医学界新聞

2011.03.21

がん医療における架け橋となるために

第25回日本がん看護学会開催


 第25回日本がん看護学会が2月12-13日,神戸国際会議場(神戸市)他にて開催された。近藤優子会長(兵庫県立がんセンター)のもと「がん看護が創る未来への架け橋」というテーマが掲げられた今回は,進歩が著しいがん医療をめぐる最新知見とともにがん領域における看護師のこれからの役割を展望する演題が組まれ,多数の参加者を集めた。


外来における看護の専門性とは何か

近藤優子会長
 在院日数の短縮化に伴い,がん治療の場は病棟から外来へとシフトしている。外来看護のさらなる充実が急務となるなか,各医療機関において,より専門性の高い看護を提供するための専門外来の開設が相次いでいる。シンポジウム「がん看護外来の現状と未来への可能性」(座長=兵庫医療大・佐藤礼子氏)では,がん患者の療養生活を支え,患者・家族にとってより身近な存在として機能するために看護職に求められている専門性とは何か,白熱した議論が展開された。

 はじめに登壇した松原康美氏(北里大東病院)は,がん看護専門看護師および皮膚・排泄ケア認定看護師の立場から,同院で実践しているスキンケア外来について紹介した。1996年に消化器外科外来に併設する形で開設された同院のスキンケア外来では,現在週3回予約制のケアが行われており,毎月延べ70人に上る患者が利用している。氏は,近年患者の悩みは多様化しており,看護専門外来は患者が心情を吐露する場ともなっていると説明。患者との相互作用を大切にした個別的なケアを重視することを説いた。さらに今後の課題として,看護実践の効果を明らかにするための研究や費用対効果を考慮した実践の促進を挙げた。

 続いて,リンパ浮腫外来をテーマに奥朋子氏(千葉大病院)が発言。氏はがん看護専門看護師として,2008年にリンパ浮腫外来を開設し,週1回のケアを実践している。リンパ浮腫を発症する患者が増加の一途をたどるなか,予防的かかわりの重要性が指摘されている。氏はリンパ浮腫ケアに不可欠な要素として,原疾患の病態・治療経過の適時かつ的確な把握,リンパ浮腫ケアの適応・禁忌を見極めるためのフィジカルアセスメント能力,主治医との適切な連携によるケア計画の調整,などを挙げた。さらに,リンパ浮腫におけるセルフケアの重要性を強調し,患者の伴走者として,患者が生涯継続可能なセルフケア方法を確立するための支援の在り方を提案した。

 摂食・嚥下障害看護認定看護師の青山寿昭氏(愛知県がんセンター中央病院)は,栄養・嚥下外来において,患者が「食べる」ことを支援している。自宅療養における食事の問題は非常に大きく,患者の性別,家族の支援状況など,個々の患者に応じたかかわりが必要である。氏は栄養・嚥下外来における看護師の役割として,退院後のリハビリテーション,食形態の指導,栄養指導,リスク管理,精神的サポートを列挙。中でも精神的サポートについて,患者・家族はがん治療による後遺症や予後への不安を抱え,さらに摂食・嚥下障害を受け入れられないままに自宅療養に入る場合も多いことから,必要な情報の提供を継続的に行うことが不可欠だとした。

 最後に登壇したがん化学療法看護認定看護師の宮本佐織氏(兵庫県立がんセンター)は,同院において2007年に導入されたIVナース制について報告した。同院では外来化学療法件数の増加に伴い治療までの患者の待ち時間が長時間化し,患者のQOLや病床回転率の低下などの問題が生じていた。そこで目を付けたのが,抗がん剤IVナースの導入だ。日本看護協会の「静脈注射の実施に関する指針」をもとに施設基準と教育体制を整備し,末梢静脈留置針の挿入,静脈埋め込み型ポートへのヒューバー針穿刺,抗がん剤の静脈注射・筋肉注射を現在IVナースが担っているという。氏は,IVナースの導入により運用面での問題が解決しただけでなく,看護師の能力開発やモチベーションの向上につながっていると評価した。さらに,同院外来化学療法室における電話介入の取り組みについて紹介し,患者が安心して医療を受けられる体制づくりを訴えた。

進化を続けるがんサバイバーシップ

 本学会の第15回学術集会が「がんサバイバーシップ:新しい看護の創造を!」をテーマに開催されてから10年。"がんサバイバーシップ"は米国がんサバイバーシップ連合(NCCS)が1986年に提唱した概念だが,がんの診断・治療成績の向上によってがん体験者が年々増加するなか,近年あらためて注目を集めている。教育講演「米国がん看護の最前線(Up dating Oncology Nursing; Topics from US)」では,Miranda Kramer氏(カリフォルニア大サンフランシスコ校)が,米国におけるがんサバイバーシップの現状やがん看護の動向について語った。

 米国においてがんに対するパラダイムシフトが始まったのは1980年代であり,この動きはNCCSの設立によってさらに加速した。NCCSは患者の自律を高めるために,オンラインによる情報提供や,がんサバイバーに対する啓蒙活動を行ってきた。米国政府は1996年,これらの市民活動に呼応する形で米国がん研究所にがんサバイバー室を設置。がんサバイバーシップに関する科学研究への資金提供を行ってきた。氏はこうした歴史を振り返った上で,米国疾病予防管理センターが2006年に示した「"がんサバイバー"とは,がんと診断された個々人,ならびに家族,友人,介護者を含むがんの診断により影響を受ける人々である」との最新の定義を紹介。がんサバイバーシップの広がりを高く評価した。

 続いて氏は,米国におけるがんサバイバーシップをめぐる3つの新たな潮流について解説した。1つ目は,市民団体によるソーシャルメディアやメディアデバイスのアプリケーションの活用。Facebookやブログなどサバイバー同士が能動的に交流する場が広がったほか,サバイバーの学習やセルフケアを支援するアプリケーションの開発・提供が進んでいるという。

 2つ目は,サバイバーシップ・クリニックの開設。医師主導,看護師主導など数多くのケア・モデルがあるが,多くの場合,診断や初期治療を医師が,その後の治療や経過観察は処方権を有するナースプラクティショナーが担うなど,役割分担している場合が多いと説明した。

 3つ目は,「サバイバーシップ・ケアプラン」の作成。これは,米国医学研究所が2005年に出した報告書「がん患者からがんサバイバーへ(From Cancer Patient to Cancer Survivor)」で提言したもので,すべてのがん患者に対し,治療終了サマリーとフォローアップのための指示を与えることを推奨している。米国外科学会がん委員会ではこの提言を受け,「サバイバーシップ・ケアプラン」の義務化を検討しているとのこと。氏はケアプランの内容にも言及し,疾患にかかわる情報だけでなく,多くのがんサバイバーが経験する心理的,社会的問題を考慮したサポート情報が盛り込まれていると述べた。