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医学界新聞

2012.01.02

新春随想
2012


がん対策推進基本計画――新たな5か年に向けて

門田 守人(がん研有明病院副院長/がん対策推進協議会会長)


 がんは1981年以来わが国の死因の第1位を占め,国民の半数ががんにかかり,3分の1が死亡している。これを背景に,2006年に「がん対策基本法」が成立し,2007年4月の施行となった。この法律の基本理念は,(1)がんの克服をめざし,がんに関する専門的,学際的または総合的な研究を推進するとともに,がんの予防,診断,治療などに係る技術の向上,その他の研究などの成果を普及,活用,および発展させること,(2)がん患者がその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにすること,(3)がん患者の置かれている状況に応じ,本人の意向を十分尊重してがんの治療方法などが選択されるようがん医療を提供する体制の整備がなされること,とされている。この法律に基づき,2007-2011年度の5年間の「がん対策推進基本計画」が策定・実行されてきたが,第1期は2012年3月をもって終了する。

 厚生労働省は,2010年6月に第1期基本計画の中間報告書を公表したが,それによると全体目標の一つの「10年でがんの年齢調整死亡率(75歳未満)を20%減少する」としたことについては,おおむね目標どおりに進んでいる。

 一方,もう一つの全体目標である「すべてのがん患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の維持向上」において,量的な目標についての計画は進んでいるものの,苦痛や療養生活のいわゆる「質」の面については,いまだに指標の設定さえも明確にされていない。

 がん患者があらゆる時期に経験する身体的苦痛や精神的苦痛を軽減することは患者や家族の願いであり,医療者には科学的な視点に立った対応が求められる。協議会の意見としても,適切で測定可能な指標を早期に設定することの必要性が強調されている。

 次期計画では,種々の領域において形式的な数値で表される「量」よりも,「質」を表すことのできる指標を定め,その実行をめざすことが重要だろう。


移植医療のこれから

寺岡 慧(国際医療福祉大学熱海病院院長/前・日本移植学会理事長)


 改正臓器移植法が施行され1年有余が経過した。法改正は臓器不全のため移植を待ち望んでいた多くの患者にとって悲願とも言えるものであった。思い起こせば1997年に臓器移植法が制定されたが,極めて限定的なものであった。それは臓器不全との絶望的な闘病生活を強いられてきた患者にとって,いちるの希望をもたらすものではあったが,年間10件前後の臓器提供では,その恩恵に浴する患者は極めて少数にすぎないという厳しい現実には変わりなかった。

 この半世紀の医学の進歩により,臓器移植の成績は飛躍的に向上した。しかし,わが国においては,治療法は存在してもその治療を受けられないために多くの患者が生を奪われていった。医学・医療の大きな目標のひとつは,治せるはずの患者を確実に治すこと,治せない疾患をやがては治せるようにすることであるはずではないだろうか。

 臓器移植法の改正で,本人の意思が不明でも家族の書面による承諾により,脳死後,臓器の提供が可能になった。移植を待ち望む患者にとっては大きな福音と言えよう。2010年7月の改正法施行以来69件(2011年12月1日時点)の尊い,善意による臓器の提供が行われ,多くの生命が救われ,健康を取り戻している。しかし,それでもなお多くの患者が移植を待ち望んでいることに変わりはない。臓器提供を増加させ,一人でも多くの患者を救うためには,社会の移植医療への理解・信頼の確保,提供施設の負担軽減など,課題が山積している。さらに生命の大切さ,尊厳について,特に次世代を担う若い世代への啓発が重要だろう。

 現代ほど生命の尊厳が軽んじられている時代はないだろう。自殺,虐待,いじめ,テロ,戦争,飢餓,災害などのため,「救えるはずの多くの生命」が失われている。生命は有限であり,一度限りのものである。だからこそかけがえのないものであろう。またどの生命にも必ず終わりがあり,生の終わりに際しての選択肢のひとつとして臓器の提供があり得る。より普遍的な,生命の根源にかかわる問題として,終末期医療,延命治療,尊厳死などの問題とともに,臓器提供について考え,話し合い,自身の意思を表示する運動を進めたいと考えている。今生きている生命を大切にし,治せるはずの,救えるはずの多くの生命を救うために。


団塊の世代の老後を考える

辻 哲夫(東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)


 団塊の世代の代表(1947年生まれ)が2012年に65歳を迎える。この世代の多くはサラリーマンで,これを機に会社との縁が切れ,住まいのある地域を中心とする生活に移行するだろう。そして,2022年には彼らも後期高齢者となり,日本の後期高齢者は激増する。これが主に大都市圏のベッドタウンで起こるのである。

 あえて悲観的なシナリオから述べる。「生活不活発病」という言葉があるように,やがて彼らは家に閉じこもりがちとなり,多くの人が要介護となる。と同時に,大都市圏の急性期病院は入院患者急増で機能停止する。一方,残念ながら日本は増税に失敗し,社会保障が拡充できず,多くの高齢者は地価の安い遠隔の地に追いやられ,孤独死が増える。そんな暗い社会になる恐れがある。もちろんこんなことがあってはならない。

 東京大学高齢社会総合研究機構では,首都圏ベッドタウンの典型である千葉県柏市で,「柏プロジェクト」に取り組んでいる。高齢者は地域で生きがいを持って就労でき,人と人との触れ合いを楽しんで,できる限り元気でいてほしい。たとえ弱っても,在宅医療を含めた24時間在宅ケアシステムの下で,地域内に整備された高齢者向け住宅も活用して,住み慣れた地域で安心して住み続けてほしい。そんな地域をめざすものだ。全国に普及するには増税の国民的コンセンサスを取り付け,社会保障にさらに財源を投入することも不可欠だろう。

 超高齢社会は,経済が急速に発展したことに伴い生じるものと言える。それが暗いものになるとしたら,「戦後の経済発展とは一体何であったのか」ということになりかねない。日本の経済発展を支えてきた団塊の世代が,営々として獲得した自分の住まいのある地域で,子どもたちとも交流しながら安心して老いることのできるシステムがつくれるか。この世代が後期高齢者になるまでの今後十数年間が日本の一つの歴史的な勝負時と言える。


新年のご挨拶――大震災2年 元旦

色平(いろひら) 哲郎(JA長野厚生連佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長)


 新年,明けましておめでとうございます。

 今年はかつてない

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