医学界新聞

2012.01.02

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《神経心理学コレクション》
ふるえ [DVD付]

柴崎 浩,河村 満,中島 雅士 著
山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集

《評 者》宇川 義一(福島医大教授・神経内科学)

著者らの神経内科医としての豊富な経験がにじみ出た一冊

 今回,医学書院から『ふるえ[DVD付]』が,神経心理学コレクションの一つとして出版された。この題名のコレクションに,“ふるえ”を入れる出版社と河村満先生のセンスに感激するとともに,柴崎浩先生を著者に迎えられたことにも感謝する。柴崎先生は,私自身が若いころから目標としてきた先輩であり,自分が書評を書くことに躊躇する感じがあるが,せっかくの話なので光栄と思いお引き受けした。

 まずは本の題名に同感した。内容からすると,“不随意運動を10倍深く理解する”とでも言えるものなのだが,あえて“ふるえ”としている。患者は,ほとんどの不随意運動を,時には筋力低下の症状の一部を“ふるえ”と言って来院する。そこであえてこの題名にされたのではないかと推察する。このように,あえて一般的な言葉を題名に使われたことには,3人の著者の臨床家としての真摯さが表れているように私には感じられる。

 内容は,柴崎先生の貴重な臨床経験に基づくビデオを中心に,河村先生,中島雅士先生が鋭い質問をしていく展開になっており,3人の著者の神経内科医としての豊富な経験がにじみ出ている。ある程度の経験を有する神経内科医にとっては興味深い読み物という印象を持つ。そして,臨床神経学だけでなく,著者らの神経生理に基づく考察のレベルの高さが,内容をさらに濃いものとしている。加えて,序文にも書かれているが,その内容を最近の文献も含めてup dateしている。本文の内容の中で,著者の先生方を目標にしてきた神経内科の後輩として,感激・同感した点がいくつかあったので,それらを紹介して私の任務を全うしたいと考える。

 不随意運動の触診:一般的に不随意運動の診察では,患者をよく観察しなさいといわれる。その成果として今回DVDを伴った本が出版されたわけである。その上で,本文の何か所かで“不随意運動を触ってみてください,触れてみてください”という表現が使われている。これは,私も日ごろ実感していたことで,回診でも時々不随意運動の触診をしている。この手法は,特にミオクローヌスと振戦の区別に役立つ。先輩の先生方と同じことを自分が実感できていることに感激するとともに,これから神経内科医として育つ,若い先生方にぜひ不随意運動の触診をしていただきたく思う。

 不随意運動の複雑さ:不随意運動というと,多くの種類がありわかりにくく,親しみにくいというイメージが医師全体にあるとともに,神経内科医の中でもその印象があると考える。そのような中で,本書53ページ,図20に示された不随意運動を診る手順は,多くの初学者にとって役立つものと考える。わかりにくい概念を,まず大まかにとらえる指南といえるであろう。大まかにとらえた後で,一つひとつ詳しく診ていくことになるであろう。また,一連の記述の中で,不随意運動も随意運動と同様に,その内容の複雑さによって発生機序も考慮しながら診察していく姿勢にも同感した。ミオクローヌスが最も単純で,振戦が次にあり,その他舞踏運動,ジストニー,ジスキネジアなどが複雑になっていく。そして発生機序を考えると,単純なものほど運動のcommon pathwayに近いレベルで発生していて,感覚運動野や小脳が関与し,複雑な動きになると大脳基底核が大きく関与するという印象にも同感した。もともと正常の運動を起こす機序の破綻が原因で不随意運動が起きるのであり,正常運動生理を極めた著者だからこそ言える内容であろう。

 そして興味深いのは,不随意運動の中でも振戦とミオクローヌスの映像が多い点である。ある意味,単純で生理学的解析がしやすいこの2つの不随意運動の内容が増えるのは当然の帰結と考える。私自身が書いたある本の書評で,やはりこの2つの占める割合の多さを指摘されたことがあり,それを思い出した。

 どれかに当てはめずに記述したほうがよい:物事を知り始めたときには,それが何であるかを判断できることが重要で,判断したら解釈したと思ってしまう傾向は誰にでもある。同じことが不随意運動の診察でも起きる。患者を診て,その不随意運動に名前を付けたらわかったと考えてしまう。しかし,一人の患者にある不随意運動は一つではないことも多く,さらに今までに記述のないものかもしれない。そこで,十分納得できないときは,無理矢理何かに当てはめるのではなく,その内容をよく記述し,ビデオに撮っておくことを推奨している。これも同感で,無理矢理当てはめるのはやめるべきである。しかも記述では十分伝わらないこともあり,ビデオ撮影が重要であろう。このことは,以前私が所属した東大神経内科の教授であった金澤一郎先生からも教えられたことである。皆さんも肝に銘じてほしい。

 最後になるが,不随意運動の本の中に肢節運動失行が含まれている点が,特徴の一つである。河村先生,中島先生の意向であろう。確かに,しばしば不随意運動と失行の区別が難しいことがあり,興味深い企画と考える。

 ビデオという手段がない時代には,職人芸として“見て学べ”と言われてきた内容を,DVDのおかげでこのように出版物として後世に伝えられる時代になった。神経内科の初学者には少し難しいがためになり,経験を積んだ神経内科医には深みのある,非常に優れた本になっていると判断する。ぜひ,DVDを観ながら通読していただきたい一冊である。

A5・頁152 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01065-8


大腸肛門病ハンドブック

辻仲 康伸 監修

《評 者》土屋 周二(横市大名誉教授)

エキスパートの知見を提供する集大成

 本書は簡便なガイドブックというより,この分野の全体を網羅した成書である。ご承知のように大腸と肛門は密接な関係があり,この両者を一体とした知識と技術を基にした専門的な医療が求められる。近代,欧米ではそのような視点から水準の高い施設がつくられていったが,わが国では少し遅れ1970-80年代ごろから各地にセンター的施設が創設され,優れた実績を挙げている。またオーストラリア,アジア諸国地域にも欧米の一流施設に比肩するものができ,その水準も高い。有名なGoligherの名著は既に1961年に刊行されたが,その後世代が代わり,内容を新たにした成書が内外で次々に発刊されている。

 本書の監修者である辻仲康伸氏は,外科,特に大腸肛門病について修練と研究を積まれ,評者の現職時代には大変に教えられるところが多かった。そして高い志を持って大腸肛門病専門の施設を開設されたのである。約20年が経過した現在では...

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