MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.04.04
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
藤田 尚男,藤田 恒夫 著
岩永 敏彦,石村 和敬 改訂協力
《評 者》山科 正平(北里大名誉教授・解剖学)
世界に誇る名著
“藤田・藤田”の名で親しまれてきた『標準組織学 各論』の第4版が刊行された。
1992年に刊行された第3版は多くの特色を持った教科書として,すでにかなり完成度の高いものであった。ところがこの数十年来,分子細胞生物学の急速な発展は,組織学にも着実に波及してきて,器官の構造と機能の理解は特段の深化をみるようになってきた。この間に累積された膨大な知見を,著者らの目で逐一精密に吟味して,その上で丹念な削除と追加を加えたことが,今回の改訂の主眼であったようだ。
かくして,胸腺ホルモン,壁細胞の塩酸分泌機構,膵腺房細胞の開口分泌,カハールの介在細胞,クララ細胞のサーファクタント分泌機能,内分泌器官概論,神経系の組織学をはじめ,多くの分野で理解が非常に深まってきた様相を随所に発見でき,精読した後,このような専門書ではなかなか味わうことのできない心地よい充足感を覚えた。むろん,それには極めて平易で明解な文章による効果が大きい。
組織学領域の発展は免疫組織化学法によるものが多い。こうした事実を反映して,免疫組織化学法による非常に美麗な写真がたくさん挿入されたが,電顕,特に走査電顕による説得力のある見事な写真が何枚も追加された。あらためて形態学の威力を喧伝する結果となっている。旧版では白黒だった光顕写真や図版も,ほぼすべてがカラー化されて理解を容易にしている。見出しの色刷りに加えて小見出しを大幅に整理するなど,視覚的に読みやすくなったことも特記すべきだろう。
日本の研究者の貢献を積極的に紹介することは,本書の大きな特色であったが,第4版では,高峰譲吉,上中啓三,池田菊苗などの先達,ハワイで活躍しておられる柳町隆造氏を大きく紹介するほか,本文の随所に邦人の研究成果を克明に列挙して,組織学領域における日本人の貢献が世界に冠たるものであることを明示している。
非常に豊富な参考文献を挙げていることが本書のもう一つの特色であったが,今回の改訂でも,役割を果たしたいくつかは削除しつつも,数多くの新しい文献を追加して,その総数は2200にも達している。中には,歴史的な古典や碩学による肩の凝らない読み物などもたくさん収載されているので,学生から専門家まで,どのレベルの方々にも貴重な情報源となるに違いない。
初版が出たころ,組織学を学ぶ医学生にとって,本書の総論,各論の2冊を精読することが試験に合格するための必須条件であった。しかし,この20年来のわが国の医学教育における“改革”は,基礎科目を徹底的にスリム化する方向へ進んでしまった。この傾向は,若者の活字離れにも大きく後押しされ,今や学生諸君が手にする教科書は絵解きによる簡素な1冊となってしまった。その結果,本書は次第に「advanced readings」のカテゴリーに棚上げされ,書名の「標準」は医学生から教官のレベルのものへと格上げされたことは極めて残念なことである。せめて心ある医学生には,国試対策ばかりではなく,本書の熟読により,人体の構造と機能のベールを一枚一枚はぎ取ることの妙味と快感を覚えていただきたいと切望する。また,これから器官の研究を始めようとするあらゆる分野の方々には,あたかも巨人の肩に乗った小人のごとく,一段上から世界を展望できる書物として推奨したい。
欧米に伝統的な組織学書は多数あるが,その中でも本書は群を抜いていると見て間違いない。こうした優れた書物を英文化して,世界へ向けて発信させることは,文化国家としての重要な役割であろう。あえて,出版社へも提案したい。
B5・頁616 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00302-5
ローレンス・ティアニー,松村 正巳 著
《評 者》今井 裕一(愛知医大教授・内科学)
いかにして名医が形成されるか
『ティアニー先生の臨床入門』が,前作の『ティアニー先生の診断入門』の続編として,ローレンス・ティアニー先生と松村正巳先生の共著で出版された。前作と同様に,名医の診断へのアプローチがわかりやすく解説されている。実は,英語のタイトルは,「Principles of Dr. Tierney’s medical practice」であるので,「ティアニー先生の臨床現場での原則」とでもいうべき内容である。
医師は,病態が理解できないいわゆる「むずかしい患者」「わけのわからない患者」を目の前にしたときにどのように問題を解決するのであろうか? その解決方法にのっとって経験が蓄積されれば,比較的短期間に名医あるいは良医になれるはずである。
残念ながら,ハリソンのテキストブックを精読しても,UpToDate®をいくら調べても,PubMedでいくら検索しても答えは得られない。本書はずばり,その解答を示している。
第1部と第2部を要約すると,4つのキーワードを抽出することができる。1つは,経験(experience)であり,もう1つは,その対極の根拠(evidence)である。さらには,病態生理に代表される科学的推論(logic)であり,最後の1つは,経験に裏打ちされたパール(clinical pearl)である。これらの4つをどのような臨床場面でどのようにして使用するのかを,ケーススタディで目の当たりにすることができる。
私も33年間医療に従事してきて,また教える立場になって気付くことは,臨床医学は,先輩から教わることで世代を受け継がれた縦糸のような知識・経験と,書物あるいはインターネットによる同世代の横糸の知識・経験が織りなす模様でできているということである。縦糸と横糸がうまく混ざり合って美しい織物を作っているのである。ティアニー先生も同じようなことを話している。
さらに重要なことは,若い医師は,経験のある師匠(メンター)を目標にすることは,好ましいことであるが,常に師匠を乗り越えてようやく一人前であり,その努力を惜しまないことが重要であるということが書いてある。
名医がどのようにして形成されるのか,若い医師も経験のある医師もぜひ一読することをお勧めする。
A5・頁164 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01177-8
中野 浩 著
《評 者》牧山 和也(春回会井上病院顧問)
若い消化器医からIBD専門医までの必読の書
本書は,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)の診療と研究をめざす者だけでなく,IBD専門医にも必読を勧めたい著書である。
潰瘍性大腸炎は約135年前に,クローン病は78年前に初めて報告されているが,いまだ原因不明で若年者に発症のピークがあり,人生を左右しかねない難治性疾患である。当然のことながら基礎的研究は細菌学的,免疫学的,遺伝子学的研究を主体に著しい進歩がみられるが,いわゆるdisease historyからみた探究は極めて少ない。本書は,治療と長期経過から病理学的所見を加味しdisease historyを詳細に観察した,まさに臨床研究論文である。
〈本書の構成の概要〉
1.症例数は,IBDとその関連疾患の計70例が掲載されている。クローン病が28例(うち参考症例3例),潰瘍性大腸炎が16例(うち参考症例1例),大腸結核が10例(うち参考症例2例),その他,鑑別を要する疾患(アフタ様腸炎,アメーバ腸炎,虚血性腸炎,腸型Behçet病,腸間膜脂肪織炎,Cronkhite-Canada症候群,cap polyposisなど)が16例(うち参考症例4例)である。
2.症例の経過観察は,注腸と小腸X線画像を主体に呈示されている。その他,簡明な病歴と内視鏡,切除標本,病理組織(生検,切除腸管)の画像と簡潔な考察によって構成されている。その中でもX線画像が277枚(49%),内視鏡画像が148枚(26%),病理組織画像が88枚(16%),切除標本画像が40枚(7%),その他が7枚(1%)と主に造影X線画像で経過が追跡されている。
〈本書の特色〉
1.特色は,精力的な経過観察からいわゆるIBDの疾病史を含めた全体像を知ることができることである。10年以上の経過が観察されている症例が,クローン病で28例中13例(最長23年6か月),潰瘍性大腸炎では16例中8例(最長26年9か月)である。
特に,クローン病の初期病変(aphthoid lesion)から5-16年後の経過で治癒に至ったと考えられる7例は必見である。
2.大腸の炎症性疾患の診断と経過観察には内視鏡検査が主流の昨今,X線造影検査が極めて重要であることが示されている。内視鏡検査と違いX線造影検査からは病変の分布と広がり(範囲),腸管壁の異常(病変の深さ,浮腫の程度,壁の硬さ,軟らかさ,変形,皺襞の異常,腸管の短縮など)を的確にとらえることができ,鑑別診断と経過観察に必須であることをあらためて認識させられる。
疾患の特徴を一次元で呈示した教科書的著書が多いなかで,精力的に長期にわたり資料を蓄え,経過を追及した著書は極めてまれである。著者の執拗なエネルギーが感じられる。
クローン病でアフタ性病変から治癒したと考えられる症例,あるいは典型像に進展した症例の病像の変化過程の把握は圧巻である。詳細な経過観察のなかに病因,病態追及の鍵が潜んでいることを疑わせない貴重な症例集である。したがって,繰り返しになるが,これからIBDを学ぼうとしている消化器医はもちろん,IBD専門医にも必読の書として推薦したい。
B5・頁256 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01168-6
杉本 元信 編
瓜田 純久,中西 員茂,島田 長人,徳田 安春 編集協力
《評 者》田妻 進(広島大病院総合内科・総合診療科教授)
初期診療の知識と臨床推論の方法が身に付く
臨床の基本は正確かつ迅速な「診たて」によって始まる実地診療のシナリオを,滞ることなく流れるように完結することである。この確かな演出こそ,医療者がめざす究極の到達目標である。本書が提供する症例Basedの臨床情報は,まさにその実践的な手本であり,著者らの確かな診療実績に裏打ちされており充実の一語に尽きる。その一方で,タイトル『臨床推論ダイアローグ』は微妙な混沌を想定させ,通りすがりの医療者をそれとなく惹きつける。読み進むにつれ,あたかも著者らとともに現場に同席している錯覚に陥る。それほど臨場感のある書き下ろしに,知らず知らずのめりこんでいく。そんな印象とともに本書を読み終えて再び表紙に目をやるとき,このタイトル『臨床推論ダイアローグ』は実に味わい深く心に残る。
総合診療が担当する受療者のニーズは複合的である。それゆえ診療自体が混沌としているためか,効率よく正確な診断にたどり着くには的確な臨床推論が望まれる。本書は,日常診療の現場において診断に至るプロセスで忘れてはならない重要事項が,実際の症例に基づいて解説されており,読み終わるころには現場の診療に必要な知識と臨床推論の方法が身に付いていると実感できるであろう。収載された40症例は,おのおの年齢・性別・主訴で始まり,Prologueとして簡単な病歴に続く。次に指導医と研修医の対話形式で診断に至る過程がDialogueとして読みやすい形で再現され,臨床推論が展開されていく。最後にEpilogueとして診断名や診断のポイントがわかりやすく記述されている。読者が学生や初期研修医・レジデントの場合は対話の中で指導医の問いかけに答える研修医の気持ちで,指導医の場合は研修医の疑問に答える指導医の気持ちで読み進めると,より臨場感が高まり楽しく学ぶことができる。
症例を難易度に応じて星1つから星5つに分けて,星の数が少ないほど診断にたどり着きやすい症例とする構成は実に巧妙で,きめ細かい配慮が見え隠れしている。たとえ難易度の低い症例であっても,本文中に重要なエビデンスと考え方がちりばめられており,ぜひともすべてを読破したいものである。筆者は難易度1-5まで1症例ずつ,1日5症例学ぶスタイルを試みて心地よく読み進めた。読み方の一例として紹介しておきたい。
総合診療分野でしばしばお目にかかる外来手引書や内科疾患ガイド,あるいは海外出版書物の翻訳書といったたぐいではなく,本書は日本の臨床の現場に即した臨床推論の名著であり,特に外来診療に従事する医師にお薦めしたい1冊である。
A5変型・頁456 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01057-3
ワシントン小児科マニュアル
The Washington Manual of Pediatrics
吉村 仁志 監訳
《評 者》鈴木 康之(岐阜大医学教育開発研究センター長)
子どもを診るすべての医師のためのナビゲーター
小児科は子どもの総合診療を担っており,その守備範囲は広大であり,小児科医としての基礎知識と臨床推論能力をバランスよく身に付けることは,思いのほか難しいものである。これは研修医にとっての課題であると同時に,指導する側の悩みでもある。研修医は毎日の診療を積み重ねながら小児科医としての能力を獲得していくわけであるが,その際,羅針盤となる書籍があれば,研修医にとっても,指導医にとっても大きな助けになることは間違いない。
『ワシントン小児科マニュアル』は,小児科的な思考過程のエッセンスがちりばめられ,Patient-orientedな考え方を重視した構成となっており,診療の流れに沿って思考し,問題解決できるように構成されている。
1)各診療分野の特性や注意点が簡潔に記載されており,どのような考え方や姿勢で臨めばよいかが明示されている。
2)症候・検査所見別のアプローチに関する記載と図表が充実しており,診療の流れに沿ってベッドサイドで使いやすい構成になっている。
3)小児科の最大の特徴でもある年齢を考慮した臨床推論過程が明示されている。
4)日常的に頻用される放射線診断学のコツ,呼吸管理も含めた鎮静のコツ,などが簡潔にまとめられている。
こうした内容は,研修医が修得すべき小児科のエッセンスであるとともに,指導医が日々研修医に伝えたいと考えている事項でもあり,多忙な指導医を助けてくれる1冊といえる。また,経験豊富な小児科,子どもを診るすべての医師にとっても役立つナビゲーターとなっている。本書は,診療の流れを重視しており,読みやすさ・使いやすさの点で優れている。小児科専門医をめざす研修医と指導医には特にお薦めである。
監訳者の吉村仁志医師は沖縄県立中部病院,南部医療センター・こども医療センターの小児科で長年にわたって臨床研修指導に当たり,その間,米国で臨床フェローシップを経験され,さらには英国で医学教育学修士を取得されるなど,本書を監訳するにふさわしい経験と学識を積んでこられた。監訳方針である「現場感覚」と「日本語のわかりやすい訳づくり」が隅々まで配慮されており,とても読みやすく仕上がっている。マニュアルとして断片的に参照するだけではもったいない,ぜひ通読して,小児科のエッセンスを読み取ってほしい1冊である。
A5変型・頁660 定価7,350円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/
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