MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.06.11
Medical Library 書評・新刊案内
前川 和彦,相川 直樹 監修
杉本 壽,堀 進悟,行岡 哲男,山田 至康,坂本 哲也 編
《評 者》平出 敦(近大主任教授・救急医学)
多様な救急ニーズに対応するために,各専門家がエッセンスを込めて執筆
本書は,初版から15年の間使われてきた『今日の救急治療指針』の改訂版である。救急医学は,少子高齢化,産業構造の変化,交通安全社会の構築といった社会の構造変化の大きなうねりの中で,急速に変貌しつつある。
かつて救急医学が,重症救急患者や外因性救急を主な対象として組み立てられていた時代から,内因性の疾病を中心に多様な救急医療ニーズの増大に対応できる効率の高い組み立てが注目されるようになってきた。したがって,こうした多様な領域で,エビデンスに基づいた系統的な診療モデルに基づき,どんな医師でも確実な初期治療ができることが求められるようになってきた。
その意味で,この治療指針では多様な救急ニーズに対応できるように,それぞれの専門家がエッセンスを込めて執筆した内容となっている。
本書を一読して目立つのは,写真,画像,シェーマ,アルゴリズムである。こうしたツールは,救急診療の現場における多様性,不確実性を視覚的,実践的に変換してくれるものである。同時に,近年の画像診断の進歩や,診療ガイドラインの整備を救急診療に反映したものとなっている。
臨床研修制度が必修化されて以来,学ぶ側からの教育視点が大きく導入されるようになってきた。本書にもこうした学ぶ側からの視点が生きており,実用性を重視した明確な編集方針が本書を使う側にとってうれしい内容となっている。
例えば,かつてのテキストは動脈カニュレーションを行うに当たっては,アレンテストを行うべきであると記載されているにすぎなかったが,本書では実際に写真で方法を示してくれている。
また,医学的な事項だけでなく,当直時に実際に必要な内容をユーザーの視点から掲載している。例えば小児救急では,乳児突然死症例に関して,「カルテ保存用紙および法医・病理連絡用紙のチェックリスト」を提示しているなど,当直医を守るためにも欠かせない内容が掲載されており,役に立つ内容となっている。
本書は,携帯することで,現在の多様な救急ニーズに応えられる診療を実現できるという自信を与えてくれる。
A5・頁984 定価13,650円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01218-8


深川 雅史,吉田 裕明,安田 隆 編
《評 者》平方 秀樹(福岡赤十字病院副院長)
腎臓学の専門書として好評だった初版をより充実させた第2版
腎臓は体液の恒常性維持を司る唯一の臓器で,腎臓内科学の分野で最も面白いのは,体液バランス(水,ナトリウム,カリウム,細胞外液,酸塩基平衡など)異常を解釈し,その是正治療に当たることで,多くの腎臓専門医の最初の動機となってきた。腎臓内科学の教科書の評価は,この分野をいかに記述しているかで決まる。本書は初版でも非常に好評であった。今回の改訂版でも,最も多くのページ数を費やしている。机上で,現場で繰り返して眼を通して欲しい。この分野を修めることは内科学の基本となる。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)の概念が提唱されて10年が経過し,わが国でも広く定着してきた。すなわち,CKDの管理は,慢性腎不全の進行を遅らせて透析導入・腎移植を防ぐことだけでなく,高率に併発する心血管イベントのリスクを軽減することも目標となる。これまで以上に早い時期からCKDに気付き,腎障害だけでなく心血管合併症にも対応してゆくことが重要で,このことが腎臓専門医だけでなく,非専門医や一般の方々に広く啓発されてきた。近年,KDIGO(Kidney Disease : Improving Global Outcomes)は,これまでの分類にタンパク尿(アルブミン尿)の程度を組み入れ,ステージ3を3aと3bに分け,より精密な分類とし,さらには,CKDの原因疾患をも考慮して対処するように改訂した。このKDIGOによる新分類は,CKDの意義の啓発という第一段階を経て,より確実な治療介入を要求する次の段階に進んだことを意味している。このことが本改訂版で強調されている。
しかしながら,腎機能の表現は複雑化し,非専門医ならずとも混乱している。腎機能を表す指標は何か? 血清クレアチニン値,Cockcroft-Gault式を含めたクレアチニン・クリアランス,eGFR,シスタチンCなど……。本書でも妊娠と腎,薬剤投与,多発性嚢胞腎などの項では混乱がみてとれる。今後,解決すべき問題であろう。
次に注目される大きな特徴は糖尿病性腎症の項である。第12章「よくみられる二次性腎疾患患者へのアプローチ」の最初に取り上げられている。そして,アプローチのポイントにいわく,「糖尿病性腎症の治療は,進行を抑制するのみでなく,寛解・退縮を目標とする」。これは素晴らしい! この記述を支えるエビデンスはわが国からも発せられた。腎臓専門医にも,このメッセージの達成が課せられ,それには専門医間の連携が必須で,本書の対象となる若いレジデントも参加しなければならない。
IgA腎症の項はより充実してきた。最も代表的な糸球体腎炎に対する地道な取り組みの積み重ねが,ようやく標準的治療として集約されてきた。しかし,まだ確固たるエビデンスが必要である。本書がリサーチクエスチョンのきっかけとして役立つのではないかと期待される。
第2版となる本書では,初版で序盤に「一般的アプローチ」にまとめて収載していた「どういうときに腎尿路疾患を疑うか」は,各論の冒頭にまとめるスタイルに変更され,より理解しやすい内容となった。分量も大きく変更されずに非常に充実した第2版となった。
筆者が卒業したころには,本書のような日本語で書かれた腎臓学の専門書はなかった。辞書を傍らに,英語の教科書をポツポツと読んだものである。充実した専門書を日本語で難なく読み進める意義は極めて大きい。本書はさらに版を重ねて進化していって欲しい医学書の一つである。
A5・頁536 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00948-5


救急救命士によるファーストコンタクト
病院前救護の観察トレーニング 第2版
郡山
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