医学界新聞

2010.11.01

プライマリ・ケア医による自殺予防


患者の「死にたい」にうろたえない

 かかりつけの患者が「死にたい」と口にしたとき,どう声を掛けたらよいだろう。かかりつけ医に自殺予防のゲートキーパーとしての役割が期待されるなか,第34回日本自殺予防学会認定研修会「プライマリケア医による自殺予防――『死にたい』といわれてもうろたえない医師になる」では,精神的な問題を抱えた患者を“怖れない”プライマリ・ケア医になるためのスキルが披露された。

 研修会のベースとなったのは,非精神科医が自身の専門領域の範囲内で,精神疾患に適切に対応できるよう作られた教育訓練システム,PIPC(Psychiatry In Primary Care)。米国内科学会では2008年から正式セミナーとして承認されている。研修会を主催したPIPC研究会は,「内科医が内科医に内科診療の現場における精神科疾患の診かたを伝える」をモットーに各地でセミナーを行っている,内科医と精神科医の集団だ。

 司会進行は内科開業医の井出広幸氏(信愛クリニック)。参加者は4人ずつグループに分かれ,話し合いやロールプレイを行っていく。

 まず問診でのポイントは「長い話を聞かなくても,信頼関係は作れる」こと。「相手を承認して癒やす」「原因を探らずに今の状態に注目する」などの基本原則に加え,話の語尾にかぶせて「相槌,承認,質問」をセットで行うコツが伝授された。参加者もグチを言い合い,話の止め方を実践する。目標は“初診20分,再診5分”とのこと。

研修会のもよう
 PIPCでは問診にもフォーマットが用意されており,既往歴や家族歴などをとらえる背景問診と,DSM-IVをベースにしたMAPSO(Mood, Anxiety, Psychoses, Substance induced, Organic/Otherの頭文字)問診がある。MAPSO問診はうつ,希死念慮,躁・軽躁,不安障害,精神病症状,の大項目に分かれ,希死念慮では「死んでしまったら楽だろうなと思ったりしますか」,不安障害のうち強迫性障害では「ガスの元栓や家の鍵の確認に戻ったりしますか」など,わかりやすい質問が並ぶ。フォーマットに沿って質問をしていくことで,身体科で遭遇する精神疾患ならば80%に対応可能だという。ここでも参加者はペアを組み,シナリオに沿って医師役と患者役の両方を演じた(写真)。

 薬物療法のレクチャーをはさみ,最後に希死念慮を持つ患者への対処として,次の受診を約束する「指きり」が提案された。まじめで律儀な性格が多いうつ病患者にとって“約束”は効果的だという。参加者も指きりを交わし,密度の濃い2時間が終了した。

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