医学界新聞

寄稿

2011.07.18

寄稿

米国におけるがん免疫療法の現在
腫瘍内科学と腫瘍免疫学を学ぶ立場から

北野滋久(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center / Ludwig Center for Cancer Immunotherapy)


 近年,欧米を中心に腫瘍免疫学(Tumor immunology/Immuno-oncology)の分野は,基礎,臨床開発とも目覚ましい発展を続けています。わが国においても,基礎分野では偉大なる先人たちにより素晴らしい業績が残されていますが,こと臨床開発においては欧米とは社会背景が異なることもあり,大きく立ち遅れています。残念なことに,腫瘍免疫学を専門としない多くの臨床医の方々から,がん免疫療法に対して懐疑的なまなざしを向けられていることは周知の事実です。

求められる適切な臨床試験の実施

 私は,臨床面では腫瘍内科の専門医として化学療法を中心とする薬物療法を行い,研究面では大学院で腫瘍免疫を専攻してきました。私自身は,既存のワクチン療法を中心とするがん免疫療法に対して現時点では評価は不可能で,良いとも悪いとも言えません。なぜなら,以前の免疫療法に関しては,必ずしも科学的に適切な臨床試験が行われておらず,生存期間の延長が証明されてこなかったからです。

 ですから,現時点でがん免疫療法がすべて無効と決めつけるのではなく,今後,科学的に綿密に計画された臨床試験によって,しっかりと白黒をつけていくべきでしょう。そのためには,わが国でも,がん免疫療法の臨床試験を適切に行い,治療後の患者さんの体内での免疫応答を適切な方法でモニタリングするためのinfrastructureの整備が必要不可欠です。私はこのことを学ぶために留学しましたが,現状では,わが国は米国と比較し,人的資源(個々の能力ではなく人数の問題!),資金,設備のすべての面で劣っていることを痛感せざるを得ません。

新たな免疫療法の認可の動き

 米国では最近,二つの免疫療法薬が科学的に計画された臨床試験の試練を経て,ついに食品医薬局(FDA)の認可を受けました。一つは2010年4月の前立腺がんに対するsipuleucel-T(商品名:Provenge®)です。これは,患者の血液から取り出された末梢血単核球を,体外で前立腺がん抗原(PAP),サイトカイン(GM-CSF)の融合タンパク質等を用いて処理され,製造された後に患者さんに投与されるものです。抗原提示細胞(APC)が主たる成分となり,PAPを持つ前立腺がん細胞を攻撃できるT細胞を患者の体内で誘導し,前立腺がんを攻撃するというコンセプトです。

 もう一つは,私の現在の上司が臨床開発に携わった ipilimumab(イピリムマブ,商品名:Yerboy®)です。これは,T細胞が活性化した際に,T細胞応答に抑制(ブレーキ)をかける役割を果たすCTLA-4(Cytotoxic T-Lymphocyte Antigen 4)という物質を抑える抗体療法です。いわば,T細胞応答のブレーキを解除して,T細胞にがんを攻撃させようという治療方法です。

 昨年,既治療の転移性悪性黒色腫に対する第III相試験「イピリムマブ+gp100ペプチドワクチン」と「イピリムマブ単独」対「gp100ペプチドワクチン」との比較において,gp100ペプチドワクチンの有無にかかわらず,イピリムマブを含む治療群がgp100ペプチドワクチン群よりも有意に生存期間の延長を認めることが報告されました1)。この流れを受け,本年3月末...

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