医学界新聞

連載

2010.12.06

研修医イマイチ先生の成長日誌
行動科学で学ぶメディカルインタビュー

[第9回]

■家族志向のケア(2)
 家族面談の方法

松下 明(奈義ファミリークリニック・所長 岡山大学大学院・客員教授/三重大学・臨床准教授)


前回よりつづく

 僕の名はイマイチ,25歳独身。地元の国立大学医学部を卒業し,県立病院で初期臨床研修2年目を迎えた。病態の理解には自信があるが,患者・家族とのコミュニケーションはちょっと苦手。救急外来で救急車が続くときに,特に軽症の夜間外来患者を診るとイライラしてしまうことがある。学生時代に医療面接は勉強したが,実際に患者さんを診るとどうも勝手が違う。そこで,研修2年目に入った今,地域医療研修を利用して何とかコミュニケーション能力を高めたいと考えている。


 前回受診した川崎さんから,離婚後に乳癌の手術を受けた娘さんや胸痛で不登校気味になっている孫娘(萌さん10歳)の話,祖父が孫娘たちに厳しく接しているようすをイマイチ先生は理解した。急性のストレスに伴う一過性の家族内混乱状態(連載第8回 図1参照)と判断し,イマイチ先生は院長先生に相談の上,家族面談を企画した。

 面談前の仮説は,両親の離婚後の新しい家族形態への適応と母親の乳癌の手術・入院が重なって,川崎さん一家のストレスが大きくなり,萌さんが体調を崩しているというもの。なお,面談前の萌さんの身体診察や検査結果では異常はなかった。

イマイチ 今日,皆さんにお集まりいただいたのは,萌さんの胸の痛みがなかなか手ごわくて,学校に行けなくなってしまっている状況も含め,皆さんのお知恵を拝借したいと思ったからなのです。

祖父 知恵を借りる?

イマイチ ええ。こういう難しい状況の際には,医学的アプローチに加えて,一番身近なご家族の意見を参考にしながら解決の糸口を探すことが効果的なのです。

……(中略)……

イマイチ それでは,萌さんの胸の痛みについて困っていることを話していただけますか? まずはおじいさまから。

祖父 まあ,いろんなことがあったのでしんどくなっているんでしょうが,学校に行けないのはよくないと思います。この子の両親が離婚したため私が父親代わりをしないといけないと思っているので,学校に行けない状態には責任を感じています。

イマイチ なるほど。……どうです,おばあさまは?

祖母 私はある程度休むのは仕方がないのかなぁと思っているのです。両親の離婚後こっちにやって来て,新しい環境にようやく慣れたところで,母親の手術と入院でしょう? しんどくなって学校を休むことくらいあるのではないでしょうか。

祖父 おまえがそうやって甘やかすから,なおさら萌が学校を休むんじゃないか!!!

イマイチ まあちょっと,ちょっと待ってください。おじいさまの気持ちはわかりますが,ここでは「誰がどうだから」ではなく「ご自分としてどうなのか」を話していただきたいのです。まずはおばあさまのお気持ちをうかがった上で,もう一度聞かせていただきますのでもう少しお待ちください。(交通整理

祖父 はぁ,いいですけど。

イマイチ それでは,おばあさまとしては胸が痛いのが体の病気でないなら,引越しや母親の病気の影響が強いので,学校に行けないくらいしんどくなるのもある程度仕方がないと?

祖母 ええ。これまでこの子は本当にいい子で,母や妹のことをよく心配して頑張ってきたのです。傷が癒えるのに少し時間がかかると思うので,そっとしてあげる時間も必要だと思うのです。

イマイチ なるほど。これまで頑張ってきて,ここに来てかなり大きな傷があるので,傷が治る,自然治癒力が働くまではそっとしておいてあげたいという意見ですね。

祖母 はい。そのとおりです。

イマイチ (祖父に対し)先ほどはすみませんでした。では今度はおじいさまのご意見をいただけますでしょうか?

祖父 私は父親代わりとして,何とか小学校に行ってもらわなくては,と思うだけです。これからの人生でももっと辛いことがあるかもしれないし,これをバネに乗り切ってほしいのです。

イマイチ なるほど。おじいさまも,おばあさまも視点は違いますが,本当に萌さんのことを考えて,心配しておられるのですね(感情面への対応)。では,萌さんの気持ちや考えを教えてもらってもいいですか?

萌さん 学校に行けないことをおじいちゃんが心配してるのはよくわかっているんです。私だって学校の友達と遊びたいし,勉強だってしたいんです。でも朝になると胸が痛くて……。

イマイチ そうかぁ。萌さんは学校が好きだけど,行けなくて苦しいんだね?(感情面への対応

萌さん うん。おじいちゃんの言うことはわかるけど,「頑張れ!」って言われると……。頑張っているんだよ,萌だって……(涙)。

イマイチ そうだよね。萌さんは本当に頑張っているけど,体が言うことをきかなくなっちゃうんだよね……(間)。(感情面への対応

* * *

 イマイチ先生,家族面談の基本を理解してとても上手でしたね。今回は家族志向のケアの実践方法について話をしてみましょう。

家族とかかわるパターンとは

 家族に集まってもらうべき状況を表1に,日常診療における家族とのかかわり方の3パターンを表2にまとめました。家族の木(連載第8回 図2参照)をイメージしながら個人のケアをする場面が最も多く,次いで偶然居合わせた家族との面談,最後にこちらから呼んで集まってもらう面談の順に頻度は低くなります。

表1 いつ家族に集まってもらうべきか?

表2 家族参加のタイプ(文献2より引用)

 また,家族面談の具体的手順として家族カンファレンスの進め方を表3にまとめました。これは,家庭医と家族療法家によって考案されたもので,全レベルの家族面談(連載第1回 表2参照)を行えることを目的としたものです。

表3 家族カンファレンスの進め方

家族カンファレンスの実際

 では,イマイチ先生の行った家族カンファレンスを振り返ってみましょう。

1.挨拶と波長合わせ
 本題へ入る前に,参加者それぞれと波長合わせを行っておくと,本題での話が弾みやすくなると言われています。良い雰囲気作りは話し合いをスムーズにするために不可欠です。初対面の人ほど,この波長合わせをしっかり行う必要があります。波長合わせは,会話の内容だけでなく声量・トーン・スピード,体の姿勢などを相手に合わせることで「何でも話せる雰囲気」を作ることでもあります。

2.ゴールの設定(医療者・患者・家族)
 家族カンファレンスで成し遂げたいゴールについて,医療者側だけでなく参加者にも意見を求めます。

3.問題点についての話し合い
 それぞれの意見を引き出しながら,ケンカにならないように会話の「交通整理」を行う必要があります。「自分が何に困っているか」について話してもらい,それぞれに医療者が共感することで家族の誰かが非難されることを回避できます。

4.プラン作り
 医療者・患者・家族のそれぞれの立場からプランを考えてもらうとよりよいプラン作りが可能となります。

5.質問を促す
 カンファレンスの最後で必ず質問を促すことで,言い出しにくかった家族の意見が聞けることがあります。

ポイント
(1)家族カンファレンス成功のコツは,「参加者それぞれの辛い状況に十分共感した上で,プラン作りに入る」こと。
(2)誰かが批判を始めた場合,「その人が何に困っているか」に焦点を当て,「悪者」を作らないコミュニケーションを行う。
(3)家族とのかかわりでは,個人に対するアプローチ,偶然居合わせた家族との面談,そして頻度は少ないがこちらから呼んで行う家族面談の3パターンを使い分ける必要がある。

イマイチ 今日のつぶやき

家族図で相手の状況を理解したり,仮説を立てた上で家族面談をすると,意外とスムースにやれてびっくりした。これまでやってきた解釈モデルの把握や感情への対応も家族面談で活用できたし,ちょっと自信を持つことができたぞ。院長先生,ありがとう!

つづく

参考文献
1)松下明監訳.家族志向のプライマリ・ケア.シュプリンガー;2006.
2)Medalie JH, et al. The family in family practice : is it a reality? J Fam Pract. 1998 ; 46(5) : 390-6.

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