第30回臨床研修研究会開催
2012.05.14
シームレスな医師養成を議論
第30回臨床研修研究会開催
第30回臨床研修研究会が4月14日,大阪国際会議場(大阪市)にて開催された。国立病院機構大阪医療センター(楠岡英雄院長)が幹事病院を務めた今回は,「シームレスな医師養成に向けて」をテーマに初期研修におけるプライマリ・ケア能力育成と卒前・卒後教育の連携に関するシンポジウムが企画された。
楠岡英雄氏 |
山中克郎氏(藤田保衛大)は,医学生・研修医を対象とした教育症例カンファの実例を提示。主訴や現病歴などの情報をもとに,必要となる問診を問いかけ,鑑別診断を3つに絞り込む。この過程においては,主訴や病歴から疾患を想起させる「キーワード」を見つけることのほか,common diseaseに特徴的な症状/所見をパッケージにして聞きまくる問診技法(「攻める問診」)の重要性を教える。こうした実臨床に即した症例検討によって診断推論能力を高めるとともに,患者さんの声にならない訴えを聴く「やさしい心」を育むことが肝要であるとした。
国立病院機構大阪医療センターの中島伸氏は,同センター総合診療部を主体として週2回開催している「寺子屋方式」の研修医教育の試みを紹介した。診断より治療が優先される状況の理解やベイズ推定の応用に主眼を置くこのカンファは,2006年に始まり通算300回以上実施している。研修医の参加は義務付けていないが,カンファ後の院内メールでの情報発信や他職種の参加を歓迎するなど,研修医教育に対する職員の理解を得るように心がけていると述べた。
各科相乗り型の救急体制の場合,研修医のプライマリ・ケアスキル習得の場に適さない場合も多い。倉敷中央病院では,2006年の救急専任医採用と総合診療科新設に合わせ,それまで見学主体だった救急研修の改善に着手した。同院の福岡敏雄氏は,救急・総合診療スタッフの拡充や専門診療科の協力が救急研修の改善を支えたと総括。さらに,研修1年目6月からの準夜帯外来研修,9月からの内科当直(単独診療は認めず後期研修医が必ず同行),研修2年目からの本格的な内科当直と救急センター研修(2か月)という「2階建ての構造」によって,医療安全と研修の充実を両立させていると語った。
最後に登壇した座長の前沢氏は,「プライマリ・ケア医学は臨床医学の本質を追求するものであって,臓器医学の入門の結合であってはならない」という故・武見太郎氏の言葉を紹介。プライマリ・ケア能力を,(1)基本的診療能力,(2)高度広範診断能力,(3)地域対応能力と定義し,特に(3)については地域医療研修の拡充(3か月を義務付け)が重要であるとの見解を示した。
卒前卒後のギャップ解消,総合力を備えた専門医育成
シンポジウム「医学部から初期・後期研修への繋がり」(座長=国立病院機構大阪医療センター・岡聖次氏,近畿大・平出敦氏)では,冒頭で「医学部教育・初期臨床研修制度に関するインタビュー調査」について日医総研の森宏一郎氏が報告。その後,医学生,初期研修医,後期研修医がそれぞれの立場からシームレスな医師養成に向けた課題を述べた。そこで複数の演者らが指摘したのが,「医学部教育と初期研修のギャップの解消(参加型臨床実習の必要性)」と「総合力を備えた専門医の育成」という課題だ。続いて登壇した前野哲博氏(筑波大病院)と藤本卓司氏(市立堺病院)が,自施設の取り組みの紹介を通してこれらの課題に対するヒントを示した。
筑波大は,78時間という全国トップレベルの参加型臨床実習時間を確保し,「臨床研修の到達目標」を用いた調査においても,医師免許取得前に多くの項目を経験している。前野氏は,大学病院での研修にはメリット(専門科や教育資源の充実)がある一方で,デメリット(common diseaseの経験を積むのが難しい)もあると指摘。市中病院と病院群を組んで教員を派遣する「地域医療教育センター」化の試みによって,デメリットの補完を図っていると報告した。
市立堺病院の内科後期研修においては,「専門内科診療の基礎となる総合的な臨床能力を養う」という方針のもと,総合内科とICUでの研修を必須とするほか,複数の専門内科をローテートすることを推奨している。しかしやはり,「専門医としての知識や手技の習得が遅れるのが不安」という研修医もいる。そんなとき,同院の藤本氏の答えは決まってこうだという。「同級生より1-2年長生きすればいいだけですよ」。たとえ医学部教育において臨床実習が拡大したとしても,後期研修におけるローテート研修の意義は変わらないと強調し,壇を降りた。
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