初期診療能力を身につけよう(田中和豊)
インタビュー
2012.01.09
【interview】
「疾患志向型」から「問題解決型」へ
初期診療能力を身につけよう
田中和豊氏(済生会福岡総合病院 臨床教育部部長)に聞く
このほど『問題解決型救急初期診療』(医学書院)の第2版が発行された。本書は,救急医療の現場で遭遇するさまざまな症例に対して,主訴や症状からのアプローチをまとめたもの。著者は,小紙にて「臨床医学航海術」を連載していた田中和豊氏だ。「研修医が1人で診療を行わなければならないときの手助けとなるように書いた」と語る氏に,本書の紹介に加え,初期研修医が充実した研修期間を過ごすためのヒントを聞いた。
患者が抱える“問題”から疾患を考える
――「問題解決型」とはどのようなものなのでしょうか。
田中 「問題解決型」とは,患者が抱える主訴や症状といった“問題”を中心に据え,そこから原因を考え,治療を行っていくという方法論です。従来,医学は疾患別・臓器別に体系化されてきた言わば「疾患志向型」の学問ですから,それとは相対する方法論と言えるかもしれません。
――「問題解決型」が,なぜ救急の現場に必要なのですか。
田中 救急の現場においては,診断のついた状態で訪れる患者よりも,「腹痛」や「頭痛」という主訴や症状のみを抱えて訪れる患者のほうが圧倒的に多い。そのため,救急室においては,患者の抱える問題と対峙し,そこから内科・外科・産婦人科・精神科などできる限り多くの鑑別診断を考慮し,系統的に診断を行い,治療方法を決定する「問題解決型」の方法論が求められるのです。
研修医時代の経験が一冊の本に
――「問題解決型」の発想の原点は,ご自身の経験に基づいたものなのですか。
田中 私自身の研修医時代の経験に基づいています。
私が研修を行った救急室は,各科別の救急室ではなく,風邪や外傷から心肺停止までありとあらゆる症状の患者を診る,今で言う「北米型ER」に近いところでした。自分1人で何とかしなければならない場面も多くあり,どのように対応すべきかわからない場合は,多くの医師が経験しているように,とりあえず検査を行って時間を稼ぎ,その間に書籍で調べる,ということをしていました。
しかし,これがまた大変な作業でした。当時の救急のマニュアルというと3次救急の最重症例を想定して書かれたものばかりでしたし,その他のマニュアルも症候別・臓器別・専門科別に特化して書かれたものが中心でした。そのため,いくつかの科にまたがって考えるべき腹痛や頭痛といった症状を持つ患者を診る際は,鑑別診断のためにある書籍を開き,診断がついたら治療方法を決定するためにまた別の書籍を開く,ということを行う必要がありました。効率のよい方法ではなかったので,各領域の症候や疾患をカバーし,問診・診察・診断・治療までのプロセスが一貫して書かれた書籍が,救急の現場には必要だと感じていました。
――研修医時代に,「問題解決型」の重要性を身をもって認識されたわけですね。
田中 ええ。ですから,本書をまとめるに当たっても,「自分が研修医のときにあればよかったのに」と思える本にしようと考えていました。
また,執筆時に意識した点は,百科事典のように知識のみをまとめるのではなく,現場で必要な「考え方」を示すことです。「この症状があったらこの疾患」「この疾患に対してはこの治療」と暗記することが大切だと思っている研修医も多いようですが,そんなことはありません。多種多様な疾患を診る救急医療において,そのすべてに必要な情報を暗記するなんてことは不可能です。重要なのは,それぞれの症状や症候の基本的な原理を押さえ,その場その場で考えていくことです。本書においても,各症候の項目の冒頭に「アプローチ」という形で基本原理をまとめ,あとは個人の診療現場に合わせて臨機応変に対応できるよう,考え方の道筋を提示することに注力しました。
本書は,救急室で当直する研修医が自分1人だけでも診療を行えるだけの情報がまとまっており,さらにその後の学習にも役立つ内容になっていると思います。
まずは「当たり前」のものから
――開始から6年間にわたり続いた連載「臨床医学航海術」も,2011年12月(第2956号)をもって最終回を迎えました。本連載において最も伝えたかった点は何ですか。
田中 連載の中で紹介した,12にわたる「人間としての基礎的技能」(表)の習得の必要性をあらためて強調しておきたいと思います。
表 人間としての基礎的技能 | |
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