医学界新聞

2010.11.01

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


AO法骨折治療[英語版DVD-ROM付] 第2版

Thomas P Ruedi,Richard E Buckley,Christopher G Moran 原書編集
糸満 盛憲 日本語版総編集
田中 正 日本語版編集代表

《評 者》永田 見生(久留米大主任教授・整形外科学)

外傷学に携わる者必携の骨折治療マニュアル

 医学書院発刊の『AO法骨折治療』(第2版)の書評の依頼があり,運命的と感じ執筆を引き受けました。その理由は,私が1981年4月から,当時,Otto Russe教授が主宰されていたオーストリアのインスブルック大学病院災害外科に留学し,当時はわが国での普及がまだ不十分であったAO法を1年間研修したからです。

 当時,久留米大学は九州大学出身の宮城成圭教授が主宰され,骨折治療は神中,天児式でした。骨接合術の固定器具には天児式プレートなどを使い,AOが提唱する解剖学的整復と頑丈な器具による強固な固定法には批判的でした。インスブルック大学病院着任時は手術助手を数例務め,早々に執刀医を命じられましたが,AO器具の使用経験がなく困りました。スクリュー刺入時にタップを切るなど初体験でしたので,学内の書店で『Manual der Osteosynthese, AO-Technik』を購入し,AOのコンセプトを必死に勉強したのが昨日のことのようです。

 この本は,日本で翻訳され『図説骨折の手術AO法』として1970年に医学書院から発刊されています。当地で200例を越す手術に携わる中で,AOの原点は,骨折のみを治すのではなく,患者を適切に治すことにあるのだと学びました。これは,ヨーロッパの人たちの“運動器障害と生命とは同等”,すなわち,“命があっても行動ができなければ生きている意味がない”との考えが根底にあるからであると感じました。したがって,このような国民性に応えなければならない災害外科医の心構えがわが国とは異なることを実感しました。

 さて,『AO法骨折治療』(第2版)はAOグループ骨折治療マニュアルとして世界に発信されたシリーズの第4弾で,世界展開中のAOコースの内容をさらに学術的に深く掘り下げたものです。本書の冒頭に,北里大学名誉教授の糸満盛憲先生をはじめAO Alumni Association Chapter Japanの役員一同が,21世紀の外傷治療学のバイブルとも言える第4弾の翻訳を受け持ち,興奮を覚えながら完成させたと述べられています。

 AOのコンセプトも1981年当時と現在とでは決定的な違いがあります。1981年当時の治療目標は,(1)解剖学的整復,(2)安定した骨折固定(絶対的安定性),(3)血流の温存,(4)患肢と患者の早期運動で,絶対的安定性は,初期にはすべての骨折に適応され,術者はすべての骨折に対して,粉砕された茶碗を原型に復元するかのように必死に整復を試みていました。

 しかし,現在のコンセプトは,絶対的安定性は関節内骨折や特定の骨折にのみに要求され,血行や軟部組織を損傷せずに行える場合のみに限られています。そして,骨幹部骨折では,長さ,アラインメント,回旋は矯正するが,骨折部の解剖学的整復は必要がないという相対的安定性の確保という概念へと治療目標が変革されており,このことはわが国の先哲の見識に通じるものがあります。

 本書はAOグループが総力を挙げて完成した骨折治療マニュアルであり,完成された日本語訳からは外傷治療に対する和訳担当者の気概が伝わってきます。本書には手術手技が習得できるCD-ROMも付いており,外傷学に携わる方々はぜひ詳読していただきたいものとなっています。

A4・頁752 定価39,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00762-7


アトラス 細胞診と病理診断

亀井 敏昭,谷山 清己 編

《評 者》根本 則道(日大教授・病理学)

細胞像と組織像が対をなして,使い勝手のよいアトラス

 このたび,亀井敏昭先生(山口県立総合医療センター)と谷山清己先生(呉医療センター・中国がんセンター)編集による『アトラス 細胞診と病理診断』が医学書院から刊行された。

 あらためてご紹介するまでもなく,両氏は病理学会ならびに臨床細胞学会で指導的な立場で活躍されている現役の病理医であり,細胞診と病理診断の実務における豊富な経験と貴重な症例をたくさんお持ちの,いわば細胞診と病理の鉄人である。

 本書の特徴の1つは編者の豊富な人脈を駆使した90名にものぼる実務家(病理医,臨床医,細胞検査士)による,総論(病理学的理解,検体採取と標本作製,スクリーニング,報告様式,周辺技術,精度管理,医療安全対策,医療倫理)と各論(婦人科,呼吸器,消化器,内分泌,泌尿器,体腔液,乳腺,中枢神経,血液・骨髄・リンパ節,骨・軟部)の執筆である。

 とりわけ総論の項においては,限られた紙数の中に極めて重要かつ基本的な事項が要領よくまとめられている。各論の項では,各領域において日常業務で遭遇する頻度の高いものはもちろんのこと,比較的頻度は低いが鑑別診断として重要なものがほとんど網羅されている。執筆は個々の疾患ないし病態について,その定義・概念,頻度,臨床所見,細胞所見,組織所見が簡潔に解説されており,特徴的な細胞像と組織像が対をなして掲載されている。また,細胞像と組織像にはシェーマが付され,説明文を読むだけでは理解に苦慮する初学者に対する細やかな配慮がなされている。

 なお,本書に掲載されている細胞像ならびに組織像は,アトラスの使命である教科書的かつ典型的であるとともに非常に美しく,編著者らの本アトラスに対する並々ならぬ情熱を感じる。各論に関しては基本的に1ページ(時に半ページ)で参考文献を含めすべての解説が完結するため,ページをめくる必要がなく非常に読みやすい体裁となっている。

 さらに,本書のもう1つの特徴は,随所にTopicsがちりばめられていることである。Topicsに取り上げられている内容に一定のテーマはないが,広範囲に及び,アトラスのページには盛り込めなかった事柄や新しい疾患概念,診断に役立つクルーなどが解説されている。

 本書を通読して感じることは,何といっても読みやすいこと,アップデートな内容を含んでいること,さらに視覚素材としての細胞像ならびに組織像が適切であり非常にきれいなことである。すでに実務に携わっている病理医ならびに細胞検査士にはもちろんのこと,日常診療において細胞診を取り扱う臨床医,細胞診専門医資格の取得をめざす医師,細胞診に興味を持っている研修医ならびに医学生にとっても非常に使い勝手の良いアトラスである。

 病理診断・細胞診断に関する知識の整理,日常の業務における知りたい事項や所見などを手短に確認したいときにも頼りになる。自室の書架,医局図書室,研究室ならびに医療現場にはぜひとも備えることをお勧めする一冊である。

A4・頁200 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00941-6


イラストレイテッド外科手術 第3版
膜の解剖からみた術式のポイント

篠原 尚,水野 惠文,牧野 尚彦 著

《評 者》笹子 三津留(兵庫医大主任教授・上部消化管外科学)

さらに精度を上げた巧みなイラストで,間膜の考えから複雑な外科解剖を解きほぐす

 手術を勉強中の外科医にはぜひお勧めしたい1冊です。私も手に入れて良かったと心より思っています。理由は以下の通りです。

 各時代に解剖にうるさい外科医はいましたが,その多くは癌の専門家で特定の臓器に関する造詣が深い人たちでした。その先人たちから私も多くを学びましたが,本書は中小規模の病院で,すべての分野の一般消化器外科患者の手術に携わらねばならない外科医にとって,必要と思われる術式がほぼ網羅されています。これだけの内容,そして数百の素晴らしい図をほとんど一人で手がけた書物は他に類を見ません。

 さて,内容を具体的に少し解説しますと,多くの消化器外科医がそうであったように,今でも胃癌の根治手術をマスターすることは上腹部の手術のみならず,小骨盤内の手術は別として腹部臓器の大半の手術に通じる解剖学的な内容の多くが学べるものです。本書も,胃癌手術に関する記載が全体の約4分の1を占めています。

 本書の骨格は膜の解剖です。ヒトの臓器を最もスムーズに取り除く方法は,形作られてきたプロセスを元に戻していくことであり,言い換えれば発生時に癒合した膜をはがしていくことです。本書では手術を実際行っているときのイメージに合わせて発生学をわかりやすく説いています。そして一貫して流れている腸間膜に代表される間膜という考え方が,複雑そうな解剖をわかりやすくしてくれます。直腸癌手術における解説は今までにないもので,直腸の手術を久しくやらない私にとっても大変興味深いものでした。

 実際の手術場面を彷彿とさせる巧みな図がすべて篠原先生の描き下ろしで,前版より精度も上がり,よりわかりやすくなっています。このこなれた絵は正確な解剖の知識なしでは描き得ません。手術はまねから始まりますが,絵をまねて描いてみることも手術が上手になる方法の一つかもしれません。ぜひ試してみてください。

 この手術書を通読する方もいれば,手元に置いて近々行う手術のためにその都度該当する章を読む読者もいるでしょう。できればまず通読して,そして明日手術というときにおさらいをするのが良いでしょう。通読となると少々疲れますが,そういう状況も想定してか,ウイットに富んだ各章の前書きに誘われて,つい次の章へと突入してしまいます。また,所々に登場する篠原先生が教えを受けた牧野先生や研修医のショートコメントはエッセイ風で疲れた頭を休めてくれ,ほっと一息つかせてくれます。

 私自身数多くの手術を手がけてきた今でも,解剖に疑問を感じるときがあります。本書はそんな長年の疑問を解決できるヒントを与えてくれました。その内容は残念ながら今版には具体的に明記されていませんが,次の版では間違いなく明快に記載されるものと期待しています。いつまでたっても学びが多いのが手術です。購入をお勧めします。

A4・頁500 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01023-8


MDCTの基本 パワーテキスト
CTの基礎からデュアルソース・320列CTまで
MDCT Physics : The Basics : Technology, Image Quality and Radiation Dose

陣崎 雅弘 監訳
百島 祐貴 訳

《評 者》荒木 力(山梨大大学院教授・放射線医学)

CTの技術的進歩をわかりやすく網羅した教科書

 本書はジョンズ・ホプキンス大学放射線科のMahadevappa Mahesh先生(准教授,主任医学物理士)の著書を,慶應義塾大学放射線診断科の陣崎雅弘,百島祐貴両先生が翻訳されたものである。

 1973年以来,CTは第1世代から第4世代へ,ヘリカルCTから多列検出器CTへ,1列から16,64,256そして320列へ,さらにデュアルソースCT,ハイブリッドCT(PET-CT,SPECT-CT)と急速に技術的発展を続け,臨床画像診断の主役になっている。今では診療放射線技師,放射線科医はもちろんのこと,医療に従事するすべての人がCTに接しない日はないというところまで普及している。これらの技術的進歩を改めて勉強してみようと考えている人は多いはずである。しかし,これらをわかりやすく網羅した教科書にはなかなかお目にかからなかった。そこに本書である。

 実は,本書の原著を今年から山梨大学大学院のテキストとして使用している。放射線医学を志す者にとって必須と考えたからである。原著名は「MDCT Physics : The Basics : Technology, Image Quality and Radiation Dose」である。技術,画質についてのわかりやすい説明とともに,放射線被曝およびその軽減法について詳細に解説されている。技術的進歩により短時間に多数の画像が簡単に撮像できるがゆえに被曝量が問題となっている今,被曝量に関する知識を正しく理解しておくことは診療放射線技師,放射線科医の責務といえよう。著者が最後に述べている次の言葉は印象的である。「我々は“スライス戦争(slice war)”の終結と同時に,新たな“線量戦争(dose war)”の始まりを目撃しつつあるといえよう。」

 原著を読むと,?という箇所に何回か出くわした。しかしご安心ください。すべて訳注で丁寧に説明されているからである。また翻訳とは思えない自然な日本語になっていることも本書の特徴である。原著者ととともに翻訳者の努力に賛辞を惜しまないものである。

B5・頁208 定価5,460円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp

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