医学界新聞

インタビュー

2011.09.12

interview

例えば,診療録の丁寧な記述から――
研究を"読む,使う,行う"力を身につける

植田真一郎氏(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)に聞く


 臨床研究には適切に処理されていない多くのバイアスや交絡因子があるため,読み手が臨床研究のデザインを知り,正しく解釈することが重要と説く植田真一郎氏。本年5月に終了した本紙連載「論文解釈のピットフォール」では,それらのポイントを解説していただいた。

 では,「臨床研究を正しく解釈する力」とは,どのように養われるものなのだろうか。「そのエビデンスは?」と常に問われ続ける今日の診療現場だからこそ,無理なく段階を追って論文を批判的に吟味する力を身につけるコツを前半で,後半ではさらに一歩進み,実際に臨床研究を行う際に必要となる視点を日々の診療でいかに培うか,お話しいただいた。


――『臨床薬理学レクチャー』(医学書院,絶版)との出合いをきっかけに,臨床薬理学の道に進まれたと伺いました。

植田 研修医1年目を終えるころ,薬剤を処方する際になぜその薬を選択するのか,なぜその投与量でよいのかなど,治療に関する疑問をたくさん抱えていました。あの本には,どのように投与量を決めていくかが非常に論理的に書かれていて,感銘を受けたのです。

――著者の石崎高志先生は,序文で「薬物療法は『What to use』には答えてきたけれど,『How to use』と『How to evaluate』には答えてこなかったのではないか」と指摘されています。

植田 現在でも「What to use」さえ明らかになっていない領域は多くあります。しかし,石崎先生が指摘されているように,例えば高血圧患者に降圧薬を投与すればよいことは明らかだけれども,目標血圧をどこに置けばよいか,実はまだ明確なエビデンスはありません。また現在,直接トロンビン阻害薬・ダビガトランの副作用が問題になっているのも「How to evaluate」がはっきりしないからです。そういった薬物療法の本質的な部分を解明していくことも研究の一つの役割ですよね。非常に先見の明のある言葉だと思います。

――その後,国立国際医療センターにいらした石崎先生を訪ねたそうですね。

植田 手紙を出したところ,返事をいただいて非常に励まされたんです。そこでは毎週抄読会が行われていて,当時としては珍しく臨床研究に関する論文が取り上げられていました。そうして論文や臨床研究に触れていきました。

後期研修医には自分で文献に当たってほしい

――研修医時代にはどのぐらい論文を読むことに重きを置いたらよいでしょうか。

植田 研修医の場合,救急外来での診療や急変時対応などすぐに答えを得たい事柄が多いですから,私自身は"Washington Manual"のように診療ですぐに活用できる書籍を手にとっていました。参考文献にまでさかのぼって読むことはほとんどなかったです。今はClinical Evidenceのような二次資料もありますが,薬剤の使用法や疾患の診断方法が,多くの基礎研究,臨床研究の積み重ねから生み出されることは研修医にも知っておいてほしいと思います。

――では,本格的に論文を読み始めるべきなのはいつごろでしょうか。

植田 後期研修医になると,自分の専門領域に関する文献を読み,批判的に吟味する力が必要です。より多くの論文に目を通すためにNEJMなどのレビューを活用する方法もありますが,それらには執筆者の考えが反映されていますから,やはり自身で原著論文に当たるべきでしょう。

――速く読むために,いわゆる「ゴミ論文」を見抜く力も必要と言われます。

植田 残念ながら,「ゴミ論文」はまだましで,最近は「ウソ論文」もあります。しかもそれがいわゆる国際的な一流雑誌にすら掲載されており,日本人研究者の論文も多く告発されています。研究を行う動機が本来あるべき姿から外れてきているのでしょう。明らかな不正ではなくても,データの意図的な選択や削除を見抜くことは難しいと思います。GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)が適用されない臨床研究では,自律的なデータの信頼性の担保が求められますが,結局は研究者の良心や動機に依ってしまうので...

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