小児救急医療のプロフェッショナルとは(井上信明)
寄稿
2011.09.12
【寄稿】
小児救急医療のプロフェッショナルとは
米国における伸展とEMSCの取り組みについて
井上信明(東京都立小児総合医療センター 救命・集中治療部救命救急科医長)
「診断や治療に詳しい専門医は多く存在した。でもそれぞれの専門領域の狭間にある子どもたちを診療する医師が不足していた。縦断的に病気を深く診療する専門医はいたが,外傷も含めて横断的に診る医師がいなかった。そして当時(1970年代後半),専門領域の狭間で苦しむ子どもたちは受診先がなく,困っていた。だから私は救急室に常駐し,いつでも,どんな問題でも,どんな子どもでも受け入れるために診療を始めたのだ」
これは,「米国における小児救急の父」とも呼ばれているGary R. Fleisher先生(ボストン小児病院)にお会いして(写真),「どうして小児の救急医療を始めたのですか?」と私が質問したときのFleisher先生の返答です。
井上信明氏(左)。Fleisher先生との会談を終えての感動的な一枚。 |
成長著しい米国の小児救急分野
米国で現在行われている,いわゆるER型救急は,今からちょうど50年前の1961年,バージニア州のアレキサンドリア病院に勤務する4人の救急医が,救急室に常駐して,いつでも,どんな患者さんでも,まずは受け入れて診療することを誓ったことに始まります。
1970年代後半になり,小児病院の救急室で勤務していた小児科医たちが,冒頭のような問題に対処しようとして取り組みを始めました。これが,米国の小児救急の始まりであり,前出のFleisher先生もそのひとりになります。
現在米国では,小児救急の研修プログラムは非常に人気があります。日本で小児救急医療というと「軽症患者の時間外外来」のようなイメージがあり,ネガティブな印象が付きまといがちですが,米国のある調査によると,調査対象となった全42専門分野の中で,小児救急は医師の満足度が最も高い分野となっています1)。日本とは異なり米国の救急医は完全にシフト制での勤務なので,オンとオフがしっかりと区別されワーク・ライフ・バランスが取れることなども人気の理由と考えられますが,非常にやりがいのある仕事であることも事実です。
2011年現在では,全米で70を超える小児救急研修プログラムがあり,300人を超える医師が専門研修を受けています。私が研修を開始した2005年には,全米に45しか研修プログラムがありませんでしたので,成長著しい専門分野であると言えるでしょう。またその影響は,カナダやオーストラリアへも広がっています。
子どもの命を救うため,診療だけにとどまらない活動
テレビドラマ「ER」をご覧になっておられた方は,ジョージ・クルーニーが演じていたダグラス・ロス医師を覚えておられるでしょうか。このダグラス・ロス医師が小児救急医(当初はフェロー)です。小児科医のバックグラウンドを持ちながら救急室内に常駐し,内因系疾患に限らず外傷や精神疾患を有する子どもたちにも初期対応を行っていました。時に社会的問題を抱えた患者の対応に熱くなりすぎることはありましたが,「子どもを守る」という視点を常に失わない彼の姿に共感を覚えた方も多いのではないでしょうか。
このように,「どんな子どもでも診る」のが米国の小児救急医の基本となる診療...
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