MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.07.04
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会 監修
「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会 編
《評 者》田平 武(順大大学院客員教授 認知症診断・予防・治療学)
現場の医師が直面する疑問の答えを容易に見いだせる
「多発性硬化症(Multiple Scleorosis;MS)治療ガイドライン」が改訂された。初版は斎田孝彦前国立病院機構宇多野病院長を作成委員長として,2002年に日本神経免疫学会と日本神経治療学会により共同で策定された。あれから8年がたち,MSの考え方も治療法も大きく進歩した。今回は厚生労働省「免疫性神経疾患に関する調査研究班」の班長であった吉良潤一九州大学神経内科教授を委員長としてエビデンスの詳細な検討が行われ,日本神経学会も加わって3学会により合同で策定された。
今回の特徴はクリニカル・クエスチョン形式をとっていることで,MS医療の現場にいる医師が直面する疑問に容易に答えを見いだすことができる。さらにエビデンスレベルおよびMindsの推奨のグレードが明確に示されており,EBMの実践を可能にしている。
再発寛解型MSの急性期には炎症を抑え,病期を短縮して機能回復を図る治療が行われ,副腎皮質ステロイドが推奨される(グレードA)。しかし今日最も一般的に行われている大量静注療法(ステロイドパルス療法)は,保険適用がないため“グレードB”となっているのは残念である。今回,急性期の治療としてステロイドパルス療法により十分な効果が得られない症例に対し,血液浄化療法(アフェレシス),特に単純血漿交換療法が“グレードB”として推奨されている。血液浄化療法は保険適用があり,一定回数まで可能となっている。
寛解期にはインターフェロンβによる再発防止が“グレードA”として推奨されるが,インターフェロンβが使用できない症例や効果が不十分な症例に対し免疫抑制剤(アザチオプリン,シクロホスファミド,ミトキサントロン)が“グレードBからC”で推奨されている。なお,対症療法のエビデンスや推奨のレベルは,本書では知ることができない。
近年,視神経脊髄型MSの多くにアクアポリン4抗体が証明され,MSと区別すべきかMSの範疇に含めるべきか議論されている。治療面ではインターフェロンβの使用によりむしろ悪化する症例があり注意が必要であるが,すでに使用されていて有効と思われる症例もあり,新たに始める症例では慎重に投与すべきという表現になっている。これは他の膠原病を合併するMSでも同様である。
MSの初回発作は治療面で気を使う。急性散在性脳脊髄炎(ADEM)のようにほとんど再発しない病気をMSと診断し,無用な予防治療を施さないとも限らない。最も恐れられるのは1回目の発作であると診断し経過観察していたところ,ひどい発作を起こして失明したような場合は訴訟もあり得る。治療のガイドラインがエビデンスに基づきここまで細かく記載されてくると,それを知らなかった場合言い訳が立たない。MSの治療に当たる医師は全員このガイドラインを熟知しておく必要があろう。
今回の改訂では新薬の追加はほとんどない。欧米ではナタリズマブ,フィンゴリモド,リツキシマブなどが認可されMSの再発は著しく減少し病気の長期予後は改善している。わが国でも治験が行われており,これらの薬が使用可能になる日もそう遠くないと思われ,このガイドラインの見直しが近く必要となろう。
B5・頁168 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01166-2


南風病院消化器内科 編
《評 者》浜田 勉(平戸市国民健康保険度島診療所)
胃癌を扱う臨床医必携の書
噴門部とされる食道胃境界部のごく狭い範囲は,X線検査においても内視鏡検査においても観察が不十分となりやすく,病変の認識および診断,特に癌の早期発見がしばしば困難である。多くの消化管の専門家ですら経験できた症例は少なく,日常臨床検査で大きな盲点となってきた。
編集代表である西俣寛人氏は,噴門部癌における膨大な症例の集積と多数の研究論文を発表してきた日本における第一人者であり,まさに『噴門部癌アトラス』は待望の書と言えよう。本書で示されている多くの症例画像は,西俣氏と鹿児島南風病院グループが噴門部癌にじっくり焦点を合わせ,症例を長年にわたり追い続けた結果の集大成であり,薩摩魂の真骨頂を見せている。
本書は厳選された50例で構成され,その症例ごとに丁寧なX線や内視鏡画像とともに切除標本と病理組織像が提示され,症例の本質をついた表題と簡潔なコメントが記されている。掲載された症例は癌深達度がM癌(17例)からSM癌(18例),そして進行癌の順,すなわち癌の形態的変化が軽微のものから次第に凹凸の変化が明瞭なものへと工夫して配列されており,これにより読者は噴門部癌がその発育に従い形態的な変化が顕著になっていくさまを知ることができるだろう。特に早期癌症例の精密なX線像,色素散布像を混じた内視鏡像は秀逸で,思わず凝視するほどであり,編者たちのこれらの症例への並々ならぬ熱意を感じる。
さらに,具体的なコメントを読み進むうちに,噴門部以外の胃における早期癌の形態とは異なる噴門部癌の特徴を学ぶことができ,次第に癌による異常所見の指摘や癌の深達度の予測が可能になってくることを読者は実感するだろう。本書は噴門部癌を余すところなく画像で示しており,消化管癌,特に胃癌を扱う臨床医にとって,内科医であれ外科医であれ,必携の書と言える。
形態診断学はX線や内視鏡画像により視覚的に疾患の本質をとらえようとするものであり...
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