医学界新聞

2012.04.02

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《精神科臨床エキスパート》
多様化したうつ病をどう診るか

野村 総一郎 編
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集

《評 者》村井 俊哉(京大大学院教授・精神医学)

「私の臨床体験」を再考するきっかけとなる

 「私の臨床経験からは……」という言い回しは,20年ほど前の精神医学の専門書では,決して珍しくないものだった。そして,治療に難渋した症例についてのヒントを成書に求めるとき,諸先輩の「私の臨床経験」こそが,駆け出しの精神科医にとっては最も確かな道案内となっていた。

 時代は変わり,エビデンス精神医学の思想が浸透し,経験豊かな精神科医であっても,「私の臨床経験」を文章にして披露することには,若干の躊躇を覚えざるを得ないのが今日である。そのような現代精神医学の状況において,あえて「私の臨床経験」の披露を執筆陣に促している本書は,他書では得られない味わいがある。

 このような「私の臨床経験」は,さまざまな精神科の病気の中でも,本書が扱う「うつ病」において,特に大切だと私は思う。診断や治療について考える場合にも,例えば,うつ病と統合失調症の境界よりも,うつ病と健康の境界のほうがずっと重要で,また,SSRIを用いるのか気分安定薬を処方するのかの判断よりも,そもそも治療をするのかしないのかの判断のほうがずっと難しいように思う。

 「そうそう私もそう思う!」とか,「いや,この部分は違うと思う」など考えながら読み進めるのが,本書を読む楽しみである。「私の臨床経験」を前面に押し出されている執筆者もいれば,かなり控えめにされている執筆者もいる。本書全体で,うつ病についての網羅的知識を提供することをめざしておらず,章ごとの統一感がないところも,よい意味での本書の特徴となっている。

 「私の臨床経験」が書かれた書物とはいっても,「このタイプのこのような患者さんには,私であれば薬Aを○○mgぐらいから開始して……」といった話ばかりが披露されているわけではない。そのようなレシピ集も,それはそれで臨床経験には違いないが,そこから得られるものはあまり多くはないだろう。この本で披露されている「私の臨床経験」は,レシピではなく,それぞれの執筆者のうつ病臨床における「哲学」である。

 操作的診断基準に当てはまるか否かは別として,医師である自分自身はどこまでをうつ病と考えるか? うつ病であると自分自身が考えたとして,ではその根拠は何か? 「現代型のうつ病」などの概念の登場とともに,うつ病の臨床に携わる医師は,このような哲学的な問いを自らに投げかけざるを得ない機会がますます増えている。本書を読むことで,私自身,「私のうつ病観」を再考するとてもよいきっかけとなった。

B5・頁192 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01423-6


こどもの整形外科疾患の診かた
診断・治療から患者家族への説明まで

亀ヶ谷 真琴 編
西須 孝 編集協力

《評 者》川端 秀彦(大阪府立母子保健総合医療センター整形外科・主任部長)

読みやすく,常に手元に置いておきたい一冊

 近年の整形外科医の小児整形外科離れを危惧してか,ここ数年で何冊かの小児整形外科に関する教科書が出版されている。この書も同様の趣旨で書かれたものであるが,その内容はそれらと一線を画すものである。編者は長年にわたりこの領域に携わってきた第一人者であり,その下で研修し巣立っていった若手小児整形外科医と千葉グループ医師らの著した各項目を統一感のあるものに仕上げている。装丁は最近のこのたぐいの書籍の例に漏れず軽めで重圧感がなく,抵抗なく読み進められるであろう。

 内容は下肢疾患,上肢疾患,体幹の疾患,スポーツ障害,成長に伴う問題,腫瘍性疾患,全身性疾患の7つの章と40の項目に分かれており,比較的頻度の高い疾患を取り上げている。各項目ではその疾患に対する初期対応を中心に,知識に乏しい初期研修医や小児科医などが読んでも容易に理解できるように書かれている。特に書名の副題にもあるとおり,家族が発するであろう質問を想定し,それに対する模範的な回答をすべての項目で記載しているが,これは一般整形外科医がとまどいやすいところであり,日常診療に非常に役立つのではないだろうか。また,ブロックダイアグラムを多用して,診断・治療の流れを視覚的に示しており,多忙な外来診療の現場で簡便に参照することができる。各項目の最後には最近の話題がまとまりよく記載されていて,すでに小児整形外科を専門にしている者にとっても各疾患の現状を知ることができ,知識を整理する意味でも一度手に取ってみて損はない。

 少子化によって一般整形外科医がこどもの整形外科疾患を診る機会が減少していることは間違いないが,外来診療をしている限り,こどもを避けて通ることはできない。

 本書は非常に読みやすく構成されているので,さっと通読しただけで頭に入る内容である。一読した後は外来の机の上に常備しておきたい一冊になるであろう。すべての整形外科

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