多関節炎を呈する症例へのアプローチ(高田和生)
連載
2011.06.13
もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント
◆その1◆
多関節炎を呈する症例へのアプローチ
高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)
膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。
【ケース】 24歳女性。3週間ほど前からだるさと軽い頭痛あり,2週間前より四肢の皮疹と両手のこわばりを自覚している。診察にて両上肢の手関節,MCP関節,PIP関節に腫脹・圧痛・熱感を認める。この関節炎の原因は? |
(!)関節炎の有無はGalenosの5徴で判断する
関節痛を訴える患者を前にしたとき,関節炎による痛みなのか,別のメカニズムによる痛みなのかを見極めることが必要です。そこで重要なのは,医師の目と手です。つまり診察において,Galenosの5徴(腫脹tumor,発赤rubor,熱感color,疼痛dolor,機能障害functiolaesa)の有無を診て,関節炎か否かを判断します。
(!)「発症のしかた」「罹患関節数」「経過」の3軸で鑑別診断する
関節炎を来す疾患は多いですが,図のように「発症のしかた」「罹患関節数」「経過」の3軸で整理すると鑑別診断が進めやすくなります。
図 「発症のしかた」「罹患関節数」「経過」の3軸で整理した関節炎を呈する疾患(実線:持続性,破線:一過性/間欠性) |
(!)関節リウマチの「朝のこわばり」は1時間以上継続する
朝のこわばりは,非炎症性である変形性関節症では10分以内,炎症性でも全身性エリテマトーデス(SLE)などでは30分以内であるのに対し,関節リウマチでは1時間以上続きます。また長時間同じ姿勢をとった後にも来し,動き出すと治まります。一方,変形性関節症などでは動かした後のほうがこわばりが強いとされます。
(!)発症後2か月以内であればパルボウイルスB19も考慮せよ
病原菌で多関節炎を来すものは,パルボウイルスB19,風疹ウイルス,B/C型肝炎ウイルス(血管炎を介して),HIVなどに限られます。B19は診断方法があり(B19 IgM抗体測定),数週間で治癒します。しかし,特徴的な臨床症状とされる平手打ち様頬部紅斑は成人ではまれで,血球減少や自己抗体がみられることもあります。よって,知らなければ診断できず,膠原病と誤診しかねません。
(?)多関節炎型の偽痛風もある?
偽痛風は,ピロリン酸カルシウム(CPPD)が引き起こす急性単関節炎です。しかし,痛風を引き起こす尿酸ナトリウムと異なり,CPPDは他に慢性単関節炎や慢性多関節炎も引き起こし,それらは「偽変形性関節症」「偽関節リウマチ」と呼ばれます。したがって,「CPPD=偽痛風」と短絡的に覚えるべきではありません。また,高齢者において,術後などに「偽関節リウマチ」が発熱と炎症反応高値,意識障害を伴って発症することがまれにあることも覚えておきましょう。
(!)若い男性の少数関節炎では反応性関節炎も忘れずに!
尿路感染(クラミジア)や細菌性腸炎罹患時に惹起される免疫反応により,関節(通常少数関節炎で,時に脊椎炎や仙腸関節炎も来す)を中心として,腱や靭帯の付着部,皮膚,粘膜,結膜など全身のさまざまな臓器システムに炎症を起こすものが反応性関節炎です。膠原病の中では珍しく若い男性に多い疾患です。先行感染歴がはっきりしない場合もあります。
(?)すべての膠原病が多関節炎型である?
膠原病の中でも多関節炎型が主体となるのは関節リウマチ,強皮症,混合性結合組織病,再発性多発軟骨炎などに限られます。SLE,シェーグレン症候群,成人スティル病,血管炎などは単関節もしくは少数関節炎型で,間欠性,遊走性であることが多いです。
(!)乾癬性関節炎を診断するには家族歴や綿密な診察が鍵
乾癬は黄色人種では稀ですが,同定には家族
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