MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.03.26
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
武田 伸一 監修
医学書院 販売
《評 者》辻 省次(東大大学院教授・神経内科学)
医学を志すすべての人に
"Fifty Years of Neuromuscular Disorder Research after Discovery of Creatine Kinase as a Diagnostic Marker of Muscular Dystrophy"は,杉田秀夫先生による筋ジストロフィーの特異的なマーカーとして血清creatine kinase(CK)の意義が1959年に発見されてから50年という節目の年を迎えて,都内で開催された国際シンポジウム(50 この書物は,二つのパートから構成されていると見るのがよい。一つは,CKの発見者である杉田秀夫先生がつづるCK発見の歴史とわが国の筋肉病学に対するメッセージである。他の一つは,"Sugita Schuleの人々"と呼んでもよいと思われる,日本の筋肉病学を担ってきた現役の研究者たち,およびDr. Bushby,Dr. Kunkel,Dr. Hoffmanら杉田先生と親交の深い国際的な筋肉病学者の寄稿による珠玉の論文集から成る。中でもDr. Kunkelは1980年代のジストロフィン発見に至る研究をリードし,ジストロフィン発見に多大な貢献をしたパイオニアであり,この論文集でも,最新の研究成果を報告している。
本書を読んで何よりも魅力的なところは,最初に登場する,杉田先生による"Fifty years after discovery of serum CK as a diagnostic marker of muscular dystrophy"である。ここでは,戦後間もない1950年に東京大学に入学したときの,一足の靴を手に入れることさえままならなかった学生生活の様子や,1954年に医学部卒業後,冲中重雄先生が主宰されていた第三内科への入局に至る経緯の記載から始まっている。ぐいぐいと引き込まれていくのは,CKの発見に至る経緯が,当時の第三内科の診療風景や関係者の姿と共に,生き生きと描かれているところである。
論文の後半では,1965年に,冲中先生が,三好和夫先生(三好型筋ジストロフィーの発見者),江橋節郎先生,豊倉康夫先生らと共同して厚生省の筋ジストロフィーの研究班を立ち上げた様子が記述されている。1988年に,杉田先生,荒畑喜一先生によりジストロフィンの細胞内局在が発見されたとき,研究班の活動に大きく貢献された日本筋ジストロフィー協会の初代理事長の河端二男氏が寄せられた言葉「病気の研究の成果は治療法として結実してこそ意義がある。患者,家族はその結実を切望している」が紹介されている。杉田先生は,その論文を"a treatment will be found very soon, but it is still a difficult task, so I hope that researchers of today can make a breakthrough."と結んでいるが,杉田先生のメッセージは,筋肉病学だけでなく,広く医学に携わる人たちに,困難にこそ立ち向かえと激励しているのである。
筋肉病学に限らず,医学を志す人たちにぜひ広く読んでいただきたい。
B5・頁152 定価5,250円(税5%込)医学書院
江本 博文,清澤 源弘,藤野 貞 著
《評 者》若倉 雅登(井上眼科病院院長)
外国の教科書などに倣い,記念すべき人名を冠して「藤野貞の図説臨床神経眼科」とでもタイトルしてほしかった待望の第3版である。その藤野貞氏は2005年12月12日,83歳でひっそりと自宅にてその生涯を閉じられた。本書の初版は,藤野氏が丹精込めて1991年10月に刊行された。自らが描かれた数々のわかりやすいイラスト,簡潔明瞭な個条書きの記載,何よりも視診を重視し,それに見合う付録と,どれをとっても藤野氏の静かな情熱と後進への思いやりが表されていた。日本人のための教科書だからと,参考文献も日本語のものを選択していた。しかし,内容は正確で,質は高かった。神経眼科の初学者だけでなく,専門だと自認する医師たちも大いに参考にした。
神経眼科という,ともすれば敬遠されがちな領域だが,眼科の臨床上避けて通れぬ領域でもあることはすべての眼科医が知っていたし,神経内科など関連領域の医師たちもこの領域の大切さに気付いていた。だが,多くの教科書はやはり難しい記載になりがちで,読破できる人は多くなかった。本書の第一版はそのわかりやすさ,必要なところを読めばよろしいという編集スタイルで,神経眼科とそれに苦手意識を持つ医師との距離をぐっと縮め,医学書としては異例の5刷を重ね,「飛ぶように売れた」と表現してよい人気を博した。第2版は2001年に刊行された。これもよく売れた。
神経眼科も,神経学,眼科学の進歩に従って進歩の速度は決して遅くない。改訂が待たれたが,本人が天国に行ってしまったのでそう簡単にはゆかない。藤野氏は47歳以降,常勤の勤務先を持たず,東大,慶大,北里大,東京医科歯科大などいくつもの大学や病院を走りまわり,論文を物するといった通常の教育方法とは違ったやり方で,患者さんをじかに診ながら臨床神経眼科の普及と啓発に努めた。今回の第3版はそうして育った弟子たちのうち,東京医科歯科大の神経眼科グループが主体となって作り上げた。
イラストは藤野氏のものをそのまま用いており,個条書きというスタイルも踏襲された。さらに,視神経炎や眼瞼けいれんなど近年の疾患概念のとらえ方の変遷が著しい項目には,適切な改訂が加えられている。上斜筋ミオキミアの掲載部位が変更されているのも新たに加わった著者の適切な判断である。開散不全の原因に意外に高頻度だが認識されていない強度近視によるものを,さりげなく加え,痒いところまで行き届いている(複視の診断のところにも記載してほしかったが)。
このように第2版にはなかった新しい項目や適切な改訂が加わり,引用文献もリニューアルされた。待ち遠しかった名著の第3版の誕生である。
B5・頁440 定価9,975円(税5%込)医学書院
丹治 順,山鳥 重,河村 満 著
《評 者》糸山 泰人(国立精神・神経医療研究センター病院院長)
私は神経内科の臨床医であるが,幸いなことに世界的な神経生理学者の丹治順先生とNIHから東北大学時代にわたり長いお付き合いをさせていただいている。それは共同研究というよりもむしろアフター5のスコッチのグラスを交わしながらのお付き合いで,私の勝手な神経学の疑問を先生に投げかけ,それに対して世界的神経生理学者のお答えを聞けるという誠にぜいたくなものである。その丹治先生から,私の退官時に重要な宿題ともいうべき議論のテーマをいただいた。それは「上位運動ニューロンなるものとは何か,そのようなものは存在しない」というショッキングなものであった。実際のところ大脳運動野の細胞のほとんどは脊髄運動神経細胞以外の細胞に出力を送っていて,脊髄運動神経細胞に対して直接出力を送っているのは極めて限られていることが知られている。私ども神経内科医が何の疑問もなく用いている下位運動ニューロンに対する「上位運動ニューロン」の概念に根本的な問題を突き付けられたわけである。この問題提起というか警告は極めて重要なものであり,本書『アクション』を世に出す動機,すなわち心とつながる意図的運動(アクション)の機序解明と深くかかわっている。
この『アクション』を読んで感銘を受けたことは多々あるが,中でも「心とつながる意図的運動の機序の解明」を理論や推論で解説するのではなく,丹治先生自らが企画したサルを用いての決して容易ではない実験系を介して得たデータを基に論理を展開されていることにある。内なる心というものから外界に働きかける合目的的アクションに至る過程が科学的データに基づいて明解に示されていることに感心するとともに感動を覚える。
本書『アクション』は運動総体の神経機構の総論に始まり,一次運動野から各高次運動野の機能分担が述べられている。私ども臨床医にとっては一次運動野はPenfield WGによるホムンクルスの体性局在マッピング,muscle representationのイメージの影響が根強くあるが,むしろ今はmovement representationの考え方で研究が進んでいることを知らされた。また,一次運動野におけるほとんどの細胞は上位運動ニューロンとしての脊髄運動ニューロンには出力を送っておらず,むしろ多くは橋を介して小脳へ,また視床や線条体,それに体性感覚野や高次運動野へ出力を送り,未知なるネットワーク形成に使われていることに驚かされる。
高次運動野とはそこを刺激すると運動が誘発され,かつ一次運動野に出力を送る領域である。それらは心に近い前頭前野から運動前野および補足運動野,前補足運動野それに帯状皮質運動野であり,おのおのの高次運動野の関与と調節を得て最終的に一次運動野にてアクションの指令がなされている。
運動前野においては,大きく分けて二つの運動に関するプロセスが働いている。それらは,認知された感覚情報を活用して意味のある動作をもたらすプロセス,それに加えて抽象レベルでのアクションプランを具体性を持った動作のプランに変換するプロセスである。
また,補足運動野においては左右の運動の協調的な側面を考えさせる多くの知見が実験データを示しながら解説されている。さらに,前頭前野においては時間的な関係が加わることも示されているが,個々の貴重なデータと論理の展開,それらの解説はぜひ本書をお読みいただきたい。
本書に書かれている一次運動野や高次運動野に関する最新の知見や論理は臨床医にとって多くの重要な情報を与えてくれる。本書を読むにつけ私ども神経内科医は今まで運動を上位ニューロン,下位ニューロンというレベルで思考停止してきたのではないかと大いに反省させられる。いずれにしろ本書は脳の中における心というものの存在,そしてそこから発する運動のアクションというものへのつながりを科学的データに基づいて解説した本であり,実に多くを勉強させていただいた。神経内科,脳神経外科およびリハビリテーションなど神経にかかわる方々には,ぜひともこの本を一読されることをお勧めする。
最後にこのシリーズの企画者でもあり,本書の共著者でもある山鳥重先生および河村満先生の深い知識に感心するとともに,お二人と丹治先生との鼎談がこの『アクション』の内容を深めたことに敬意を表したい。
A5・頁184 定価3,570円(税5%込)医学書院
日本臨床薬理学会 編
《評 者》日野原 重明(聖路加国際病院理事長)
今般,『臨床薬理学 第3版』が医学書院から出版された。本書の初版は,日本臨床薬理学会責任編集の下に,中野重行教授(大分大学名誉教授/国際医療福祉大学大学院創薬育薬医療分野長),安原一教授(昭和大学名誉教授/昭和大学医学振興財団理事長),他4名と新進の研究者,計57名を招集し,1996年に出版された。
これまで基礎的な薬理学の専門書はあったが,本書は薬理学の臨床分野で働きつつ研究する医師,薬剤師のほかに,臨床医,さらには医学生,看護学生やその大学院生のための最高のテキストとなることをめざして作られたものである。
今後,医師と薬剤師とのよき協力体制はますます強化されなければならない。そのような背景のもと,医学における臨床薬理学分野の方々と,薬学における医療薬学分野の方々との協力により,臨床薬理学の専門書として計画されたのが,この教科書といえる。日本臨床薬理学会の専門医制度(1991年発足)と認定薬剤師(1995年発足)のための教科書としても使われよう。
本書は,1996年の初版から2003年には第2版を,2011年には,大改訂で今回の第3版を出版するに至った。患者のための薬物治療のレベルアップのために,本書の寄与する役割は大きい。本書が学習のためのテキストとして,臨床医学,看護学に従事する多くの方々に用いられることを期待したい。
B5・頁464 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-70081-8
待ち遠しかった名著の第3版の誕生
ISBN978-4-260-01375-8
山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集
心とつながる意図的運動の機序を科学的データに基づいて解明
ISBN978-4-260-01034-4
中野 重行,安原 一,中野 眞汎,小林 真一,藤村 昭夫 責任編集
薬物治療のレベルアップのために不可欠なテキスト
ISBN978-4-260-01232-4
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