生き方に寄り添う支援を(村上須賀子)
インタビュー
2012.06.25
【interview】
生き方に寄り添う支援を
健康と生活の両輪を整える
村上須賀子氏(兵庫大学生涯福祉学部教授・医療ソーシャルワーカー)に聞く
患者のQOLを高めるためには,治療だけでなく生活面の支援も行う必要がある。医療や保健,介護・福祉を体系的に提供する地域包括ケアシステムの構築や,病院内で患者の生活を支援する医療ソーシャルワーカー(MSW)の活用も注目されている。『医療福祉総合ガイドブック』(医学書院)は,こうした社会のニーズを受けて,患者の生活支援において重要な柱となる医療福祉制度を,わかりやすくまとめている。本紙では,同書の発行をひとつの「運動」と捉え,初版より編集代表として携わってきた村上須賀子氏に話を聞いた。
自らの問題意識が研究会,そして本の出版へと発展
――『医療福祉総合ガイドブック』を作ろうと思われたきっかけを教えてください。
村上 最初は,本にするつもりはなく,自分が制度を知らなくて困ったことがきっかけでした。当時,長い間勤めていた広島市中心部の病院から県の北部にある病院に転勤したのですが,そこは市立病院にもかかわらず,隣の島根県や周辺の郡部からも患者さんが来院していました。すると,住んでいる自治体が異なるため,それぞれが利用できる福祉制度も異なり,これまでの知識だけでは十分な支援ができないことに気付きました。一人で周辺地域の制度を全て調べるには数も多く難しかったため,十人程度の有志と分担して勉強する研究会を始めたのです。
研究会にはMSWだけでなく,看護師さんや地域の民生委員さんも参加してくれました。各自が調べてきた制度を発表する際に,法律の条文そのままの説明をすると,民生委員さんから「言っていることがわからない」とクレームを受けたものです。こうした意見は,一般人がわかるような説明ができているかどうかを測るリトマス試験紙のようで,大変勉強になりました。
――その研究会が本の出版につながったのは,どういう経緯からでしょう。
村上 ある日研究会で,民生委員さんが「この情報をもっと早く知っていれば,困っていた人をあれほど苦しませずに済んだのに」と漏らしたのです。制度を知らないことは,それだけで不利益を生じさせます。社会保障制度の情報は,医療や福祉の従事者だけではなく,利用者自身にとっても必要な情報だと,私は気付きました。そこで,研究会で集めた情報を皆でまとめ,地域版のガイドブックとして出版しました。
それが意外なことに,内容の半分以上は広島の情報だったにもかかわらず,全国で売れたのです。それまで福祉制度をわかりやすく解説した本はなく,こうした情報を求めて困っている方が,全国にいることを知りました。ならば,全国的にも使えるガイドブックを作りたいと思い,2001年に全国版のガイドブック(『介護保険時代の医療福祉総合ガイドブック』,初版)を出版するに至りました。
困っている人を助けたい!
――全国版の初版発行から今年で11年,今回が9回目の改訂となります。とても頻繁に改訂されているのですね。
村上 介護保険がスタートしてから,社会保障制度は目まぐるしく変わっています。近年は政権交代もあって,変化がさらに加速しているように思います。「せっかくこのガイドブックを見て利用しようとしたのに,制度はすでに廃止されていた」と読者を落胆させ,傷つけたくはありません。年度ごとの発行になってからは,一つ一つの情報を毎年調査・確認し,編集しなければならないため大変ですが,困っている方の役に立つ本を作るという目的を思えば苦ではありません。
それに,頻繁に改訂版を発行することは,ひとつの運動だと思っているのです。一人でも多くの方々に福祉の制度を知ってもらい,制度の活用を社会に広げていくことが,この本の狙いであり,社会に対する働きかけになります。例えば,地域特有の制度であっても,全国的に共有すべき素晴らしい制度であれば,このガイドブックに掲載しています。自分の地域にはない制度を知ることで,困っている方々がその制度の活用を行政に訴え,広げていく。そんな運動が起きることを期待しています。
――「困っている人を助けたい」というのが,先生の原動力なのですね。ガイドブックを見ても,非常に読みやすくわかりやすいのが印象的です。
村上 ガイドブックを制作する際に私たちが一番大切にしているのは,「立場性」です。自治体が発行している制度説明は,「……の場合は利用できません」などと書かれていることが多く,利用者が申請する手助けにはなりにくい。そうではなく,利用者の立場になって,「ここを注意すれば大丈夫」とか「こんな工夫が大事です」というように,申請に前向きで具体的な書き方ならばわかりやすいですよね。研究会時代に民生委員さんから学んだ
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