医学界新聞

寄稿

2011.02.28

寄稿

造血幹細胞移植時の
栄養・血糖管理に取り組んで

金成元(国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科・造血幹細胞移植科)


 造血幹細胞移植は,主に急性白血病や悪性リンパ腫といった造血器腫瘍患者に対して行う,治癒をめざす治療法です。造血幹細胞移植の成功の鍵は,支持療法を巧みに行い,有害事象や合併症をいかに軽減させるか,起こらないように導くかにかかっていると言っても過言ではありません。われわれは,重症の感染症や臓器不全を治療対象とする集中治療領域を中心に発展してきた栄養・血糖管理法を参考にして,造血幹細胞移植の成績向上をめざしてきました。本稿では,国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科における取り組みを中心に紹介します。

経口+経静脈栄養で1.0~1.3×BEE

 欧米では,造血幹細胞移植患者に対する投与熱量は,「基礎エネルギー消費量(BEE)×1.3~1.5」を推奨していますが,日本においてこの量が適切かどうかは不明です。投与熱量が少ないと低栄養になり,感染症や臓器障害に陥りやすくなります。逆に投与熱量が過剰になると,高血糖等が誘因となって合併症が増えてきます。適切な投与熱量を探る目的で実施された当院のモニタリング研究によると,投与熱量が1.0×BEE未満の群で体重が有意に減少し,生体電気インピーダンス方式高精度体構成成分分析器を用いて測定した骨格筋量に関してもほぼ同様に減少しました(図1 ; Am J Hematol. 2009[PMID : 19037865])。体重と骨格筋量は強い相関があるため,骨格筋量を維持するためには,体重モニタリングの有用性が示唆されます。

図1 同種造血幹細胞移植患者における投与熱量ごとの体重(左),骨格筋量(右)の変化

 合併症,在院日数,費用についても投与熱量が1.0×BEE以上の群と1.0×BEE未満の群で比較したところ,在院日数について有意差が示され,前者のほうが入院中の総費用も平均1人当たり200万円強の節約になりました()。国内の学会等では,造血幹細胞移植患者に対する推奨投与熱量は示されていないため,われわれの検討結果と欧米の推奨量を考慮して,当院では経口および経静脈栄養を合わせて1.0~1.3×BEE(25~30 kcal/kg/日)を維持するように調整しています。

 合併症の発症割合および移植後の在院日数・総費用・使用点滴抗菌薬平均薬価(文献1より)

血糖推奨値緩和の導入は慎重に

 2001年に外科ICU患者における厳格血糖管理(血糖値80~110 mg/dL)の有用性が発表されました。しかし,その後実施された複数の研究では有用性が認められず,最近の米国のガイドラインでは,血糖値110~150 mg/dLを推奨しています。一般病棟における血糖管理についても,最近では食前血糖値140 mg/dL未満,随時血糖値180 mg/dL未満というように推奨値が緩和されました。

 一方,頻用されているHematopoietic cell transplantation-specific comorbidity index(HCT-CI)の原著論文においても,移植前に糖尿病を有する患者の場合,2年非再発死亡割合は50%と高く,リスク比も1.6倍と報告されています。移植後に高血糖を招く要因は,糖尿病以外にもステロイド,免疫抑制薬,高カロリー輸液,感染症など多数あります。そこで,好中球減少期間中の血糖値が,移植後の合併症および非再発死亡と関係があるかを後方視的に検討したところ,非再発死亡およびII-IV度の急......

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