MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.07.11
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
高橋 孝 著
荒井 邦佳 執筆協力
《評 者》高橋 俊雄(東京都病院経営本部顧問・医師アカデミー運営委員長/都立駒込病院名誉院長/京府医大名誉教授)
著者の一貫した歴史観「まなざし」で綴られた比類なき外科歴史物語
本書は,Billrothが1881年世界最初の胃癌切除に成功し,人体の消化管の連続性を離断し再建の可能性を初めて示した消化器外科最大の歴史的出来事から始まり,現在の胃癌の外科治療に至るまで,著者の歴史観「まなざし」で胃癌外科の歴史をたどった,他に類を見ない興味ある書であります。
著者の胃癌外科に対する「まなざし」は主に胃癌のリンパ流,リンパ節郭清に注がれ,欧米でのMikulicz,Pólya,Navratil,Rouvièreらの業績,さらにわが国の三宅速,久留勝,梶谷鐶らによって確立された系統的胃癌リンパ節郭清について,膨大な文献を基に哲学的とも言える詳細な考察を行っています。しかも,本書は決して固い学術書ではなく,物語調で書かれた大変読みやすい歴史物語であり,胃癌外科の歴史を知らず知らずに教えてくれます。
本書の著者・故高橋孝先生は,医学書院の『臨床外科』に2006-2007年に連載された「胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開」を基に,これに大幅に手を入れて単行本化を図るべく準備中でありましたが,残念ながら2009年5月ご逝去されてしまいました。先生から生前依頼を受けた荒井邦佳先生(現都保健医療公社豊島病院副院長)は,持ち前の几帳面さと緻密さで本文の記述の統一,文献の補完,調査,校正を行い,この度本書が刊行される運びとなりました。
著者の高橋先生は,癌研の梶谷鐶先生の高弟として外科手術の達人であり,評者の前任地・都立駒込病院の外科部長としても立派な実績を残されております。生前,高橋先生と直接的な交流はありませんでしたが,先生は強い学問的探究心の持ち主であり,理論家であり,そして本書にもあるように,その理論を実際の外科臨床の第一線の現場で実践された臨床外科医であります。
いま,胃癌の治療法は以前とは大きく様変わりしてはおりますが,ここまでたどり着くためには先達の並々ならぬ努力があったことを,私どもは知らねばなりません。本書は,これらの胃癌外科の歴史をわかりやすく教えてくれる良書として,かつてリンパ節郭清に明け暮れた外科医だけでなく,今後の外科臨床を担う若い外科医の方々にもぜひ読んでいただきたく,推薦したいと思います。
B5・頁280 定価9,450円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00902-7


坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳
《評 者》埴原 恒彦(北里大教授・解剖学)
医学の第一歩,最も基本的な解剖学のルールを理解する一助に
解剖学の初学者にとって,用語の暗記はいつも重くのしかかる。解剖学は暗記ではなく理解する学問であるという言葉は,教える側の常用句であるが,それ以前に基本的な解剖学用語は覚えておかなければ,理解の段階までいかないのである。ゲームでいえば,そのゲームが面白いか面白くないか,どうしたら勝てるのかなどを理解する前に,まずはルールを覚えなければ何も始まらない。ゲームであろうが勉強であろうが,それを理解し発展させるための第一歩は,多くの場合,砂を噛むような思いも伴う。
解剖学は近代医学として最初に確立され,ヴェサリウス以降400年以上にわたり蓄積されてきた知識体系があり,したがって,その用語も膨大な量である。初めて解剖学を学ぶ医学生の多くはその量の多さに圧倒され,最初から消化不良を起こす。分厚い,何分冊かの解剖の教科書,アトラス,あるいは解剖学用語といった本を前に,医学生が何から手を付けたらよいのか呆然としてしまうのは,むしろ当たり前であろう。
さて,『プロメテウス解剖学アトラス コンパクト版』はそんな医学生にとって救いの1冊であるかもしれない。まずは見開きのページの左にはわかりやすいイラスト,右には用語と数行の読みやすい解説(特に重要なものについてはQ & Aによる問題提起型解説や,臨床的な重要性についての解説が適宜付されている)で構成され,さらに,ページごとの用語数が多くても10語程度という,感覚的にも,また実質的にも消化不良を起こさない量で,しかも重要な用語をしっかりと押さえている。
また,日本語と英語が同時に表記されており,すぐに対応させることができる。ここ数年,医師国家試験には数問,基本的な解剖学用語の英語表記が出題されており,今の医学生にとって,英語あるいはラテン語でも解剖学用語を理解することは必須であるが,本書はこのような点でも非常に使い勝手がよい。
かつて,理論,またはごく一部の科学者による研究領域にとどまっていた免疫学,遺伝学,生物化学をはじめとする生命諸科学が,昨今急速な勢いで膨大な成果を上げ,それらの知識と応用技術が今日の医学,医療を支えているといっても過言ではない。科学知識は,その宿命として過去の遺産に何物かを付け加えながら常に階段を上り続ける。新しい知識,技術を研究・教育することは大学の使命であり,それをいち早く学ぶことは大学生の権利でもあるが,同時に課題でもある。
今日の医学生が勉強しなければならない科学知識の量の多さは,十数年前と比較すらできないであろう。このような中で,医学生が最も基本的な解剖学の知識を最も要領よく,短時間で身につけることのできる参考書として,本書を推薦したい。
B6・頁816 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01126-6


坂本 穆彦 編
《評 者》畠山 重春(日本細胞診断学推進協会細胞検査士会・会長/サイパソリサーチセンター代表取締役)
細胞診を学ぶ“最初の一歩”として,細胞の見方を“再確認”するのに最良の書
『細胞診を学ぶ人のために 第5版』〈通称“学ぶ君”〉が,初版の発売された1990年からおよそ21年目となる今年,刊行された。本書は20年以上続くロングセラーである。約20年の間に何人の細胞診をめざす技師,医師が“学ぶ君”の世話になったのであろうか。
この第5版では新たな執筆陣も多く加わり,まさに時代の流れとともに細胞診への応用範囲が多岐にわたることを裏付ける陣容となっている。目次を見て,細胞診の概論(第1章)に始まり,細胞の基本構造,基礎組織学,病理組織学分野と続き,その後の標本作製法や染色法,顕微鏡操作法,およびスクリーニング技術までの総論部分すべてが,細胞検査士ではなく細胞診専門医が執筆担当していることにふと気付いた。これには若干の戸惑いを覚えたが,興味を引いたのは免疫染色の記述である。細胞診においても免疫染色の応用が不可欠になっている現状に対応し,抗体の入手と保存に関する注意までが細やかに記され,免疫染色を試みる初心者の陥りやすい基本的事項までもが簡潔に記載されている。細胞検査士資格認定試験,あるいは細胞診専門医試験に挑む者にとっては確かに“学ぶ君”である。
一方,婦人科領域の細胞診(第9章)から,呼吸器,消化器,泌尿・生殖器,乳腺・甲状腺,体腔液・脳脊髄液,非上皮性組織の細胞診(第15章)までの細胞診断学各論はすべて現役の細胞検査士によって執筆されているのには驚きとともに,一人の細胞検査士として誇りを感じた。編集者の坂本穆彦先生が,第一線で細胞を見ている細胞検査士を,いかに高く評価されているかを垣間見たような印象である。
また,本書は実際の細胞写真も多いが,初学者の理解を深めるためであろう細胞の特徴を表現した説明図がこの第5版からはカラー化され随所で示されていることからも,執筆者の思い入れが伝わってくる。
婦人科頸部細胞診ではベセスダシステムが一般化の兆しを見せている今日,初めて本格的に細胞診を勉強する人向けの教科書として,本書の果たす役割,その責任も重いと思うが,実に理解しやすく詳細かつ簡略に解説され,重責を見事に果たしている。
本書後半の各論部分を執筆している技師は,全員が癌専門病院において現場の第一線で活躍する“細胞を読むエキスパート”であるのみならず,自ら研究をも行い,さらに細胞検査士養成のための教育にも携わっているプロ中のプロ集団である。この執筆陣の支えによって,簡略表現にもかかわらず奥深さを感じさせ,他の追随を許さない内容構成になっているものと確信できる。
細胞検査士をめざす技師,学生のみならず,細胞診専門医を志す医師にとっても,細胞診とは何かということを理解する上で最初の一歩を踏み出すきっかけになる本として,自信を持ってお薦めできる教材である。同時に,ベテラン技師,専門医にとっては,新しい表現,細胞の見方を再確認する参考書としても有用な,価値ある一冊としてぜひとも手元に置いて日々活用されることを望む次第である。
B5・頁392 定価10,290円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01185-3


齋田 幸久,角田 博子 著
《評 者》角谷 眞澄(信州大教授・画像医学)
鮮明な写真と的確なシェーマにより,消化管造影手技の1つ1つが根拠をもって示される
2011年4月に発行された,齋田幸久先生と角田博子先生による『消化管造影ベスト・テクニック 第2版』を手にしている。A5判の115ページから成る消化管造影テクニックの指南書である。
本書は,「上部消化管の造影検査」「注腸造影」「咽頭食道造影」および「小腸の造影検査」で構成されている。本書には102点の図が掲載されているが,過半数の56点が実際の造影写真である。そして実に45点がシェーマである。ハンディなサイズであるため造影写真は小さくなっているが,それでも読影できるほど極めて鮮明だ。シェーマも秀逸で,解説文とともに,難しい消化管造影手技の理解を大いに助けてくれる本書の重要なコンテンツになっている。テクニックの会得に眉間にしわが寄ってしまいそうな箇所には,角田先生作とおぼしき,撮影体位を表す的確なイラストが配置されている。かわいい挿入図に,思わず癒されるのは私だけではないだろう。
各ページの図に対しては,検査手技の記述が左側に配置され,そのテクニックのポイントが右側に記載されている。左サイドの解説のみなら通常のマニュアル本と大差はないが,右側の教えがこの本の神髄といえる。「検査のコツ」に加え,「なぜそうすべきか」という理由が端的に書かれている。筆者の指導者としての本領がうかがえる。
第2版では,さらに理解しやすいよう解説文に配慮が加えられている。初版の記述の中から特に記憶にとどめて欲しい箇所が,「消化管造影の10原則」あるいは「一口メモ」として,囲み記事に修正されている。「消化管造影の10原則」は,遠い昔の,これだけは身につけるべき「鉄則」を思い出させる。さらに,20か所の「一口メモ」には,マニュアル本の域を超えた,かゆいところに手が届くコメントが満載である。
筆者の齋田先生とは,腹部放射線医学を専門とする放射線科医として旧知の間柄であるが,この10年は学問に加え,サッカーを通じても親交を深めてきた。ゲームでは年功序列の暗黙のルールで,2人でツートップを組んだりするが,プレースタイルが全く違う。私は,がむしゃらにピッチを走りまわり,体力で勝負するタイプである。一方,齋田先生の背筋をピンと伸ばした走りは,とても綺麗で無駄がない。厳しい局面でも,仲間への正確なパスと的確な一言で,素早く打開する。そして,「ここぞ」というときに,確実にゴールをゲットする。長く培った豊富な経験で,サッカーを論破しているプレースタイルだ。本書の中に,ピッチを駆ける齋田先生の姿そのものが随所にみてとれた。
本書は,消化管造影にかかわる者にとっては必携である。これから検査手技を学ぼうとする若い臨床医や放射線技師の皆さんには,特にお薦めである。既に消化管造影に携わっている方々にも,気になる検査手技の再確認に最適である。
本書を手にすれば,今なお現役の名プレーヤーが,その極意をいつでも教えてくれるのだ。ぜひとも携帯して,素晴らしいテクニックを繰り返し学び取っていただきたい。
A5・頁128 定価5,040円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01188-4


病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー
IDATENセミナーテキスト編集委員会 編
《評 者》松村 正巳(金沢大医学教育研究センター リウマチ・膠原病内科)
病院内/免疫不全関連感染症の最善の指南書
IDATEN(Infectious Diseases Association for Teaching and Education in Nippon)こと日本感染症教育研究会から『病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方』が出版された。待ち望まれた内容が記述・編集され,時宜を得た出版である。
医学の進歩は著しく,この四半世紀を検証しても,特に治療における恩恵には目を見張るものがある。腫瘍性疾患,自己免疫性疾患,移植医療,クリティカルケアにおいて,以前には想像もできなかった病態の改善が得られている。しかし,この恩恵の背後には,時に想定していなかった新たな病態が潜んでいることがある。新薬の副作用,そして感染症,特に病院内/免疫不全関連感染症である。これは医学の進歩に常に付きまとう普遍的な現象ともいえよう。
病院内/免疫不全関...
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