医学界新聞

対談・座談会

2011.07.04

座談会

もっと知りたい「病院総合医」
病院のジェネラリストという働き方

松村理司氏(洛和会音羽病院院長)
伴信太郎氏(名古屋大学大学院医学系研究科
 健康社会医学専攻総合診療医学教授)=司会
小林裕幸氏(筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター
 茨城県厚生連総合病院水戸協同病院 准教授)
川島篤志氏(市立福知山市民病院 総合内科医長)


 昨年,日本プライマリ・ケア学会,日本家庭医療学会,日本総合診療医学会が合同して日本プライマリ・ケア連合学会となり,このほど日本医学会への加盟も果たしました。"ジェネラリスト"が一堂に会し,その理念が広まりつつあるなか,病院の総合診療科や総合内科で活躍するジェネラリスト「病院総合医」にも,少しずつ注目が集まり始めています。

 外来から入院まで幅広い内科系疾患を手がけ,全人的な診療ができる病院総合医は医師不足解消の糸口ともなり得る存在です。彼らは病院でどのように活躍し,スムーズな診療体制の構築に貢献しているのでしょうか。本座談会では,病院総合医の働き方,育て方,そして今後の在り方までを展望します。


 まずは皆さんの所属施設と総合診療科の陣容について,ご紹介いただけますか。

松村 洛和会音羽病院は,ケアミックス型で588床の病院です。総合診療科は私が赴任した7年前から急速に拡大し,後期研修医の10人を含めると約25人の大所帯となりました。ベッドは一般病床と療養型,合わせて90床ほどを受け持っています。病院総合医を育て,地域に送り出せる"総合診療のマグネットホスピタル"をめざし,教育にも力を入れています。

小林 水戸協同病院は,250床の民間病院です。新医師臨床研修制度開始後,医師不足がさらに深刻化し,400床あった病床が一時は閉鎖の危機に陥るほどでした。そこで2009年,筑波大と提携して水戸地域医療教育センターを開設し,徳田安春教授を含む臨床医学系の大学教員が常勤で赴任しました。そこで総合診療科を軸にした診療体制の立て直しを図るとともに,研修医教育も充実させて地域医療に貢献しようという新しい試みを始めています。現在総合診療科のスタッフは6人,後期研修医,初期研修医は合わせて18人います。

 病床は,何床受け持っていますか。

小林 当院は専門科の枠を越えた内科全体による包括的な診療体制をとっており(図1),病床も科ごとに細分化していないため,計100-120床程度を総合診療科が診ていることになるでしょうか。

図1 水戸協同病院内科の診療体制

 珍しいシステムですね。

小林 ええ。研修医も複数の科をまたいだ診療チームに所属し,内科であればどの領域でも,基本的には初診からそのまま主治医になり,退院まで診る体制をとっています。

川島 市立福知山市民病院は,08年春に総合内科が立ち上げられ,09年から本格的に規模を拡大して,現在はスタッフ4人,専攻医(後期研修医)4人の計8人が所属しています。当院の内科系医師は21人ですから,総合内科が院内でも一番人数の多い科になります。

 ベッドは,全体の310床から療養・感染を除いた実質250床のうち,40-60床を担っています。内科の初診外来・救急外来にもかかわっており,院内外で存在感を発揮できているように思います。香川惠造院長の「教育力のない病院に未来はない」という言葉のもと,教育・臨床に従事しています。

 私の所属する名古屋大学の総合診療部門には,スタッフ9人,後期研修医10人,大学院生7人が所属しています。日本にある80の医学部/医科大学のうち,現在53校に総合診療部門がありますが,本学のように診療・研究・教育のすべてに携わっているところは少なく,臨床に強い病院総合医を育てることに日々力を注いでいます。

 大学病院では専門科が多いだけに,中小規模の市中病院と比べると受け持つ病床数は少ない傾向があり,私たちも受け持っているのは8床です。大学病院の総合診療科に必要な病床数は,おそらく10-15床前後ではないかと考えています。

専門科との協働とすみ分けが病院総合医の活躍の場を広げる

 音羽病院は,前任地の舞鶴市民病院の236床と比べると,病床数がかなり多いですね。

松村 実は,赴任当時は698床ありました。こんな大きな病院で病院総合医にできることはあるのか,ということが一番心配でしたね。都市部の病院なので,専門科もある程度充実しており,そのなかに何とか入り込んでいって立ち位置を見つけた感じです。

 具体的にはどのような工夫をされたのですか。

松村 最も力を入れたのは,専門医が足りなくてできない,あるいはあまり進んでやらない仕事を引き受けることでした。そうした仕事は「出前」と称し,「院内出前,何でも引き受けます」とPRしました。

 専門科が林立している大学での総合診療科の在り方と,少し近いところがありますか。

松村 そうですね。ただ大学病院ほど専門性が突出していないため,競合する点も多いのではないかと懸念していましたが,現在のところ適度な協力とすみ分けができていると思います。

 川島先生は赴任後に総合内科を立ち上げられていますが,どのように足場を固めていったのですか。

川島 もともと福知山は医師不足の地域で大学からの派遣人員も十分ではなく,地方都市でよく見られるような,臓器別専門医が専門外の疾患も診なければならない状況がありました。ですから音羽病院と同じく,専門科の本来の仕事以外のことは,総合内科が主体的に担うようにしました。

 当院は地域基幹病院ですが,例えば循環器内科は,たった4人で365日オンコール体制を敷いており,かなりハードな状況です。総合内科が仕事を請け負うことで,循環器内科の先生方からも「循環器疾患を診ることに専念できる」という声をいただいていますし,こちらもいつでも頼れる専門医がいるという安心感があります。

 Win-Winの関係ができあがっているということですね。

川島 ええ。総合内科がそのほとんどを担う内科の初診外来,日中の内科救急も,実は総合診療の専門分野の一つである診断学のスキルを発揮できる場でもあるので,これもWin-Winの関係といえると思います。

 救急で受け入れた患者さんをいざ入院させるとなると,「何で入院なの?」「何でうちの科に送るの?」と摩擦が生じる光景はよく見られると思いますが,当院ではどこの科が受け持つかわかりにくい疾患であれば,入院後も総合内科チームが担当するため,スムーズな運営が可能になっていると感じます。

 専門医がいない科の患者さんも,総合内科が引き受けているのですか。

川島 呼吸器内科・感染症・膠原病など当院に常勤医師が不在の疾患はほぼ総合内科で診ています。各科スタッフが個別に一つひとつの疾患を診るよりもむしろ,1か所に集めて皆でピアレビューしながら診たほうが,システマティックかつ質の高い医療が少ない労力でできるのではないかと,個人的には感じています。

 大学病院でも同様に,外来受診の約10%を占める,診療科不明の患者さんの受け皿として,あるいは専門医がかかわったけれど原因がわからない患者さんの引き受け手として,診療面でのニーズは高いです。

 水戸協同病院では,専門科と総合診療科が科の枠を越えて連携しているとのことですが,そのコツは何でしょうか。

小林 一つには,大病院で他科と連携した経験を持つ複数の総合診療科スタッフと,地域でのレジデント教育の重要性を理解し,協力してくれる専門科スタッフとがうまくタイアップできていることでしょうか。

 もう一つは,医師数,病院規模の問題です。大病院のように各専門科の人数が多いと臓器別に分かれますが,当院は各科そこまでの人数がいません。常勤医が少ない科では,総合診療科の後期研修医チームが患者さんを受け持つ代わりに各科専門医がコンサルテーションするなど,補い合って連携が生まれています。

 科ごとに壁を作らず,お互いの顔が見える関係を保つことも重視しており,毎朝のミーティングには内科全員が出席して主治医を決めています。週1回の総回診でも,米国のグランドカンファレンスのように全内科スタッフと外科系スタッフが集まり,垣根のない意見を交わしています。

 情報共有が重要ということですね。

■病院経営面でもメリットを実感

 松村先生,病院長という立場から,病院総合医の存在が病院に与える影響について実感されたことはありますか。

松村 経営面でのメリットは感じていますね。日本では今,47万床がDPCによる包括診療です。DPCでは従来の出来高払いと違い,検査や薬を使えば使うほど利益が出るわけではないので,診療の質,検査の質を意識することが重要になります。

 当院では総合診療科が拡大して収入が増えると同時に,EBMに基づいた適切な検査・薬の使用を行うことで支出も抑えられ,結果的に病院全体の利益につながりました。経営部門からも尊敬の目で見られています(笑)。

小林 それは,米国におけるホスピ...

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