できるレジデントになろう!!(横林賢一)
寄稿
2012.06.11
【寄稿】
できるレジデントになろう!!
"危険"な研修医にならないために
横林賢一(広島大学病院 総合内科・総合診療科
皆さんは,できるレジデント(研修医)になりたいと思いませんか? 豊富な知識を持ち,手技を華麗にこなしテキパキ働く,そんな研修医になりたいと思う方は少なくないはず。でも,できるレジデント(以下,デキレジ)って,そんな研修医ではないのです。
病院のスタッフ・指導医から見たデキレジとは,危険「ではない」研修医。つまり,危険な研修医以外はすべてデキレジです。だからデキレジになるには,危険な研修医にならなければ良いのです。今回は指導医など医療関係者からみたデキレジに焦点を当て,各場面におけるデキレジとダメレジの姿勢・対応を見てみましょう。
ホウレンソウが命! ~病棟トラブルの対応編~
朝一人で回診していると,受け持ち患者さんが胸痛を訴えていた。症状は5分ほどですぐに治まった。
ダメレジ これくらいなら大丈夫と考え,指導医に報告せず自分で判断し対応する。
デキレジ 指導医に報告し,自分の解釈を伝える。
指導医から見たデキレジとはズバリ,ホウレンソウができる研修医(できる範囲のことはきちんと行い,不安があるときは必ず報告・相談し,急変時には反射的に連絡できる研修医)です。「これくらいできないと,自分はダメな研修医だと思われる」あるいは「自分は成績も良かったし,このくらいは許される」と考えている研修医は,一見優秀そうでもとっても危険なのです。
ホウレンソウは基本中の基本。やりすぎて指導医から怒られるくらいに確実に行ってください。そして徐々に,自分の勉強の成果や考えたプロセスを混ぜてみてください。 中には報告しているつもりなのに,「どうして報告しないんだ!」と怒られ続ける研修医もいます。原因は「自分が何を知っていて(何ができて),何を知らないのか(何ができないのか)」がわかっていないから。常にこのことを意識し,「知らない」「できない」ことを明示して学習できる医師になりたいものです。この訓練は怒られてナンボの研修医時代こそ最も行いやすいと思います。
研修医は足で稼ぐ! ~時間外オーダー編~
夕方,指導医の指示で,夕食後から新たな薬を患者さんに飲んでもらうことになっ
た。研修医「夕方から新しい薬を開始します。オーダー入れておいたのでお願いします」。看護師「え~,今からですか? ブツブツブツ」
ダメレジ 「これは看護師の仕事なんだし,患者さんにとって必要な薬だから,取りに行ってきてください」と看護師に依頼。もしくは「ま~正直,明日からでもいいから」と指導医の指示を無視。
デキレジ 「今時間あるので私が取ってきます。他に必要な薬あれば一緒に持ってきますよ」と自分で行く。
「研修医は足で稼ぐ」。これ,大切です。フットワークの軽さは,最終的に患者さんを救います。学んだ知識を現場で使いたいでしょうが,その前にどんどん足を動かして役に立ってください。そうすれば,必ず信頼を得ることができます。
はい,喜んで! ~病棟からのコール編~
真夜中,病棟看護師からの電話。「先生の担当患者さんが,眠れないと言っているのですが」
ダメレジ 「え,そんなことで電話してきたのですか? 病棟にある眠剤でも出しておいてください」
デキレジ 「はい,すぐ行きます」
休日や深夜に病棟から電話がかかってくることは少なくありません。「なんだよこんな時間に。明日でいいじゃん!」と思うこともあるでしょう。それでも,足で稼ぐあなたの返答は決まっていますね。
病棟から呼ばれるということは,あなた(とあなたのチーム)に何らかの落ち度があったか,患者さんの状態が良くなくスタッフが心配しているかのどちらかです。多くのスタッフは「こんな夜中に申し訳ない」と思っているもの。まずは病棟に行って,自分の目で患者さんを見ましょう。
すべては結論から! ~プレゼン編~
救急外来で胸痛を訴える患者さんを診察し,循環器内科医にコンサルトする場面で。
ダメレジ 「時々風邪とかで受診している患者さんがいまして,あ,糖尿病で糖尿病内科にもかかっています。1か月前から胸が痛いことがあるけど様子を見ていたようです。今日も胸が痛いようなので心電図と胸部X線をとり……」
デキレジ 「58歳の男性で心筋梗塞を疑っている方が来院しています。一緒にみていただけないでしょうか?」
プレゼン能力と臨床能力は比例すると言われます。研修医になると,プレゼンの機会が多くありますので,どんどん練習をしてください(自分の印象に残った症例を同期とプレゼンし合うと,シェアもできて効果的)。コンサルト時の1分プレゼンには,コツがあります。それは,結論から話すこと。多くの研修医は,例のダメレジのように,時系列に沿って,ある意味言い訳がましくプレゼンするため,何を相談したいのかわかりません。まず結論から伝えるよう努めましょう。
あなた自身の選択! ~病院への不満蓄積編~
働き始めて3か月。理不尽なことも多く,病院に対する不満が蓄積したころ……。
ダメレジ 「ほんと,ここの病院のシステム最悪だよな。指導医も全然指導してくれないし,スタッフも感じ悪いし」と後輩などに文句を言いまくる。
デキレジ 「文句言ってもしょうがない。まずは睡眠時間を確保して体調を整え,一つずつ同僚や上司に改善案を提案してみよう」と,文句を言う相手を限定し,まずは自分の体調管理を優先する。
あなたは医学部をめざし,合格しました。6年間医学の勉強をし,就職先である病院に選ばれ,あなたもまたその病院を選びました(マッチング)。医師になること,そして働く場所は,あなたが自分で選んだのです。ですから,せめて半年は文句を言わず頑張ってみてください。それでも不満があれば,周囲に愚痴るのではなく,自分で改善に向けて動いてみてください。
「研修医が何か言ったところで何も変わらない」と思わないでください。研修医・若手が元気に頑張る病院は,病院自体が元気になるとよく言われます。病院が元気になると,その地域の患者さんが元気になります。なんで自分ばかりと思うこともあるでしょうが,つまらないプライドは捨てて,患者さんのために頑張ってみてください。
頑張り過ぎないで! ~つらくなったとき編~
つらいことが重なって,「もう限界」と感じているとき。
ダメレジ 「患者さんはもっと大変なのだから,自分も頑張らなきゃ!」
デキレジ 「患者さんのためにも自分の体調を整えよう。勇気をもって明日は休みをもらおう」
「頑張って」と言ったばかりですが,一方で頑張り過ぎないでください。医師という仕事は,想像以上に大変です。研修医であっても,医師免許を持つ以上,患者さんの命,健康を預かるという大きな責任があります。さらに医療チームのリーダーとしての立場が求められます。
慣れない仕事の中,睡眠時間の短い中,つらい出来事が重なって心が折れそうになった時はこの言葉を思い出してください。
「初期研修医時代は,2年間生き延びれば十分」
研修医期間の伸び率は人によってさまざまです。同期と比べ自分はダメだと思うこともあるかもしれません(少なくとも僕はそうでした)。たとえダメだと思っても後から挽回できますし,必ず新たな未来が開けます。「生き延びる」には,研修をなんとか終える,という意味と,読んで字のごとく命をつなぐという意味が込められています。「もう無理」と思う前に,十分な睡眠と食事をとり,ただ生きることだけを考えてください。
一笑懸命 ~横林からのメッセージ~
一笑懸命。僕の座右の銘です。
自分の,自分以外の誰かの"笑"のために,懸命に頑張る人生を送りたいと思っています。どうかあなたも,あなたの患者さんの"心の笑"のために懸命に頑張りつつ,医師としても人としても人生を楽しんでください。
*
僕が初期研修を行った麻生飯塚病院総合診療科の井村洋先生は「初期研修の2年間は社会性が身につけば十分」とおっしゃっていました。また,本稿作成に当たりFacebookで意見を募ったところ,(1)あいさつができる,(2)時間を守る,(3)言い訳をしない,の3つが最優先とのアドバイスもありました。
執筆させていただいた内容には,多くの先生方のパールが散りばめられていることを,最後に申し添えたいと思います。
横林賢一氏 2003年広島大卒。麻生飯塚病院で初期研修後,生協連家庭医療学開発センターで家庭医療後期研修,在宅フェローシップを修了。10年より現職。広島大病院家庭医療専門医養成コースを立ち上げ同責任者に就任。初期研修時代,研修医としては初めて同院の"Doctor of Distinction 2004"を受賞。臨床・教育に加え研究にも力を入れており,「在宅発熱コホート研究」[第2回日本プライマリ・ケア連合学会日野原賞(学会賞)受賞],「産休・育休中のママさん皮膚科医によるITを用いた在宅・へき地診療支援研究」(2012年度文科省科研費受給)などを行っている。 |
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