医学界新聞

2011.11.14

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準作業療法学 専門分野》
作業療法学概論 第2版

矢谷 令子 シリーズ監修
岩崎 テル子 編

《評 者》古川 宏(神戸学院大教授/総合リハビリテーション学部長)

学生の目線に立ってまとめられた良書

 作業療法士をめざす学生の道案内である『《標準作業療法学 専門分野》作業療法学概論 第2版』が,初版から6年,社会情勢の変化と法制度の改正に合わせ,理解しやすいように章の構成も改めて出版された。執筆者は臨床経験・教育経験が豊富なベテランばかりであり,学生の目線に立ったわかりやすい文章で解説してある。また,教科書としてシリーズの統一を図るために,学習内容の到達目標を一般教育目標(General Instructional Objective; GIO),行動目標(Specific Behavioral Objectives; SBO)ごとに明確にし,修得チェックリストで学習者が確認できるような方式になっている。学生,教員が編集者の意図をくんで有益に利用することで教育効果も上がるものと考える。

 「作業療法」とは,「身体又は精神に障害のある者,またはそれが予測される者に対し,その主体的な生活の獲得を図るため,諸機能の回復,維持及び開発を促す作業活動を用いて,治療,指導及び援助を行うこと」(日本作業療法士協会)と定義され,対象,目的,方法が明確に定められている。残念ながら「作業活動」の解釈が受け手によって違うため,一般社会,学生,専門職の間でも「何となくわかり難い」と言われてきた。地域リハビリテーション施設の施設長から「理学療法士がいなかったので初めて作業療法士を採用したら,私たちの施設では作業療法士のほうが利用者・患者のニーズに合っていることがわかった。来年は複数採用します」といった話を聞く機会が多い。実際体験して初めて作業療法の良さを理解してもらえた例である。しかし,これでは困る。学生は在学中に作業療法を他人に説明できるようになっていること,臨床現場では対象者にわかりやすく説明できること,作業療法士協会は関連職種,一般社会に作業療法を正しく伝えること,それによって評価される必要がある。そのためにも本書が必要である。

 第2版の内容を紹介すると,序章では学習マップを用いて,第5章および終章までのSBOを列挙し,学生に対し内容説明,知識などを100字程度で解説している。第1章「作業療法とは」では,作業の意味と作業療法の歴史,原理・理論,サービス適応範囲,国際生活機能分類(ICF)について必須知識を解説している。第2章「専門職としての作業療法士」では,専門職の心構え,必要とされる人間性,知識,技術,チームアプローチ,研究法,EBM,法制度を解説している。第3章「作業療法の過程」では,資料収集,面接,評価,問題点の抽出,治療・指導計画の立案,実施の具体的な内容をまとめている。第4章「作業療法の実際」では,身体,精神,発達,高齢期,地域の各分野における作業療法の実例を学ぶ。第5章「作業療法部門の管理・運営」では,部門の管理運営,診療報酬など,および医療経済学を学ぶ。最後に,作業療法教育と今後の展望を解説している。

 本書は,編者の岩崎テル子氏の緻密(ちみつ)で隅々まで配慮された気配り,情熱でまとめられた良書であり,作業療法関係者はもちろんのこと,関係専門職者にもぜひお薦めしたい。

B5・頁288 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01210-2


介助にいかすバイオメカニクス

勝平 純司,山本 澄子,江原 義弘,櫻井 愛子,関川 伸哉 著

《評 者》石井 慎一郎(神奈川県立保健福祉大准教授・リハビリテーション学)

エキスパートの英知を結集し生み出された,比類なき洗練された書籍

 介助の方法論を力学的にそれらしく解説している書籍は,これまでにも多く出版されている。しかし,必ずしも力学が正しく理解されていなかったり,紹介されている介助動作が実際的でなかったりと,いま一つ納得のいく本がなかった。とかくバイオメカニクスの書籍は解説が難解であり,内容を理解するために専門的な知識が必要になる。一方,介助技術の書籍は,経験則だけで解説されていて,理論的な裏付けが乏しかったりするものだ。

 経験則を理論的に説明したり,ヒトの身体運動を力学的に説明したりするには,豊富な臨床経験とバイオメカニクスの知識が必要になる。この両者を兼ね備えた著者と言えば,国内をくまなく探しても,そう多くは居ないだろう。本書の著者に居並ぶ面々は,介護,バイオメカニズム,理学療法,義肢装具の各分野におけるエキスパートたちだ。表紙を見ただけで,おのずと期待感が高まってくる。

 本書を読み進めていくうちに,「こりゃー期待以上の本だ!」と驚かされた。介助技術のHOW TOを,バイオメカニクスを使って説明している内容と思いきや,バイオメカニクスの基礎から応用までが系統立てて解説されており,身体運動のメカニズムや各種症例の異常動作の力学的解釈が的確に解説されているのだ。その上で,介助の方法を提示している。まぁーその道のエキスパートが集まって書いているのだから,当然と言えば,当然のことなのだが,その洗練された内容は類似書を凌駕する充実度合いであると言っても過言ではない。「すごい本が世に出たものだ……」とついつい溜息が出てしまう(実は,私もこんな本が書きたかったのだ……)。

 本書『介助にいかすバイオメカニクス』は,介助の技術論を記した書籍というよりも,バイオメカニクスの臨床応用を基礎から解説したバイブルと言っても良いだろう。バイオメカニクスを基礎から学び,それを臨床に応用したいと考えている専門職にはお薦めの書籍だ。

 「その道のエキスパートの英知が結集して生み出された比類なき洗練された書籍」

 それが私の本書に対する認識である。

B5・頁216 定価4,095円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01223-2


臨床心臓構造学
不整脈診療に役立つ心臓解剖

井川 修 著

《評 者》平尾 見三(東京医歯大病院不整脈センター長)

心臓構造学の習得に大いに役に立つ名著

 待望の本が出版された。井川教授の心臓解剖の講演会が開かれると,まず満席になり講演後の質疑応答も活発で時間が足りなくなる。それだけ人気がある。書評子も例外ではなく,臨床的見地から入って精緻(せいち)を極めた心臓解剖学へ導く井川講演のファンの一人で,この本の登場を心待ちにしていた。多くの解剖図と解説文,それらを体系的に構築・解析する独自のシェーマが加えられて,このたび『臨床心臓構造学』という珍しいタイトル名の本書が上梓された。

 目次を俯瞰すると,通常の解剖学の教科書でないことがわかる。これまでの解剖書があくまでも解剖専門家の視点で書かれたことを思うと,不整脈臨床家としての視点で本書が書かれていることが斬新で...

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