MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.11.07
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
山内 俊雄,小島 卓也,倉知 正佳,鹿島 晴雄 編
加藤 敏,朝田 隆,染矢 俊幸,平安 良雄 編集協力
《評 者》融 道男(東医歯大名誉教授/メンタルクリニックおぎくぼ院長)
最新の精神医学の情報に感銘
専門医制度は提唱以来約半世紀を経て,ようやく軌道に乗ってきている。第3版は半数以上の章で筆者が交代し,全体的に書き直された。増ページを含めた大幅な改訂がなされ,一層充実した新しい教科書を読んだ。最新の情報に感銘を受けたページが多々あった。私は,その中から,若い精神科医に読んでいただきたい項目として3か所を選んだ。
まず,新井康允による『性機能』(92-99ページ)では,男女の性差から始める。『精巣と卵巣の分化』について,図1-37に性腺原基の性分化を基礎的によくわかるように解説している。「思春期発動に最も重要な役割を果たすのは,視床下部にあるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を産生し放出するGnRHニューロンの働きである」。と図1-38で下垂体系を含めたGn分泌調節の働きが性機能調節にフィードバック作用で重要な役割を果たしていることを示している。
『月経周期の内分泌』について,卵巣ホルモン(エストロゲン,プロゲステロン)と下垂体前葉ホルモン(LH,FSH)を図1-41に適切に図解している。『更年期』は「卵巣機能(エストロゲン)の衰退である。女性の多くの臓器・組織にエストロゲン受容体が存在しているので」「臓器・組織に急性,慢性のさまざまな障害をもたらす」。また,サルの実験を引用し「アカゲザルの妊娠中の母親にアンドロゲンを注射」すると,「生まれた雌の子ザルの遊びパターンが雄の子ザルのパターンを示すようになる」。「幼児期の遊びのパターンの性分化に胎児期のアンドロゲンが鍵を握っていることを示している」。おわりに,「空間認知能力の発達に胎児期のアンドロゲンが重要な鍵を握っている可能性を示している」。性機能について,新所見を含めて興味深い章である。
次に,臺弘が書いた『精神医学の基本』(122-125ページ)を読んだ。専門医制度は日本精神神経学会の長崎総会(1968年)で臺理事長が発議したことから始まっている。また臺弘の『精神科治療の3本柱』は,「薬物療法と精神療法と生活療法」である。「生活療法」を提議して,「百姓・二宮尊徳をその開祖として注目した」。「二宮は道徳を説くとともに生活の基礎の経済要件を整えた」。また,「不時の必要や飢饉に備える長期的展望も心得ていた」尊徳は,多くの町村を復興させた。患者さんについては,「精神障害者の苦労は〈暮し下手〉と〈生き辛さ〉といわれる」。
「若い精神科医」についても書いている。「先輩や同僚からの貴重な手本に学ぶ」が「手痛い失敗を悔む場合もあろう。同時に当人は患者が誰にも勝る先生であることを悟るに違いない」。また,「治療の現場で自分の〈心〉と〈体〉が相手の〈心〉と〈体〉に協応して作りあげる構えこそが,臨床医の生活場面となる」。私にとっても,これは,臨床精神科医として大いにためになる文章である。
最後に,牛島定信による『対象による諸問題』(261-267ページ)については,精神療法の中で『3)統合失調症』を選んだ。ここには専門医をめざす若き精神科医が常に心掛けておくべき心得がよく示されている。「ひと口に精神療法といってもさまざまである」。「統合失調症の精神療法を行うときに重要なことは,神経症と違って現実検討能力がないという認識である。したがって,内的な不安や葛藤を暴いたり,年齢相応の社会的役割を強いたりすることの危険については,十分に承知しておかねばならない」。また,「社会のしくみに十分に対応できる自我の状態にないために,薬物療法や個人療法はもちろんのこと,体系的な社会療法を準備しておく必要がある」。「すべてが悪意をもった人間であるという恐怖に包まれているので,いわゆる常識的なかかわり方では不安,恐怖を招きやすい」。そして,「自我が弱体化しているので,周囲が守ってやるような治療構造が求められる」。牛島の,『1)神経症性障害』『2)パーソナリティ(人格)障害』『4)気分障害』の精神療法も短くても深い内容で参考にすべきである。
B5・頁848 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00867-9


上肢運動器疾患の診かた・考えかた
関節機能解剖学的リハビリテーション・アプローチ
中図 健 編
《評 者》福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)
丁寧な観察眼と機能解剖に則してまとめられた良書
本書は作業療法士である中図健先生をはじめとした5名の執筆者が上肢運動器疾患に絞って,治療概念を披露された意気軒昂な良書である。
頚椎,肩関節,肘関節,前腕,手関節,指関節の6章から成り,おのおのの章は「基本構造」「おさえておくべき疾患」「臨床症状の診かた・考えかた」「治療方法とそのポイント」「ケーススタディ」の5項目から。「基本構造」は解剖学と運動学であり,多くの図を駆使したわかりやすいレビューで構成されている。「おさえておくべき疾患」では臨床上,頻繁にみる症例を中心に疾患の定義・成因・好発年齢・予後,および整形外科的な診断基準や臨床症状,通常よく行われる治療方法について述べられている。
しかし恐らく,本書の最も特筆すべき内容は,各章における「臨床症状の診かた・考えかた」「治療方法とそのポイント」にあると思われる。筆者の症状のとらえかたは臨床経験のある読者が最も興味をひかれる部分であろう。疼痛や可動域の解釈,可動域拡大を考える際の留意点,浮腫の解釈,thinking pointと称する筆者のクリニカルリーズニングのポイントがさまざまな個所で見られる。読んでいて最も納得させられるのは,筆者の丁寧な観察眼とあくまでも機能解剖に則するという観点である。理論的飛躍をしないような決意が感じられる。そして「あきらめないぞ」というような強い意思やチャレンジ精神も感じられた。本書の思考回路で臨床を実践することにより,取りこぼしの少ない,確実に臨床結果につながるような経験を積むことができるであろう。
また本書は少人数の勉強会にも適していると思われる。疾患の基本的内容を把握する上で,まずは本書をテキストとして完全に消化して,お互いに人前で説明をしてみたら理解が深まると思う。また症例に対する自分のクリニカルリーズニングの思考回路のガイドとして本書を用いて実践したらいかがだろう。そういう経験を積み重ねることができれば,最後の「治療方法」にぜひ挑んでほしい。筆者も恐らく多くの経験値から自らの考えかたを築いていったのではないだろうか。
「このような思考方法を積み重ねていけば,新しい知見を得ることができる」,そのような想起をさせてくれる本はほかにあまりないように思われる。
B5・頁280 定価4,830円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01198-3


坂井 建雄,松村 讓兒 監訳
《評 者》熊木 克治(新潟大名誉教授)
伝統と革新を兼ね備えた解剖学アトラス
G. Thieme社といえば,古くからのドイツの名著,解剖学教科書『Rauber/Kopsch』を出版している。一方,図と説明が見開きとなった新様式の『Taschenatlas der Anatomie』も発行し,伝統と革新を兼ね備えた信頼できる出版社である。
本書の,LernAtlas der Anatomie(物事を知る,考える)という冠をつけて,的確なたくさんの説明がある点と,その努力と工夫を高く評価したい。書物を読まなくなった今の学生にも将来必ずや大きな糧になると確信している。このたび刊行となった第2版では,大きな改訂として臨床的重要テーマ(関節に関する疾患と画像診断,末梢神経障害とブロック,筋肉の作用と障害など)をいち早く追加した点は特筆に値する。
"プロメテウス"解剖学アトラスという神秘的で重々しい書名も,読者の誇りとやる気を起こさせるものだ。プロメテウスが造り出してくれた"人"はその形だけではなく,火を手に入れて新しい知恵を創造していく素晴らしい能力を授かって進歩してきた。解剖学がたくさんの人体の名前を覚えるだけの暗記の学問ではなく,人体の神秘を発生学,比較解剖学,局所臨床解剖学などを通して,考える科学であることを象徴したものとしてピッタリである。名前だけでなく,それにふさわしい新しい創造の部分を備えた内容に,教えられることが多い。
つい最近,芸術解剖学の巨匠R. B. Haleが人体の描き方のコツを説明する最終講義のビデオ解説を観る機会があった。足の描き方を説明するとき,ankle systemとheal systemという2つのねじれを分析している。このアトラスでも,科学的に分析するという基本が貫かれている点がノミナの羅列ではない大きな可能性を示している。
理学療法士の友人の一人が,膝関節の腫脹について大腿四頭筋と神経支配様式を解析してその原因の手掛かりを探っている。その解剖学的研究にも,また患者さんへの治療や説明の現場でも,この"プロメテウス"が大いに役立ち,信頼されているという。
上肢を局所解剖学的に示す図を見たとき,そのユニークなアングルに驚かされ,なるほどと膝を打つ思いだった。すなわち,上腕,前腕,手を通して観察するとき,屈側または伸側で示す解剖学的肢位を脱却し,前腕は内側にねじった回内位の自然の状態に配置して局所解剖学的に,骨,筋,神経などを連続的,総合的に説明している点が実に画期的で新鮮である。
このアトラスは『頸部/胸部/腹部・骨盤部』『頭部/神経解剖』『解剖学コアアトラス』『コンパクト版』も訳本が出版されており,シリーズとしていっそう充実したものになっている。また,監訳者はわが国でも有数の解剖学者であり,誠に人を得た翻訳である。
最後に,質問点もないではないが,伝統あるドイツの解剖学者,錚々たる日本の解剖学者,そして多くの読者が議論を練り上げてより充実したものに発展することを願うものである。
A4変・頁616 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01068-9


イラストレイテッド泌尿器科手術 第2集
図脳で学ぶ手術の秘訣
加藤 晴朗 著
《評 者》筧 善行(香川大教授・泌尿器科学)
切り分けられた手術場面の豊富なイメージで困難手術にも対処できる刺激的な手術書
これは通常の手術書とは全く異なる,加藤晴朗先生の歴戦記ともいえる書である。
昨今は腹腔鏡手術の頻度が増え,手術前後の予習・復習は自分やほかの術者の動画を利用される先生方が多いと思う。加藤先生自身も動画による予習・復習の効果を大いに認めておられる。一方,本書はすべて開放手術に関する加藤先生の豊富なイメージ図により構成されている。もちろん動画とは全く異なる教材であるが,手術がいくつかの場面に切り分けられ,設計図を見ているような心持ちにさせられる。
加藤先生は,術者は手順に沿った場面ごとのイメージ図を徹底的に暗記して手術に臨むべきだと述べておられる。このような考え方は,漫然と開放手術をしていた時代よりも,腹腔鏡手術の時代になってむしろ意識されるようになったコンセプトではないだろうか。要するに一つ一つの作業にけりをつけて前へ進むやり方である。
多くの手術書は標準的な解剖学的事項に基づいた,最もスムーズに進行した手術を想定したイラストと記述で構成されている。個々の症例でのバリエーションや障害は各自が臨機応変な対処を行いなさい,といういわば総論を提示し各論は読者にお任せするスタンスである。本書はそれとは全く逆の切り口になっていて,全編これ各論,という編集スタイルである。これを単なる症例の記録ではないかと批判される方もおられるかもしれない。しかし,私はそうは思わない。ある程度の経験を積んだ指導医クラスの先生方にも読み応えがあり,刺激的な手術書である。開放手術に対してあらためて意欲をかき立てられる内容といえる。一つ一つのイメージ図はプロの画家に依頼された妙にリアルなものとは異なり,どこかDr. Blandyの手術書に通じる線描画である。各臓器にはもともと輪郭はないのであるが,加藤先生の経験と自信に裏付けされた線で区切りや仕分けがなされている...
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