医学界新聞

2012.04.16

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》
運動学

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
伊東 元,高橋 正明 編

《評 者》中 徹(鈴鹿医療科学大・理学療法学科長)

セラピストによるセラピストのための運動学の教科書

 「運動学」の存在感や響きは,理学療法・作業療法を学ぶ初学者にとって,今なおそのインパクトを失ってはいないだろう。それはその学問の重要性・基幹性に加えて,外国語の教科書が多数を占めていた数十年前から,運動学には定評のある日本語の教科書が存在していたことがその大きな要因であろう。初学者は自らの希望と使命感を持ってその教科書を読み始め,繰り返し読むことで多くのセラピストの底力を形成することに大きな役割を果たしてきた。これまで運動学の教科書は外国語の書籍や,医師や研究者が執筆したものが多かったが,セラピストの人数が指数関数的に増加するという歴史の中で,セラピストがセラピストの養成課程のために書いた定本となるような教科書が現れてもよい時期が到来している。

 ここに,素晴らしい運動学の教科書が生まれた。セラピストによるセラピストのための運動学の教科書の誕生である。著者陣は日本のリハビリテーション教育や臨床で長く運動学の歴史と付き合ってきた運動学のスペシャリストの方々である。安心して,しかし少し興奮して学習できるテキストがこのサイズで世に出ること自体が素晴らしいことである。

 本書は,運動学の歴史的記述は省かれてはいるが,バランスよく力学・運動機能解剖学・動作分析学・発達学が配置されていることが特徴である。運動生理学の領域は章が起こされておらず,ほかの分野で部分的に解説されていることに若干の意見もあるかもしれないが,従来よりも運動学習の領域が意欲的に拡張されていることで全く遜色を感じない。リハビリテーションはよくよく考えれば運動学習の理論によって構成される部分もあり,そこから介入方法の多様性も発展すると考えるのは,至極当然である。とてもよく編まれた教科書であり,初学者には負担なく運動学の基本的な内容の全貌が見渡せるものとなっている。

 最後に本教科書が行った「チャレンジ」と思われる点についてお伝えしたい。学生諸君が苦手であろう運動学において必要な数式や理論式が多く提示されており,その文化への融和と理解を求めている点が第一の点である。第二はAdvanced Studiesの存在である。そこには仮説も含めた斬新的な解釈や問題提起,さらには少々難解な論理も展開されている。これらはある意味では学生諸君への挑戦であるし,著者からのメッセージでもあろう。

 コンパクトに「スタンダード」が無理なくバランスよく整理されていることに加えて,一歩踏み込んだ「チャレンジ」な記述が効果を発揮し,無難にではなく,よく思案されて編まれたチャレンジの教科書である。携帯性もいい書籍でもあるので,多くの学生諸君にぜひ使い込んでいただきたい。

B5・頁328 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00020-8


WHOをゆく
感染症との闘いを超えて

尾身 茂 著

《評 者》堀田 力(弁護士/さわやか福祉財団理事長)

 読みはじめたら止まらなくなった。そこらの小説より,ずっと面白い。

 「医学」という言葉の人間味にひかれて医学を志した筆者は,「地域医療」という言葉にひかれて自治医科大学に進み,離島勤務を経て,WHO(世界保健機関)に飛び込む。

 最初の担当が,西太平洋地域におけるポリオの根絶。この途方もない難題に真正面から取り組んだ筆者は,アジア諸国を駆け回り,専門家を集めて大がかりな戦略を立て,ワクチン購入の資金を集め,諸国の政治家を説得し,ついに中国全土の第2子以降を含む子ども8000人にポリオワクチンを投与するに至る。着任後4年目。そして目標どおり,10年にしてポリオを根絶する。

 その功あってWHO西太平洋地域事務局長に選ばれた筆者を迎えるのは,結核,そして2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)。その制圧の物語は,壮大な政治・外交の物語であり,志を抱く医師の国際協力の物語であり,そして世界中の人々が,新しく出現した強力な感染症のおそれから救い出される感動の物語である。フィクションをまったく交えない挑戦の過程が,淡々と描き出される。

 局長としての10年を含む20年間,WHOで力量を存分に発揮した筆者を,社会が手離すはずはない。帰国した筆者を待つのは,鳥インフルエンザ。

 筆者の識見も生かされ,これも治まるが,筆者は考える。「毎年出現する新しいウイルス。これは,文明病だ」と。

 そういう発想から,筆者は,日本の医療問題に突き当たる。「医療が

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