今日の救急治療指針 第2版

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臨床の第一線で活躍している執筆陣による救急に特化した治療指針。救急外来で遭遇する症候・傷病に関して、「緊急度」と「重症度」を重視して編集。初療時の考え方や対応の仕方(最初にすること、重症度を見分けるポイント、入院の判断基準)など、救急の現場で役立つ知識が満載。
シリーズ 今日の治療指針
監修 前川 和彦 / 相川 直樹
編集 杉本 壽 / 堀 進悟 / 行岡 哲男 / 山田 至康 / 坂本 哲也
発行 2012年01月判型:A5頁:984
ISBN 978-4-260-01218-8
定価 14,300円 (本体13,000円+税)

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第2版 序

 「今日の救急治療指針」の初版が世に出てから15年の歳月が過ぎ去りました.この間に救急医療を取り巻く環境は大きく変わりました.画像診断,低侵襲手技,臓器移植,新薬,再生医療など,医学・医療は長足の進歩を遂げました.医療はますます高度化し,国民の医療に対する期待が膨れ上がる一方で,深刻な医療事故が次々と起こりました.医療不信が高まり,安易に訴訟へと進む風潮が生まれました.卒後臨床研修の義務化と病院勤務医師の過酷な勤務状態の顕在化,女性医師比率の増加への未対応,総医療費抑制に伴う病院の疲弊が「医療崩壊」を招きました.これらの歪みを最も鋭敏に反映するのが救急医療です.重症救急患者の「受け入れ不能」が再燃しました.
 他方,人口の少子高齢化,交通安全対策の推進,産業構造の変化に伴い,救急医療の需要は質・量とも大きく変わりました.従来の外因性救急に代わり,脳卒中や急性心筋梗塞などの内因性救急が急増し続けています.また,少子化が進む中で産科や小児救急が大きな社会問題となりました.
 このように周囲環境が急速に変化する中で,従来の救命救急センターを中心とする外因性重症救急に重点を置いた救急医療体制を見直す動きが起こりつつあります.多種多様な病態や重症度を含む救急患者に上手く対応するためには,どのような救急医療体制が良いのか模索が始まっています.いわゆる北米型のER方式も候補の一つですが,まだ結論は出ていません.おそらくは答えは,全国一律ではなく,それぞれの地域や病院の実情に応じた救急医療体制を創造することのように思われます.しかし,悠長なことは言っておれません.今この瞬間にも全国で何台もの救急車が救急患者を搬送しています.
 ところで,救急患者の99%は,救命救急センターの救急科専門医ではなく一般病院の内科医や外科医が診ています.本書は,初療を担当するそれらの内科医や外科医,ER医,研修医が利用することを想定して編集したものです.対象を急性病態に絞り込み,根治的な治療はそれぞれの領域の医師に委ねることを念頭に,初療時の考え方や対応を示しました.一人で当直している医師の立場になって求められる知識や判断を,緊急度と重症度とをキーワードに整理しました.具体的には,最初に行うべき処置,重症度を見分けるポイント,入院の判断基準,専門医や高次施設への転送基準を明示すると同時に,救急患者の初療は常に緊急度を意識して進められることから時間軸に沿って記載するように工夫しました.また,入院が必要と判断した患者の病室での管理を担当することを想定し,最長3日間(金曜日夜から月曜日朝まで)の入院後の患者管理のポイントを記載しました.
 このように本書は実用性を最重視しました.当直時に実際に遭遇した患者さんについて,必要な部分を開き読むことをお勧めします.辞書と全く同じです.きっと心強くなるはずです.本書を救急初療室に備えることによって,当直医が安心して救急医療に取り組むことができ,一人でも多くの救急患者さんが救われることを心から願っています.

 2011年10月
 監修者・編集者一同

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  欧文略語

I 症状・徴候からのアプローチ
 1 総論/ER受診患者の診かた
 2 救命処置を要する致死的病態
  心肺停止と二次救命処置(ICLS)/上気道閉塞/
  急性呼吸不全,慢性呼吸不全の急性増悪/循環血液量減少(出血)性ショック/
  心不全・心原性ショック/閉塞性ショック/敗血症性ショック(感染性ショック)/
  アナフィラキシーショック/神経原性ショック
 3 症状・徴候
  意識障害/運動麻痺/感覚障害/頭痛/痙攣/不随意運動/失神/めまい/
  鼻出血/胸背部痛/呼吸困難/動悸/喀血/咳嗽/腹痛/吐血・下血/
  嘔気・嘔吐/下痢・便秘/黄疸/乏尿・尿閉/頻尿/血尿/排尿痛,排尿障害/
  発熱/脱水/浮腫/皮疹/出血傾向/腰痛/関節痛

II 疾患・病態の診療
 1 中枢神経系
  脳梗塞/一過性脳虚血発作/脳内出血/くも膜下出血/髄膜炎・脳炎/
  重症筋無力症/ギラン・バレー症候群
 2 呼吸器系
  かぜ症候群/市中肺炎/医療施設関連肺炎/気管支喘息/急性間質性肺炎/
  肺水腫/肺血栓塞栓症/自然気胸/CO2ナルコーシス/過換気症候群
 3 循環器系
  ST上昇型急性心筋梗塞/非ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)と不安定狭心症/
  安定狭心症/頻脈性不整脈/徐脈性不整脈/心筋炎/急性心不全/
  心タンポナーデ/心膜炎/大動脈解離/大動脈瘤/高血圧性緊急症/
  急性動脈閉塞症/深部静脈血栓症
 4 消化器系
  逆流性食道炎/食道静脈瘤/特発性食道破裂/急性胃炎,急性胃粘膜病変/
  胃・十二指腸潰瘍/過敏性腸症候群/急性腸炎/食中毒/消化管異物(成人)/
  イレウス/虚血性腸炎,腸間膜動脈塞栓症/急性虫垂炎/憩室炎/ヘルニア/
  痔疾,脱肛/急性胆嚢炎,胆管炎/急性膵炎/急性肝炎/腹膜炎
 5 内分泌・代謝,その他
  低血糖症/糖尿病性ケトアシドーシス,高浸透圧性高血糖状態/酸塩基平衡異常/
  電解質異常/甲状腺クリーゼ/急性副腎不全(副腎クリーゼ)/急性腎不全/
  尿路結石/尿路感染症/急性中耳炎/蕁麻疹
 6 救急で必要な感染症の知識
  医療従事者のスタンダード・プリコーション/結核・法定伝染病患者の取り扱い/
  消毒法/HIV感染症/MRSA感染症/インフルエンザ(新型・高病原性を含む)/
  破傷風/壊死性軟部組織感染症(ガス壊疽,壊死性筋膜炎)/SIRS,敗血症/
  嫌気性菌感染症/結核菌感染症
 7 慢性疾患の急性増悪
  神経・筋疾患/呼吸器疾患/循環器疾患/消化器疾患/内分泌・代謝疾患/
  腎疾患,電解質異常/腫瘍/アレルギー疾患/血液疾患/膠原病/精神科疾患

III 小児救急
 1 総論
  小児の診かた
 2 各論
  CPAOA(SIDSを含む)/ショック/意識障害/痙攣(重積症を含む)/急性脳症/
  髄膜炎(化膿性,無菌性)/呼吸障害/腹痛/嘔吐・下痢(脱水を含む)/発熱/
  発疹/気管支喘息発作(重積症を含む)/クループ症候群/急性喉頭蓋炎/
  腸重積症/不整脈/急性心筋炎/外傷/異物誤飲/薬物中毒(自殺企図を含む)/
  児童虐待

IV 専門科救急
  眼科救急/耳鼻咽喉科救急/歯科・口腔外科救急/泌尿器科救急/
  産婦人科救急(急性腹症,性器出血)/皮膚科救急/精神科救急

V 外傷
 1 総論
  JPTEC概説/JATEC概説/多発外傷/高次医療機関への転送基準
 2 各論
  頭部外傷/顔面外傷/胸部外傷/腹部外傷/骨盤外傷/脊椎・脊髄外傷/
  陰部外傷/広範囲挫滅損傷(クラッシュ症候群)/爆傷/刺創/銃創/刺咬傷/
  熱傷の全身管理/熱傷の局所管理/凍傷/電撃傷/化学損傷/
  異物(釣り針,とげなど)/頸腰椎捻挫/肩の外傷/腕の外傷(上腕骨骨折)/
  肘の外傷/手指・足趾の外傷/下肢の外傷/膝の外傷/爪の外傷

VI 中毒
 1 総論
  中毒患者の診かた/中毒の標準的治療/トキシドローム
 2 各論
  家庭用品による中毒(化粧品,石鹸,洗浄剤,義歯洗浄剤,文具品,保冷剤,他)/
  向精神薬中毒/解熱鎮痛薬・循環呼吸系薬・外用薬中毒/一般薬中毒/
  酸・アルカリ中毒(強酸,フッ化水素,シュウ酸,アルカリ)/
  急性アルコール中毒/農薬中毒(有機リン,パラコート,他)/
  工業用品による中毒(重金属,石油,有機溶剤,砒素,シアン,他)/
  ガス中毒(一酸化炭素,塩素,硫化水素,亜硫酸ガス,天然ガスなど)/
  自然毒中毒(ハチ,ヘビ,フグ,キノコ,他)/乱用薬物中毒(催淫薬を含む)

VII 環境異常
  熱中症/偶発性低体温症/酸欠症/減圧症/高山病/急性放射線症

VIII 手技
  除細動/緊急ペーシング/気道確保/輪状甲状間膜(靱帯)穿刺・切開/
  酸素療法,器械的換気/静脈路確保(中心静脈を含む)/
  胸腔穿刺法と胸腔ドレナージ法/心嚢穿刺,心嚢ドレナージ/腹腔穿刺,腹腔洗浄/
  尿道留置カテーテル挿入/膀胱穿刺,膀胱瘻造設/ダグラス窩穿刺/腰椎穿刺/
  関節穿刺/S-Bチューブ挿入留置/胃管挿入,胃洗浄/イレウス管挿入/
  動脈カニュレーション/肺動脈カテーテル挿入/皮膚・粘膜消毒法/局所麻酔法/
  創傷処置/外出血止血/コンパートメント内圧測定,減張切開/
  膿瘍排膿(切開,ドレナージ)/皮下異物摘出法(釣り針,縫い針)/
  脱臼整復法/ギプス・副子固定/四肢骨折牽引法

IX 検査・画像診断
  動脈血ガス分析/血液型判定,交差適合試験/緊急血液・尿検査/心電図検査/
  超音波検査(FAST,急性腹症,心エコー,静脈血栓)/単純X線撮影/
  CT・MRI検査/内視鏡検査

X 救急医療と社会
  救急医療体制/救急医療の関連法規/法律に基づいた脳死判定/
  臓器移植のシステム/災害医療体制/国際災害医療協力体制

付録 救急医薬品リスト

  和文索引/欧文索引

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全国の救急初療室に『今日の救急治療指針』の常備を
書評者: 丸藤 哲 (北大大学院教授・救急医学)
 前川和彦・相川直樹監修,杉本壽ら編集の『今日の救急治療指針第2版』が上梓されました。本書はわが国で久しく親しまれてきた,医学書院の『今日の治療指針』各科版の一つとして企画された救急医療分野の治療指針です。初版は1996年に出版されましたが,その後の十数年においてわが国の救急医療を取り巻く環境の変化は,激変の文字で表現することができるでしょう。卒後臨床研修の義務化に伴い初期臨床研修で必修化された救急医療の実践と,国民の医療への要求が変化し,救急診療という名の時間外診療患者の増加に,救急医療体制の整備が追いつかない実態が最近明瞭になってきました。この結果,救命救急センターあるいは救急科に所属する救急科専門医以外の一般内科・外科医師らが救急患者の診察を行わざるを得ない状況が常態化し,医師のみならず医療全体の疲弊を招いています。これらの変化を十分に認識し,その環境変化に対応可能な形で編集された本書は現在の救急医療の現場に必須の知識を提供しています。

 救急医療の第一線で活躍している執筆陣による救急に特化した治療指針である本書は,若手救急科医師のみならず救急初期診療を担当する研修医,一般内科・外科医師などが利用することを想定して編集されています。対象患者に常に不確実性が伴う救急初期診療では,治療を進めつつ症状・症候から鑑別すべき病態・疾患を挙げて診断を行う,治療と診断の同時進行を余儀なくされる場面を多く経験します。本書はこの特徴を理解し,最初に症状・兆候からのアプローチを掲げ,診断のついた疾患・病態の治療が詳述される心憎い編集方針です。さらに,救急初期診療で遭遇するほぼすべての病態・疾患を網羅し,その緊急度と重症度を重視して編集されているのみならず,初期対応,重症度の見分け方,入院判断基準など,まさに救急の現場ですぐに役立つ知識が満載されています。心肺停止症例に対する一次・二次救命救急処置は2010年に国際的に大幅な改訂が行われましたが,本書は処置内容を単純なアルゴリズムで示しつつすべての医療従事者が理解しやすい平易な文章で最新の救命処置を解説しています。また,迅速性が要求される救急初期診療では,救急医薬品の使用方法を速やかに調べる必要がありますが,付録として救急医薬品の適応,使用方法,作用・副作用・注意が見やすい一覧表として掲載されていることも特徴の一つでしょう。

 『今日の救急治療指針』は,救急に関わるすべての医師必携の書です。全国の救急初療室に本書を常備することを推薦いたします。
多様な救急ニーズに対応するために,各専門家がエッセンスを込めて執筆
書評者: 平出 敦 (近大主任教授・救急医学)
 本書は,初版から15年の間使われてきた『今日の救急治療指針』の改訂版である。救急医学は,少子高齢化,産業構造の変化,交通安全社会の構築といった社会の構造変化の大きなうねりの中で,急速に変貌しつつある。

 かつて救急医学が,重症救急患者や外因性救急を主な対象として組み立てられていた時代から,内因性の疾病を中心に多様な救急医療ニーズの増大に対応できる効率の高い組み立てが注目されるようになってきた。したがって,こうした多様な領域で,エビデンスに基づいた系統的な診療モデルに基づき,どんな医師でも確実な初期治療ができることが求められるようになってきた。

 その意味で,この治療指針では多様な救急ニーズに対応できるように,それぞれの専門家がエッセンスを込めて執筆した内容となっている。

 本書を一読して目立つのは,写真,画像,シェーマ,アルゴリズムである。こうしたツールは,救急診療の現場における多様性,不確実性を視覚的,実践的に変換してくれるものである。同時に,近年の画像診断の進歩や,診療ガイドラインの整備を救急診療に反映したものとなっている。

 臨床研修制度が必修化されて以来,学ぶ側からの教育視点が大きく導入されるようになってきた。本書にもこうした学ぶ側からの視点が生きており,実用性を重視した明確な編集方針が本書を使う側にとってうれしい内容となっている。

 例えば,かつてのテキストは動脈カニュレーションを行うに当たっては,アレンテストを行うべきであると記載されているにすぎなかったが,本書では実際に写真で方法を示してくれている。

 また,医学的な事項だけでなく,当直時に実際に必要な内容をユーザーの視点から掲載している。例えば小児救急では,乳児突然死症例に関して,「カルテ保存用紙および法医・病理連絡用紙のチェックリスト」を提示しているなど,当直医を守るためにも欠かせない内容が掲載されており,役に立つ内容となっている。

 本書は,携帯することで,現在の多様な救急ニーズに応えられる診療を実現できるという自信を与えてくれる。

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