医学界新聞

2011.02.07

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


個人授業 心臓ペースメーカー
適応判断から手術・術後の管理まで

永井 良三 監修
杉山 裕章,今井 靖 執筆

《評 者》大野 実(虎の門病院循環器センター内科部長)

循環器にかかわるすべての医療関係者に

 レジデント向けに非常によくまとまった本である。

 最初は心電図での簡単な心拍数の推定法から始まり,最後まで読むと自分でペースメーカーを入れることができるようになり,また簡単なペースメーカーチェックができるようになる本である。私も管理職になり,特別な事情以外では自身がペースメーカーの植え込み手術に入ることは少なくなったが,そのような私でも良い復習となり,研修医の教育のために良い資料となっている。また新しいペースメーカーの機能など学ぶ点も多々ある。

 本書は非常に読みやすく研修医,特に循環器を志す研修医に勧めたい本である。コメディカルの人たちにも適している。また循環器の専門医が復習および頭の整理に使用するにも良い本である。私自身新たに学ぶ点もあった。

 合併症の記載も著者らの経験に基づいたもので,非常に具体的に書かれている。ペースメーカーは決して安全な手技ではなく,細心の注意を必要とする手技であることが理解できる。

 本書は循環器にかかわるすべての医療関係者にお勧めしたい。

A5・頁264 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00952-2


《総合診療ブックス》
症状でみる子どものプライマリ・ケア

加藤 英治 著

《評 者》橋本 剛太郎(はしもと小児科クリニック院長)

読後に自分の診療が変わったことを感じられる好著

 診療の腕を磨く上で大切なことは二つ。経験例を振り返って吟味することと,教科書や文献に当たって軌道修正をすることである。しかしこの二つを不断に続けるのは難しい。経験例が多くても振り返りや読書が不十分だと,偏狭な「オレ流」に陥る。

 福井県済生会病院小児科部長の加藤英治先生は,この不断の努力を長年コツコツと続け,たわわに実った小児診療の果実を一冊にまとめた。この本は教科書ではない。診療の現場で気を付けること,診療の進め方,考え方をあらためて気付かせてくれる本である。

 例えば「腹痛の診かた」の章では,病歴からどのように迫るか,診察からどのように迫るか,診断できない場合は?……と実際の診療に即して展開し,急性虫垂炎や腸重積症を見逃さないための,著者の経験に基づいたアドバイスが続く。急性虫垂炎の項では,自験例を集計して何をきっかけに診断に至ったかを丹念に分析している。ほかの章でも自験例の集計と分析が随所に見られ,著者の振り返りの姿勢には敬服するほかない。さらに教科書や文献から著者が得た膨大な知識のエッセンスが提示される。このように,経験と知識に裏打ちされた記述なので,読んでいると重厚な迫力が感じられてくる。

 複数の知人が「読んでいるうちにだんだん引き込まれて一気読みしてしまう」と言う。これは内容が豊かで痛快なだけでなく,著者の人柄が文章ににじみ出ているからだろう。よく食べ,よく飲み,よく話す,人の好いエネルギッシュな彼の文章からは,なんだか元気をもらえる。

 写真の豊富さもこの本のメリットの一つで,写真を眺めるだけでも多くを学べる。忙しい診療の中でよくこれだけの写真を撮ったものだと感心する。実は,彼はもっともっと多くの貴重な写真を私蔵しているが,この本には載せきれなかったのである。死蔵するにはあまりに惜しいので,次は写真集を出版してもらえないものかと期待している。

 参考書や文献のリストも豊富だが,その一つひとつに著者のコメントが付いているのがありがたい。「この本はイラストが豊富」「家庭医向けだが研修医にもお勧め」など,読者がさらに学ぼうとするときの指標になる。単なる引用源を示したアリバイ証明のような参考文献リストとは一線を画するこの新しいスタイルを,これからの本は踏襲してほしいものだ。

 この本は学生・研修医に小児科医の心を教えてくれる。家庭医・内科医に小児診療の落とし穴を教えてくれる。ベテラン小児科医には知識と経験の整理を促してくれる。読んだ後の自分の診療がちょっと変わったな,と感じる好著である。

A5・頁360 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01128-0


地域医療は再生する
病院総合医の可能性とその教育・研修

松村 理司 編著

《評 者》堺 常雄(日本病院会会長/聖隷浜松病院院長)

地域医療再生のための処方箋

 私が勤務する聖隷浜松病院では,過去10数年の間に各科の専門分化が進み診療の内容も高度化し先進的な医療にも対応ができてきた。それにもかかわらず,数年前から現在の診療体制はこれでよいのだろうかという漠然とした疑問が浮かんできている。例えば救急の場面で専門医が呼ばれ,「これはうちではないよ」という事例を散見するようになったからである。彼(彼女)自身からすればその通りなのかもしれないが,困るのは患者,看護師,初期対応の医師である。この時点では診療プロセスの中で何ら問題が解決されていないのである。

 このような状況を改善し,診療の基礎となる部門の充実と総合的な診療の質の保証をめざして考え出されたのが「診療部門3階建」構想である。1階部分が総合診療内科と救急科よりなるGeneral Medicine(総合診療部門),2階部分がSpecialties(専門各科),3階部分がSuper-specialtiesという構造である。縦,横の連携の充実が図れればと願っている。まだ完成してはいないがこれから1-2年のうちに構築しようと考えている。

 このような考えを持っているときに読んだのが本書『地域医療は再生する――病院総合医の可能性とその教育・研修』であり,まさに目から鱗が落ちた感じであった。本書は松村理司先生の36年にわたる医師としての経験をもとに書かれたもので現場の医療を知り尽くした上で地域医療再生のための処方箋を示されたものである。医療者が医療崩壊などと言っている場合ではなく,現場から医療を再構築しようという熱い心が込もった,しかも実現可能な提言である。

 IからVIまでは松村先生がご自分の経験,具体的な提言を述べられ,VIIからIXは松村門下の先生が現場からの考えを述べられている。ここで感心したのは日常診療の忙しい中で臨床研究,教育研究の重要性に言及されていることである。普通ならば「そんなことは無理」とのひと言で無視されそうな,しかしながら大切な点に触れていただき,まさにその通りと思った。研究心を失ったら進歩はおぼつかないのである。最後のXでは松村先生が「展望」を担当され,管理者の目で日本の医療全般の問題点について独自の考えを述べておられる。

 「医療崩壊」が叫ばれ,病院の勤務医は疲れきっている。すべてを政治のせいにするのは簡単であるが,現在の政治状況を考えると,残念ながら明るい展望は描けない。それではそのままでよいかといえばそうではなく,医療に携わる一人ひとりが自分にできることを実直に行っていく必要があるだろう。「誰かがやってくれる」ではなくて「自分たちがやらなければ何も起こらない」のである。その意味で本書は読者に何をやるべきかを示し,夢と希望を与えてくれるものとなっており,すべての医療人必読の書と言える。多くの読者が本書から刺激を受け,自分のやるべき方向性を見いだし,さらに前進することを切に願うものである。

A5・頁304 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01054-2


臨床推論ダイアローグ

杉本 元信 編
瓜田 純久,中西 員茂,島田 長人,徳田 安春 編集協力

《評 者》本村 和久(沖縄県立中部病院プライマリケア・総合内科)

名医の思考過程をたどる,臨床推論の生きた教科書

 表題の通り,病歴,身体所見から診断に迫る臨床推論の醍醐味を満喫できる名著である。難易度の低いものから,高いものの順に全部で40症例,どの症例も興味深い。東邦大学医療センター大森病院での経験をベースに書かれているとのことだが,臓器別ではない,診療科を超えた疾患のバラエティー,15歳から94歳までという年齢の幅,さまざまな垣根を取り払った総合診療の実践の素晴らしさを読んで実感できる。

 1例1例は明快な症例提示で始まり,さらに臨床推論→確定診断と小気味よく,研修医と指導医の対話形式で展開していく。その議論はわかりやすく病態に迫るもので,重篤な疾患の見落としがないように,慎重に鑑別診断を絞っていくさまは,指導医の思考過程そのものであり,臨床推論のまさに生きた教科書であると感じた。

 診断名は各症例の最後にしか提示されないので,必然的に的確に診断できるかと腕比べ(頭比べ?)となる。難易度が低いとされている症例も,診断を間違えてしまうかもとドキドキであった。難易度の高い症例になるにつれ,こういう展開もあるのかと膝を打つものばかりで,例えばCASE 36の35歳女性「両下腿浮腫と両下腿痛」は,「こんなに急激に悪化するものか,やはりダイエット……」,おっと,ネタばらしになるのでこれ以上具体的に症例をご紹介できないのが残念である。

 本書は,単なる診断当てクイズでなく,病態生理に関する深い議論もあり,読み応え抜群である。研修医向けに書かれているように見えるが,内容は,明快,簡潔ながら深いもので,臨床経験の豊富な医師でもとても勉強になる内容である。優れた解説を読むにつれ,こんな名医の指導を受けることができる研修医は幸せだろうと,本の世界ながら引き込まれて,私は一気に通読したが,1例1例は,10ページ余りであり,忙しいときでも拾い読みできるのも本書の長所であると感じた。

 最後になりましたが,多忙な臨床の中にもかかわらず,臨床推論の面白さを十分に知ることのできる本書をまとめられた編集の杉本元信先生をはじめ,東邦大学医療センター大森病院の先生を中心とする執筆者の皆さまに敬意を表します。

A5変型・頁456 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01057-3


医学生の基本薬

渡邉 裕司 編

《評 者》山口 徹(虎の門病院院長)

医学生を実臨床の奥深さへ導くハンドブック

 医学生の臨床実習も診療参加型になってきているというが,まだまだ見学的要素が少なくない。卒後臨床研修への連続性を考えると,学生のときからもっと実臨床に近い実習が必要であることは間違いない。4年生の共用試験(CBT, OSCE)の合格者にスチューデント・ドクターの資格を与え,より実質的な臨床実習を行おうとする動きがあるのも当然であろう。しかし現状では,研修医になって,主治医になって,初めて学生実習と実臨床との違いを思い知らされることになる。

 特にあたふたするのは,診断の面よりも治療の面であろう。治療行為を自ら行ったことがない点はもちろん,現場で飛び交う治療薬や治療器具の名前にも面食らうはずである。例えば,代表的な利尿薬はループ利尿薬と抗アルドステロン薬で,「フロセミド」と「スピロノラクトン」と教わっていても,現場で飛び交っているのは「ラシックス」や「アルダクトンA」という商品名である。冠動脈狭窄の治療器具として冠動脈ステントの存在を知り,最近では薬剤溶出性ステント(DES)が広く使われていると知っていても,現場で飛び交っているのは商品名である「サイファー(CYPHER)」や「プロマス(PROMUS)」である。学生実習でこの差を詰める取り組みがぜひとも必要であろう。

 本書は,医学生がベッドサイドでまごつかないよう,臨床現場の視点から治療薬について医学生用にまとめられたものである。「臨床上で使用頻度が高い」「医師国家試験にこれまで出題された」という条件で基本薬164が選ばれ,臨床使用頻度,国試出題頻度から重要度が「しっかり」「あっさり」に分類されている。国試も十分意識されており,頭の整理がしやすい。「しっかり」に分類された薬では,まず症例呈示があり,そしてその治療薬の必要性について病態も含めた考え方がまとめられている。医学生にはわかりやすいアプローチである。その後に具体的な薬について適応,製品名,用法用量,その使用上のポイント(Do & Don't),薬理作用がまとめられ,最後にエビデンスとなる臨床試験が紹介されている。

 1つの基本薬の項を読み終えると,その治療薬について講義と実臨床との間の溝がぐっと埋まることは間違いない。時間に追われた研修医よりは,医学生が臨床実習で出合った症例ごとにこの基本薬を1つひとつ読み進んでいくのがぴったりである。実習には1冊持ち歩きたいものである。

 本書は,治療薬の話を通して,医学生を実臨床の奥深さへと導いてくれる。このような医学生のためのハンドブックの出現が,より実効的な臨床実習への流れを加速することを期待したい。

B6変型・頁344 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00834-1


《脳とソシアル》
ノンバーバルコミュニケーションと脳
自己と他者をつなぐもの

岩田 誠,河村 満 編

《評 者》祖父江 元(名大大学院教授・神経内科学)

第一線の研究者による総決算

 インターネット時代に入ってわれわれは大きく世界が広がったように感じている。e-mailにより,外国の相手とも瞬時にコミュニケーションが可能となっており,われわれはこのe-mailなしには一日も過ごせなくなっていると言っても過言ではない。しかしこのe-mailは相手の顔が見えないし,声が聞こえない。われわれは文字情報に頼って真意を汲み取ろうとする。

 一方電話は,相手の声が伝わる。大切な相談や伝達は電話を使うことが多い。相手の声の中に本音を読み取れると感ずるからではないか。相手の気持ちを確かめながら,情報の交換ができると感じている。

 しかし,さらに相手の本音や心に触れるコミュニケーションをとりたいときには,実際に会って話をするということを行っている。相手の表情,目の動き,手振り,声の抑揚,姿勢などその情報は格段に増すことになる。われわれは言葉以外の部分にその人の本音の部分,本当の部分が読み取れることを本能的に知っているように思われる。最近では,このノンバーバルなコミュニケーションが大変希薄になっているように感じられる。しかしこのノンバーバルの部分がヒトの成長・発達や社会とのかかわりの中で,より重要で本質的ではないかとわれわれはうすうす感じている。インターネット時代の中でのこの部分の希薄さが,最近の社会性の欠如した人間の出現や犯罪にもひょっとして関連しているのかもしれないと感じたりしている。

 このような時代の中で,本書はノンバーバルコミュニケーションの重要性について説いている。それはどのようなもので,どのような脳のメカニズムによって行われるのか,どのような研究が進行しているのか,ノンバーバルコミュニケーションの領域の第一線の研究者による総決算が提示されている。本書を読み進むに従って,それがいかに重要なものなのかがあらためて認識させられる。人格や社会性とその破綻や,さらには脳科学の社会的意義という脳科学の中心課題にも踏み込んでいる。

 中でも,顔認知の脳科学と身体性コミュニケーションの脳科学に大きなスペースが割かれており,ノンバーバルコミュニケーションの重要性とその脳メカニズムが,異分野の人にもわかりやすく解説されている。

 さらに本書の魅力は,岩田誠,河村満の両編者が,「発刊に寄せて」,あるいは「あとがきにかえて」として対話の形式をとりながら,ノンバーバルコミュニケーションの本質を語り合っている点である。これは随想風の「こぼれ話」と相まって,ノンバーバルコミュニケーションについての本音の部分が盛り込まれているように感じられる。各章のエキスパートによる文字情報に対して,本音の議論がアクセントを作っているという構成は実に見事である。

 本書はノンバーバルコミュニケーションの重要性を脳科学の立場から解説した啓発の書である。脳科学によって人の心や文化といったさらに高度の脳活動を読み解くことが可能であることを示唆するチャレンジの企画であると思う。

 本書はわれわれ神経内科医など,脳科学の領域に携わる者にも心地よい内容であるが,広く一般の人々や異分野の人々にこそ推薦したい。

A5・頁240 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00996-6


解剖を実践に生かす
図解 泌尿器科手術

影山 幸雄 著

《評 者》冨田 善彦(山形大教授・腎泌尿器外科学)

「症例から学ぶ」 真摯な態度に基づく良書

 これまで,特に和文で書かれた手術書については個人的に苦い経験がある。あまりに自信たっぷりで思い入れが強すぎ,アートのみが先行して論理的な思考が欠落した,科学的でないものや,現場で場数を踏んでいない医師の執筆による,お話にならないものが多く,大枚をはたいて入手しても使い物にならないという経験をした。一方,英語で書かれたものにも良書はあるが,なにせ白人や黒人を主な手術対象として書かれているわけで,われわれ東アジア人の解剖にはマッチしない面も少なくない。

 そのため筆者は,とかく学会のビデオ演題,DVD,ネット配信画像,AVソースを利用したり,手術後は囲碁将棋のごとく,検討会において手術後の「感想戦」を行ったり,あるいは場所を変えて(居酒屋などで)の「雑談学」により,手術のスキルアップを...

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