臨床推論ダイアローグ

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指導医とレジデントの対話形式で診断の思考プロセスをトレーニング。「よくある疾患だが意外な症状」や「よくある症状だが意外な疾患」など、研修医にとって示唆に富む40症例を厳選。これらを診断の難易度別に5段階に分類し、初学者でも無理なくステップアップできる構成とした。各項目は「Prologue(症例提示)→Dialogue(臨床推論)→Epilogue(確定診断)」という一連の流れで小気味よく展開。
編集 杉本 元信
編集協力 瓜田 純久 / 中西 員茂 / 島田 長人 / 徳田 安春
発行 2010年09月判型:A5変頁:456
ISBN 978-4-260-01057-3
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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編集の序

 昨今医学の各領域が専門分化するにつれ,内科や外科では臓器別に深い知識と高度な技能が要求されるようになってきたが,その反面ヒトを全体としてとらえ,内科や外科などの枠を超えて総合的に診療することが重要であるとの認識が強くなってきている。臨床医学各分野における専門書には良書が綺羅星のように多く出版されているのに対し,研修医を対象とした総合診療分野の書物は極めて少ないがいくつかの名著が世に出されている。しかし,主に外来診療の手引きであり,症例が内科疾患に限られていたり,海外の出版物の翻訳書だったりで,臨床の現場に役立つ書物がまだ他にあっても良いのではないかと思ったのが本書企画のきっかけであった。
 収載した40症例は東邦大学医療センター大森病院で実際に経験した症例をベースにしている。当院の総合診療科は2002年11月に東邦大学医学部総合診療・救急医学講座として発足したが,内科,外科,感染症科,救急医学,東洋医学が一緒になった,全国的にみてもユニークな臨床講座である。病院内では「総合診療・急病センター」という名称で診療しており,救命救急センターが併設され,一般入院病床も有している。初診外来としては,診療科の垣根が低いという意味で患者に優しい構造を有していると自負している。執筆者は当院のスタッフであるが,編集協力者の1人である徳田安春先生(筑波大学教授)には東邦大学客員教授を務めて頂いている関係から指導的な立場で御参画をお願いした。また,執筆者の佐仲雅樹先生(城西国際大学薬学部教授)は本年3月まで東邦大学講師で,その後は客員講師(非常勤)として診療を務めて頂いている。
 本書は,日常診療の現場において診断に至るプロセスで忘れてはならない基本的な重要事項を,実際の症例に多少の修飾を加え,指導医と研修医の対話形式で読みやすい形に再現したものである。ここでは,よくある疾患でありながら意外な症状で受診した症例,よくある症状でありながら意外な診断(稀有な疾患)だった症例などさまざまな症例を通して,基本的な診断と治療のテクニックを学ぶことができるように編集したつもりである。各症例(Case 1~40)の表題は年齢・性別と主訴であり,本文はPrologueとして簡単な病歴で始まる。次に指導医(大森学医師)とレジデント(東邦子医師)のDialogueとして,診断に至る過程が追加の問診,診察所見,検査所見の順で記述され,臨床推論が展開されていく。症例の末尾には必ずEpilogueとして診断名が記載され,診断のポイントがわかりやすく記述されている。しかし,診断のみでなく,できる限り治療やその後の臨床経過も読者の目線に届きやすく解説するように心がけた。各症例のEpilogueの後には適宜,コラム(Monologue)を配した。編集の都合上,空きスペースとの相性を優先したため,各症例のテーマと必ずしもマッチしていない点を予め断っておきたい。
 各症例は診断の難易度順に5段階に分類されているが,読んで頂く順番はこの順番にこだわらずに,目次で気になった主訴の症例から読んで頂いても問題ない。目次からは診断名を検索できないため,巻末に掲載された診断名一覧も利用して頂けると幸いである。読者の対象としては,医学生や初期研修医,レジデントを意識したが,すでに実地医家となって第一線で活躍されている勤務医や開業医の方々にも,広く読んで頂けることを希望している。読み終えた時に知識のうえで得をしたと実感して頂けるならば,編集者として望外の喜びである。

 最後に,本書の企画,構成,執筆にわたって多大な御尽力を賜りました医学書院編集部の西村僚一氏に心から感謝の意を表します。

 2010年8月 芦ノ湖畔で山百合を愛でながら
 杉本 元信

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[CASEごとにPrologue(症例提示),Dialogue(臨床推論),Epilogue(確定診断)が並びます]

第I章(難易度 ★)
 CASE 1 29歳男性「夜間に増悪する頭痛と発熱」
 CASE 2 29歳男性「統合失調症患者の発熱と排尿時痛」
 CASE 3 56歳女性「2日前からの頭痛と嘔気」
 CASE 4 38歳男性「頭痛と微熱」
 CASE 5 65歳男性「持続する発熱と右肩の痛み」
 CASE 6 40歳男性「腰痛」
 CASE 7 22歳女性「腹部手術後の発熱」
第II章(難易度 ★★)
 CASE 8 63歳男性「労作時の息苦しさ」
 CASE 9 75歳女性「20日前からの下腿浮腫」
 CASE 10 76歳女性「糖尿病患者の発熱と腰痛」
 CASE 11 58歳女性「3週間持続する発熱と左咽頭痛」
 CASE 12 24歳女性「咽頭痛,発熱,頸部痛,全身倦怠感」
 CASE 13 21歳男性「突然発症した胸部違和感と胸痛」
 CASE 14 35歳男性「胸部圧迫感」
 CASE 15 63歳男性「2ヶ月前からの心窩部痛」
 CASE 16 84歳女性「嘔吐と腹痛」
第III章(難易度 ★★★)
 CASE 17 51歳女性「2週間前からの労作時呼吸困難,動悸,胸部不快感」
 CASE 18 47歳女性「下腹部痛」
 CASE 19 37歳男性「右下腹部と頸部痛」
 CASE 20 32歳女性「体動時に増強する右上腹部痛」
 CASE 21 40歳男性「突然の項部から後頭部の痛み」
 CASE 22 26歳男性「下痢と嘔吐による脱水」
 CASE 23 36歳男性「3年前からの食後の脱力」
 CASE 24 53歳男性「前胸部痛」
 CASE 25 36歳女性「鼠径部腫瘤」
第IV章(難易度 ★★★★)
 CASE 26 40歳男性「心窩部痛」
 CASE 27 62歳女性「1年前からの咽頭違和感」
 CASE 28 59歳男性「咽頭痛,発熱,右下腿腫脹,全身筋肉痛」
 CASE 29 36歳男性「突然の右上腹部痛」
 CASE 30 25歳女性「頭痛,嘔気,悪寒,心窩部痛に伴う倦怠感」
 CASE 31 45歳女性「両肩と大腿部の痛み,全身倦怠感」
 CASE 32 94歳女性「1週間前からの腹部膨満と嘔吐」
第V章(難易度 ★★★★★)
 CASE 33 50歳女性「高血圧患者に起こった突然の複視」
 CASE 34 15歳女性「下腹部痛」
 CASE 35 63歳男性「食後の一過性意識障害」
 CASE 36 35歳女性「両下腿浮腫と両下腿痛」
 CASE 37 17歳女性「右下腹部痛」
 CASE 38 35歳女性「5ヶ月間に徐々に進行した眠気」
 CASE 39 43歳男性「左鼠径部の膨隆」
 CASE 40 45歳男性「心窩部痛と黄疸」

 診断名一覧
 索引

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初期診療の知識と臨床推論の方法が身につく
書評者: 田妻 進 (広島大病院総合内科・総合診療科教授)
 臨床の基本は正確かつ迅速な「診たて」によって始まる実地診療のシナリオを,滞ることなく流れるように完結することである。この確かな演出こそ,医療者がめざす究極の到達目標である。本書が提供する症例Basedの臨床情報は,まさにその実践的な手本であり,著者らの確かな診療実績に裏打ちされており充実の一語に尽きる。その一方で,タイトル『臨床推論ダイアローグ』は微妙な混沌を想定させ,通りすがりの医療者をそれとなく惹きつける。読み進むにつれ,あたかも著者らとともに現場に同席している錯覚に陥る。それほど臨場感のある書き下ろしに,知らず知らずのめりこんでいく。そんな印象とともに本書を読み終えて再び表紙に目をやるとき,このタイトル『臨床推論ダイアローグ』は実に味わい深く心に残る。

 総合診療が担当する受療者のニーズは複合的である。それゆえ診療自体が混沌としているためか,効率よく正確な診断にたどり着くには的確な臨床推論が望まれる。本書は,日常診療の現場において診断に至るプロセスで忘れてはならない重要事項が実際の症例に基づいて解説されており,読み終わるころには現場の診療に必要な知識と臨床推論の方法が身についていると実感できるであろう。収載された40症例は,おのおの年齢・性別・主訴で始まり,Prologueとして簡単な病歴に続く。次に指導医と研修医の対話形式で診断に至る過程がDialogueとして読みやすい形で再現され,臨床推論が展開されていく。最後にEpilogueとして診断名や診断のポイントがわかりやすく記述されている。読者が学生や初期研修医・レジデントの場合は対話の中で指導医の問いかけに答える研修医の気持ちで,指導医の場合は研修医の疑問に答える指導医の気持ちで読み進めると,より臨場感が高まり楽しく学ぶことができる。

 症例を難易度に応じて星1つから星5つに分けて,星の数が少ないほど診断にたどり着きやすい症例とする構成は実に巧妙できめ細かい配慮が見え隠れしている。たとえ難易度の低い症例であっても,本文中に重要なエビデンスと考え方が散りばめられており,ぜひともすべてを読破したいものである。筆者は難易度1~5まで1症例ずつ1日5症例学ぶスタイルを試みて心地よく読み進めた。読み方の一例として紹介しておきたい。

 総合診療分野でしばしばお目にかかる外来手引書や内科疾患ガイド,あるいは海外出版書物の翻訳書といった類ではなく,本書は日本の臨床の現場に即した臨床推論の名著であり,特に外来診療に従事する医師にお薦めしたい1冊である。
総合診療のレベルアップに役立つ「対話型」教科書
書評者: 林 純 (九大病院総合診療科)
 この『臨床推論ダイアローグ』はあらゆる臓器,あらゆる分野の疾患が網羅され,種々の症状を訴える40の症例が提示されています。初診の外来患者について,正しい診断に導くために指導医が研修医に問題を提起しながら尋ねていき,それに対して研修医が答えながらも指導医にも質問するという対話形式で進められ,最終的にはその症例の診断が示される医学教科書です。

 その症例の難易度も5段階に分類されているのも特徴です。指導医と研修医との間で,Prologueとして現病歴・既往歴が紹介され,Dialogueとして主要な鑑別疾患,特徴的な身体所見,必要な検査などの診断アプローチやそのコツについてdiscussionが進んでいき,最後にEpilogueとして確定診断が示され,参考文献も提示されています。

 本書で工夫がみられるのは何と言っても,Dialogueの内容です。すなわち症例によっては,上述した内容以外に,症状からの鑑別方法,身体所見の取り方,緊急検査の必要性や検査方法の選択,初期対応などの基礎的なものから,画像を含む検査所見の見方,細胞外液と細胞内液などの病態生理に対する考え方,あるいは既に投与されている薬剤(漢方薬を含む)に対する考察,治療の問題点などの応用・発展的なものまでを含めてdiscussionのポイントとしています。

 さらに,「診断エラー」は思い込みなどの6つのバイアスがあることが取り上げられており,筆者にとっても過去の反省を含めて参考になりました。この本の素晴らしさは,これにとどまらず,31のMonologueが用意され,その症例に関連した知識を拡大し,深みが増すように工夫されていることです。実際に読んでみると,指導医が研修医に教えている内容も素晴らしく,一つの症例からたくさんのことが学べるのだということを,改めて教えられた気がします。

 5年生以上の医学生,研修医はもとより,1日1症例読んでいくだけで,指導医クラス,あるいはベテランとされる医師もレベルアップに役立つ有用な医学教科書だと思います。特に,われわれ総合診療医は未診断患者を速やかに的確に診断し,初期治療を行い,場合によっては専門診療科の医師との協力を円滑に進めなければなりません。このような観点から,総合診療医あるいはそれを目指す医師にとっては『臨床推論ダイアローグ』は必読の医学教科書だと言えるでしょう。
名医の思考過程をたどる,臨床推論の生きた教科書
書評者: 本村 和久 (沖縄県立中部病院プライマリケア・総合内科)
 表題の通り,病歴,身体所見から診断に迫る臨床推論の醍醐味を満喫できる名著である。難易度の低いものから,高いものの順に全部で40症例,どの症例も興味深い。東邦大学医療センター大森病院での経験をベースに書かれているとのことだが,臓器別ではない,診療科を超えた疾患のバラエティー,15歳から94歳までという年齢の幅,さまざまな垣根を取り払った総合診療の実践の素晴らしさを読んで実感できる。

 1例1例は明快な症例提示で始まり,さらに臨床推論→確定診断と小気味よく,研修医と指導医の対話形式で展開していく。その議論はわかりやすく病態に迫るもので,重篤な疾患の見落としがないように,慎重に鑑別診断を絞っていくさまは,指導医の思考過程そのものであり,臨床推論のまさに生きた教科書であると感じた。

 診断名は各症例の最後にしか提示されないので,必然的に的確に診断できるかと腕比べ(頭比べ?)となる。難易度の低いとされている症例も,診断を間違えてしまうかもとドキドキであった。難易度の高い症例になるにつれ,こういう展開もあるのかと膝を打つものばかりで,例えばCASE 36の35歳女性「両下腿浮腫と両下腿痛」は,「こんなに急激に悪化するものか,やはりダイエット……」,おっと,ネタばらしになるのでこれ以上具体的に症例をご紹介できないのが残念である。

 本書は,単に診断当てクイズでなく,病態生理に関する深い議論もあり,読み応え抜群である。研修医向けに書かれているように見えるが,内容は,明快,簡潔ながら深いもので,臨床経験の豊富な医師でもとても勉強になる内容である。優れた解説を読むにつれ,こんな名医の指導を受けることができる研修医は幸せだろうと,本の世界ながら引き込まれて,私は一気に通読したが,1例1例は,10ページ余りであり,忙しいときでも拾い読みできるのも本書の長所であると感じた。

 最後になりましたが,多忙な臨床の中で,臨床推論の面白さを十分に知ることのできる本書をまとめられた編集の杉本元信先生をはじめ東邦大学医療センター大森病院の先生を中心とする執筆者の皆さまに敬意を表します。

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