阻害することで,HCVの増殖を抑制する薬剤です。従来のPEG-IFN/RBV2剤併用療法にはない作用機序を持つ本剤は,PEG-IFN/RBVとともに3剤併用療法として実施することができ,従来の治療では十分な効果が得られなかったGenotype 1型高ウイルス量症例への新たな治療手段として期待されています。
熊田 菅原先生は国内第3相臨床試験3,4)に参加されていましたが,本試験ではGenotype 1型高ウイルス量のC型肝炎患者を対象に,TVR/PEG-IFN/RBV 3剤併用療法の治療効果が検証されていますね。
菅原 治療歴のない患者(初回治療例)で,PEG-IFN/RBV2剤併用48週間投与群を対照として,PEG-IFN/RBV24週間投与の初めの12週間にTVRを併用する群の治療効果を比較・検討しました。
また,インターフェロンあるいはPEG-IFN単独およびRBVとの併用療法にてHCV RNAが陰性化したことがあり,その後陽性化した患者群(再燃例)と,同療法で効果がみられなかった患者群(無効例)においても,3剤併用療法の治療効果を実証する試験が行われています。
熊田 それぞれどのような治療効果が得られたのでしょうか。
菅原 国内第3相臨床試験の治療成績(図)をみると,投与終了24週後のSVR率は,対照群のPEG-IFN/RBV2剤併用療法49.2%に比し,初回治療例73%です。また再燃例88.1%,前治療無効例34.4%と,再燃例でとくに高いSVR率を得ることができました。
図 国内第3相臨床試験の治療成績 |
茶山 PEG-IFN/RBV2剤併用療法の場合,4週目時点のHCV陰性化は5%程度にすぎません。しかし,TVRを加えた3剤併用療法では,6週目時点で約97%にHCV陰性化が認められています。同臨床試験において,従来の治療法に比べ,短い治療期間でより高い効果が得られると示された点は評価すべきところです。
熊田 高い治療効果に加え,治療期間が従来の半分になることは,患者さんの負担軽減にもつながりますね。
臨床試験の結果を見ると,患者さんの前治療歴によって,TVR/PEG-IFN/RBV3剤併用療法の治療効果が異なることがわかります。先生方の施設では,実際にどのような前治療歴の症例で導入されているのでしょうか。
茶山 当院では30例程度に導入しておりますが(2012年4月中旬時点,以下同様),やはり再燃例が多いですね。初回治療例は30-40%でしょうか。
菅原 当院は57人にTVRが導入されており,前治療歴の内訳は初回治療例約40%,再燃例約30%,無効例約30%という割合です。
豊田 当院は約34%が初回治療例です。高い治療効果の見られた再燃例だけでなく,初回治療例への導入数も各施設で多い点から,医療者の間でも新たな抗ウイルス療法に対する期待が強いことを感じますね。
患者に合った治療選択で高まる薬効
熊田 初期治療例への治療選択はガイドラインに示されているとおりですが(表),Genotype 1型高ウイルス量の初回治療例にTVR/PEG-IFN/RBV3剤併用療法を導入する際,患者さんの年齢や全身状態などをどのように考慮されていますか。
表 C型慢性肝炎における初回治療ガイドライン(文献1より) |
Genotype1・高ウイルス量症例では,治療効果に寄与する宿主側の因子であるIL28Bの遺伝子およびウイルス側の因子である遺伝子変異(ISDRおよびCore領域aa70)等を参考にして,治療の開始を決定するのが望ましい。
年齢,Hb値,性別を考慮して,Telaprevirを含む3剤併用療法を行うことが困難と予測される場合は,INF+Ribavirin 併用療法を選択する。 Genotaype1,2ともにうつ病・うつ状態などの副作用の出現が予測される症例,高齢者などの副作用出現のリスクが高い症例に対してはINFβ+Ribavirin 併用療法を選択することが望ましい。 |
茶山 65-70歳までを導入できる年齢対象と考えています。ただし70歳以上でも強い希望を持つ患者さんであれば,ヘモグロビン(Hb)値や全身状態から副作用に耐えられることを確認した上で導入する場合もあります。
菅原 当院でも,70歳の患者さんからの強い要望に応えて導入したケースがあります。他の薬剤や治療法についてきちんと説明し,患者さんと相談しながら,適切な抗ウイルス療法の手段を選択することが大切です。
熊田 再燃例へのTVR/PEG-IFN/RBV3剤併用療法導入については,臨床試験の結果からも,TVRに対する認容性がある限り実施すべきということで見解は一致するでしょう。そこで問題となるのが,臨床試験の治療成績でSVR率34.4%だった無効例への導入の判断です。副作用や治療効率の面から,単純に導入すればいいというわけではありませんし,一方,治療待機を選択したことで肝がん発症など長期予後の悪化につながるケースもあり得ます。
TVR/PEG-IFN/RBV3剤併用療法を積極的に導入すべき例と,次世代の抗ウイルス療法の登場を待機すべき例は,どのように見分けるとよいのでしょうか。
豊田 遺伝子検査で治療効果を予測する方法が有効でしょう。宿主の遺伝子多型IL28B SNPとHCVのcore領域の70番アミノ酸変異が,PEG-IFN/RBV2剤併用療法の治療効果に関連することがわかっていますが,TVRを加えた3剤併用療法においても同様です。宿主因子となるIL28B SNPのrs8099917がTG/GG(minor allele)であれば,TT(major allele)と比較して治療効果が下がる。また,ウイルス側因子のHCV core領域の70番目の遺伝子が変異型だと,野性型に比べ治療効果が下がることが報告されています。これらの遺伝子検査は保険適用化されていませんが,導入後の治療効果を予測する上で重要な判断基準となるので,可能な限り実施すべきでしょう。
熊田 前回治療時の反応性も治療効果を示す指標となると言われていますね。
豊田 ええ,再治療を行う上では大切な情報です。前治療の反応性は,治療中HCV RNAは陰性化しなかったものの治療開始12週時のHCV RNA量が2 log以上減少した「Partial Responder」と,治療開始12週時のHCV RNA量の減少が2 log未満だった「Null Responder」に分類されます。Partial Responderに該当する場合は,良好な治療効果が期待できるのでTVR/PEG-I...
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