医学界新聞

2011.11.28

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


介助にいかすバイオメカニクス

勝平 純司,山本 澄子,江原 義弘,櫻井 愛子,関川 伸哉 著

《評 者》市川 洌(福祉技術研究所代表)

人の動きを力学的に把握することにより,合理的な介助方法を考える

 人の動きを介助するということはとても難しい。介助の原則は,「自分でできることは自分でする」である。ところが,実際に介助支援の現場などで見ていると,本人がある動作を「できない」と見ると,介助者は直ちにすべてを介助してしまう。

 「何かができない」という事象に遭遇したとき,介助の原則で考えるなら,なぜできないかを考え,できない部分を福祉用具あるいは人手で補完することによってできるようにする,というのが原則である。ベッドからの立ち上がりなら,足を引き,体幹を前傾させ,ベッドを高くし,ベッド柵を利用して立ち上がる。これでも困難な場合には介助者が重心を前方に誘導したり,場合によって手を引いたり,という介助をする。一人一人の動きをアセスメントした結果に基づいて,必要な支援を行い,不要な支援は行わない。

 このような支援を行うためには,人の動作を科学的に把握することが必須である。障害のある人の動きを運動学的に,力学的に(すなわち,バイオメカニクス的に)把握することによって,客観性を伴った介助の方法が確立される。

 本書は,人の動きをバイオメカニクス的に把握することによって,合理的な介助の方法を考えようとするものである。介助にかかわるものであれば,必須のバックグラウンドであると考えられるが,力学的な考え方が苦手な人は多い。本書はこの力学的な考え方をわかりやすく記述して,理解を促している。力学的な説明が丁寧なことと,実際の人の動きに即して説明しているので,福祉系・医療系の方々にとって,わかりやすいものになっている。

 このバイオメカニクス的に把握した人の動きに基づいて,具体的に介助の方法はどのようにすべきかに関しても丁寧に記述されている。立ち上がりから,歩行,階段昇降など日常的に実行される具体的な動作に関して解説している。もとより,介助の方法は単数ではなく,人の状態に応じて,多数の介助方法が必要であり,単純に方法を覚えようとすると大変な作業になる。しかし,人の動きの原理(バイオメカニクス)が理解できていれば,一人一人の状況に応じて適切な方法を考えることはたやすいことである。ともすれば方法だけを考え,教えがちな介助の現場に対して,原理を考えることによって,合理的・科学的で適切な介助が可能となることを本書は教えてくれる。これまでこのような成書がなかったということが,わが国の介助技術の現状を示しているともいえよう。

 同様に,車いすなどの福祉用具の適合においても,人の動きを理解し,人と福祉用具のバイオメカニクス的な把握なくして適切な適合はあり得ないといえよう。これまでとかく感覚的に議論されてきた福祉用具の適合に関して,客観的な根拠を考えることの必要性を本書は示している。

 なお,本書の著者たちは今更言うまでもなく,歩行を中心とした動作解析に関しては国内だけではなく,国際的にも第一人者であり,パイオニアでもある。これらの知見が具体的な介助の領域に応用されてきたということは,すばらしい展開であるといえよう。

B5・頁216 定価4,095円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01223-2


消化器外科のエビデンス
気になる30誌から 第2版

安達 洋祐 著

《評 者》渡邊 昌彦(北里大教授・外科学)

考える外科医を育てる上でうってつけの楽しい「読み物」

 私は,外科に入局して1年目に長野県の小さな市立病院に出張した。生まれて初めて本格的な手術の手ほどきをしてくれた外科部長から,胃切除後や結腸切除でドレーンは不要,胃管は手術翌日に抜けと教わった。翌年,大都市の基幹病院に出張した私は,ドレーンは5日以上留置,胃管は排ガスがあるまで置くようにしつけられた。当時の私は疑うことを知らず「どちらも理屈は通っている」と自分を納得させ,しばらく,いや長年にわたって郷に入ったらそのまま郷に従ってきた。

 8年前現在の職に就いた。ところが新しい職場での術後管理の常識は,胃管,ドレーン,抗菌薬,包交(驚くなかれ,毎日毎日ドレーンや創のガーゼを交換していたのである)にはじまって,あらゆることが自分にとっての非常識であったのだ。こうなったら自分の常識を押し付け,近代化する以外に道はない。しかし若手に経験則を押し付けるだけでよいのだろうか。指導者として「彼らを理論的に納得させる義務がある」のである。しかし,「いちいち些細なことで文献など調べてはいられない」と自問自答を繰り返していた。

 ちょうどその頃,安達先生から本書の第1版をいただいた。ページをめくるごとに幾枚もの鱗が私の目からボロボロ落ちるではないか。回診時,「ネタ」を明かすことなく,術後管理はもとより治療法について,医局員を前に滔々と本書のエビデンスを唱えて歩いた。そのうちに,本書は考える外科医を育てる上でうってつけの楽しい「読み物」だということに気が付いた。日常診療の「なぜだろう……,なぜかしら」が研究,とりわけ臨床研究の萌芽である。ある日,私は正直にネタばらしをして,教室員に本書から興味ある話題を選び,その参考文献を実際に読むよう促した。

 第2版では第1版より内容が充実し,消化器外科の最新の知見が盛り込まれている。古くて新しい術前術後の素朴な疑問,さらには緩和医療や末期患者の心のケア,自殺企図に至るまで外科臨床の話題満載である。目次をめくるだけで安達ファンはワクワクすること請け合いである。

 本書のすごいところは癌告知や臨死ケアの現実についても,感情を抑えエビデンスに基づき淡々と記されていることである。ここに安達先生の科学者としての真髄がみてとれる。そればかりではない。今回加えられた「偉大な先人:私が選んだ30人」と「研究の...

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