医学界新聞

対談・座談会

2012.04.09

鼎談
100年目のレヴィ小体研究
BRAIN and NERVE』(64巻4号)より

中野 今治氏(自治医科大学教授 内科学講座神経内科学部門)
河村 満氏(昭和大学教授 内科学講座神経内科学部門)=司会
水野 美邦氏(北里大学教授 神経再生医療)


 1912年,レヴィ(Fritz Heinrich Lewy)は,のちにレヴィ小体と呼ばれる封入体を発見。2012年は,レヴィ小体の発見と研究開始から100年目の記念すべき年に当たる。

 『BRAIN and NERVE』誌では,レヴィ小体研究が100年目を迎えたことを記念して鼎談を開催。本紙では,レヴィの原著に記載されたレヴィ小体の図をめぐる議論を抜粋してお伝えする(鼎談全文は『BRAIN and NERVE』誌64巻4号に掲載)。


原著の図は本当にレヴィ小体なのか?

河村 レヴィは,書籍『Handbuch der Neurologie』1)において初めてレヴィ小体について記述しています。本書は,paralysis agitans(振戦麻痺=パーキンソン病)の症例について病理解剖と臨床所見の2部構成で書かれており,第1部の病理解剖パートをレヴィ,第2部の臨床パートをフォースターが担当しています。

 さて,本書内では,(1)-(10)の10個のレヴィ小体の図(下記)が示されているわけですが,(6)はレヴィ小体ではないという指摘もありますね。

レヴィ小体とは……?

 レヴィ小体は,神経細胞の胞体や神経突起中にみられる直径5-20μm程度の円形-楕円形の封入体。エオジン好性のコアを明瞭なハローが取り囲む。黒質をはじめ,無名質,青斑核,視床下部,交感神経節などに出現する。パーキンソン病では中脳黒質や青斑核に多く出現し,レヴィ小体型認知症では大脳皮質やマイネルト基底核にも見られる。
左図は,原著『Handbuch der Neurologie』に掲載されているレヴィ小体を示した図。(1)-(6)は迷走神経背側運動核,(7)-(10)は室傍核と視床無名質(=マイネルト基底核)。脳はすべてホルマリン固定し,(1)-(6)および(8)は凍結切片,(7),(9),(10)はセロイジン包埋切片。いずれの切片にもワイゲルトのグリア媒染を施し,(1)-(6)および(8)はマン染色,(7),(9),(10)はマロリー染色が施してある。

中野 ええ。断言するのは難しいですが,(6)は迷走神経背側運動核の神経細胞で,そうしますと神経突起の中に入っている部分が図のように見える可能性があります。

水野 そうですね。軸索のほうにレヴィ小体が少し伸びているのではないかと考えられます。

河村 小阪憲司先生(横市大名誉教授)は,著書2)において,ラフォラ小体(Lafora body)ではないかと指摘されていますね。

中野 ラフォラ小体はギザギザとした縁を持つほぼ球形の構造をしており,そこに裂けたように亀裂が入っている点が特徴です。この図のような形はとらないと思われます。

 また,(7)-(10)は室傍核とマイネルト基底核なのですが,細胞体の中だとするとこのように蛇行した封入体はなかなか見られないのではないかと考えます。

水野 では,(9)もレヴィ小体とは異なるものなのですか。細胞体の中では複雑な形で存在しているのだと思うのですが,封入体が神経突起の中で図のような形状になることもあるのではないでしょうか。

中野 少なくとも黒質や青斑の細胞体の中では,このような形で見られた経験がありません。

水野 当時の切片は少し厚みがありますよね。

中野 そうですね。特に(9)はセロイジン包埋切片なので,その性質上薄く切ることができず,せいぜい100μmぐらいでしょう。

水野 (9)も薄く切ることで,切片は円形に見えるのではないのですか。

中野 薄く切ることで円形に見えているだけであり,本来は(9)のようにうねり回った形をしている,という可能性は確かに否定...

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