中間解析(新谷歩)
連載
2011.09.19
医療統計学講座
【Lesson5】
中間解析
新谷歩(米国ヴァンダービルト大学准教授・医療統計学)
(2941号よりつづく)
臨床研究を行う際,あるいは論文等を読む際,統計学の知識を持つことは必須です。
本連載では,統計学が敬遠される一因となっている数式をなるべく使わない形で,論文などに多用される統計,医学研究者が陥りがちなポイントとそれに対する考え方について紹介し,臨床研究分野のリテラシーの向上をめざします。
今回は,長期のランダム化比較試験の中間解析で用いられる多重検定の補正法についてお話しします。
過剰な中間解析は誤った結果を導きかねない
ランダム化比較試験では通常,研究計画時に予想され得る薬効に基づいて検出力が十分得られる範囲で必要最小限の症例数を計算した後,その症例数に達成するまで試験を継続し,研究終了時に初めて最終評価項目の解析を行います。しかし,長期に及ぶ研究では,その薬剤を待ちわびている市場のニーズに応えるためにも最終評価項目の解析を研究終了前に行い,予想以上の効果が観測された場合には研究を早期終了することがあります。
しかし,研究をできるだけ早く終了するために中間解析を頻繁に行うと,実は中間解析においても,解析を行えば行うほど前回(第2941号)述べたような多重検定による1型エラー(効果のないものを誤って効果があると判断してしまう)が大きくなってしまいます。
脂質異常症用薬であるクロフィブラートのランダム化比較試験では,5年後の生存率においてクロフィブラート群はプラセボ群と比較しほとんど差がなかったのですが(P値=0.55),8年半に及ぶ研究期間で2か月おきに行われた中間解析では,なんとP値が通常の0.05を計4回下回り,有意差が確認されたのです1)。
早期終了の判断は,通常中間解析の結果に基づき独立データ安全委員会などの推奨によって行われます。本試験では,独立データ安全委員会がこの"見過ぎによる出過ぎ"の問題を熟知していたため,早期終了されなかったようです。
それに対し,昨年Lancetで見かけた,アルツハイマー型認知症治療薬であるリバスチグミンを用いて,ICUに入院中の患者のせん妄発症率および死亡率が軽減できるかどうかを既存薬であるハロペリドールと比較したランダム化比較試験の論文です2)。当初440人のサンプル数で計画された研究が研究開始から3か月ごとに行われた4度目(サンプル数104人の時点)の中間解析で,リバスチグミン群の死亡率(死亡者数12人,22%)がプラセボ群のハロペリドール群(死亡者数4人,8%)を上回ったとして,逆効果のため早期終了となりました。この時点でのP値は0.07でした。この早期終了には疑問が残りますね。研究が続行されていた場合,クロフィブラート試験の結果を踏まえると,リバスチグミン群とプラセボ群の死亡率はそれほど差異が出ていたのでしょうか。
"見過ぎによる出過ぎ"をいかに補正するか
中間解析を繰り返し行うことにより生じる"見過ぎによる出過ぎ"には,それぞれの中間解析において有意水準をより厳しく,差が出にくくなるように設定します。基本的な考え方は前回紹介した多重検定補正法と同じですが,中間解析における有意水準の補正は前回ご紹介したボンフェローニ法などとは異なる方法が用いられます。
中間解析で用いられる有意水準の補正方法で歴史上最初に登場したのがHaybittle-Peto法(Peto法)です。Peto法は,中間解析の有意水準を0.001と厳しく設定することで,"見過ぎによる出過ぎ"を防ぎます(表)3)。例えば,中間解析のP値が0.005であっても,「差がある」と判定するためにはエビデンスとして十分でないため,研究は続行されます。中間解析を厳しく設定する一方,最終解析の有意水準は通常の0.05で設定します。
表 ランダム化比較試験における中間解析の有意水準(文献3より改変)
*研究全体の有意水準を0.05とした場合。 |
Peto法では,中間解析の回数にかかわらず,有意水準を毎回0.001と設定しますが,「中...
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