心肺蘇生リンクナース制度(荒井直美)
寄稿
2012.06.25
【寄稿】
心肺蘇生リンクナース制度
緊急時対応への組織的な取り組みをめざして
荒井直美(国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンターマネージャー/虎の門病院チーフナース)
BLS(一次救命処置)が日本に導入されてから,10年以上が経過している。心肺蘇生に対して一定の規範が存在することは,導入当時画期的なことであり,医療者の間では確実に広まっていった。現在では医学部も看護学部も,BLS講習を義務付けているところが多い。
その一方で,CPA(心肺停止)になった患者の救命目標とは,心停止前の状態に回復することであり,それはBLSだけではなし得ないことも医療者には周知の事実となってきている。しかし現実として,BLSを全看護職員に受講させることさえも難しいとされ,緊急時対応の質向上への方策は模索され続けている。
虎の門病院には,全看護職員の患者急変時対応のスキルアップを目的として,「心肺蘇生ワーキンググループリンクナース」(以下,リンクナース)という委員が各部署に存在する。これはインストラクターとしてのトレーニングを積み,部署に還元することによって,病院全体の急変時対応の質を変えていくシステムである。本稿では,この組織的な取り組みを紹介する。
リンクナース制度の発足,全看護職員BLS受講
当院では,2003年に循環器内科医を中心として心肺蘇生ワーキンググループが設立され,全職員対象のBLSトレーニングが月1回開催されるようになった。しかし,「心肺蘇生は標準化スキルとして獲得できる」とは認識され始めたものの,看護師の意識にはまだ個人差があり,全看護職員のBLS受講にはほど遠かった。
2006年に全国の系列病院を対象とした,国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンターが当院分院内に設立され,私がマネジャーとして従事することとなった。そこで,集中ケア認定看護師と共に,看護師のBLS受講率向上をめざした活動を始めた。目標を「全看護師BLS受講」と設定し,受講状況を病院内に発表するようになった。その結果が認められ,翌2007年には「心肺蘇生ワーキンググループ リンクナース会議」が発足した。
リンクナース資格対象者は「看護師経験年数4年以上でリーダーシップが期待できる者」であり,各部署の看護師長が選出している。実際は自薦他薦さまざまであり,緊急時対応に興味がある者,逆に緊急時対応の苦手克服のために参加する者もいる。各部署から規模により1-2人が選出され,合計38人が年6回の会議に参加している。
リンクナースの役割は「虎の門病院看護師全員が緊急時対応のスキルアップができる」という目的を達成することである。そのため,各部署の看護師を指導し,各種受講を促すだけでなく,リンクナース自身の各種コース受講やインストラクター資格取得が推奨されている。その結果,年度初めは「緊急時対応には自信がない」と不安げであった新規リンクナースも,冬ごろになればコードブルーに率先して駆けつけるようになる。現場で出会う他部署のリンクナースたちと役割分担し,共に対応に当たるようになっていった。
2007年度は全看護職員BLS受講を達成(図1)し,さらに翌2008年度には確実なBLSをめざした「BLS反復トレーニングの効果検証」などが行われている。2009年度からは急変時対応振り返りシート(後述)の作成と運用を開始し,心肺...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。