MEDICAL LIBRARY
2010.10.04
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
小阪 憲司,池田 学 著
山鳥 重,彦坂 興秀,河村 満,田邉 敬貴 シリーズ編集
《評 者》岩田 誠(女子医大名誉教授/メディカルクリニック柿の木坂院長)
偉大な観察者が示す臨床医学の方法論
臨床家にとって最もやりがいのある仕事は,それまで誰も気付いていなかった病気や病態に世界で初めて気付き,それを世に知らしめることである。最初は,自分の小さな気付きがそれほど大きな意味を持つとも思わず,単に多少の興味を惹かれた事実を記載するだけである。それが大発見であるというようなことには,世間一般だけでなく,発見者当人もまだ気付いていない。当然のことながら,その記載は世の中に大きな反響を呼ぶほどのものにはならず,小数の臨床家の記憶の隅にしまわれるだけである。
しかし,時間が事の重大さを明らかにしていく。世の中の人々が,同じことに気付き出すと,その最初の記載が大きくクローズアップされる。そして世間は,その発見が日常の臨床の場での,緻密ではあるがごく日常的な観察に始まったことを知る。
臨床家が毎日飽きもせず患者に接しているその営みの中から大きな発見がなされ,医学の歴史の新しいページが開かれていくとき,いつも繰り返されるこのプロセスは,現在最も注目を浴びている変性性デメンチアの一つであるレビー小体型デメンチアにおいても然りであった。本書は,その発見者である小阪憲司先生が,後輩である池田学先生にその気付きのプロセスを語っていく書物である。これを読む人は皆,臨床家の観察というものが,いかに大きな発見につながっていくかを知り,感動を覚える。聞き手の池田先生も,臨床の場において次々と大きな発見を成し遂げてこられた方であるだけに,お二人の対談は,そういう臨床の場における発見の意義を生き生きと示す興味深い読み物となっており,ワクワクしながらこの病気の発見史をたどっていくことができる。
真の観察者は,患者の臨床症状であれ,病理所見であれ,それらを単なるデータとして観察することはない。アルゴリズム的な考え方に従って,観察すべき所見の有無を記入したり,検査に頼ってどこそこの血流量がどのくらい減少しているかを測定したりするだけの行為は,単なるデータの収集であって観察とは言えないのである。小阪先生が大脳皮質の神経細胞の細胞体中に何か不思議な構造物を見つけても,その患者の示していた特異な臨床像を見ていなかったら,この病気の発見はもっと遅かったに違いない。臨床家としての観察力と,神経病理学者としての観察力が見事に合体した結果が,この発見につながった。
したがって,評者はこれを,単に一つの病気の臨床像や病理像に関する最新の知見を教えてくれるだけの書物とは思わない。確かに,本書を読めば,レビー小体型デメンチアに関する知識を余すことなく知ることができるのは事実であるが,この病気の発見者が,本書を通じて読者に伝えたかった真のメッセージは,臨床医学の方法論だったのではないかと思う。小阪先生の観察方法は,決して今日的なハイテク技術を駆使したものではない。それは古典的で地味な方法論に基づくものではあるが,大発見につながったのはその徹底的な観察であった。大脳皮質の神経細胞の中にレビー小体を見いだすことは,それがあることがわかっている症例においてさえ容易ではなかったと,池田先生が述べておられるが,そのような実体験を経ることによって,小阪先生の偉業が真に理解できる。この書物は,臨床医学における観察の意味とその重要性を示す,偉大な観察者のかけがえのない言葉にあふれている。
A5・頁192 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01022-1
中野 哲,森 博美 監修
《評 者》岡部 哲郎(東大特任准教授・漢方生体防御機能学)
漢方診療の知恵の集積
漢方医学が伝来して以来ほぼ1500年になる。1967年に初の漢方製剤の薬価基準収載が行われ,再び日本国民の医療の一翼を担うことになった。現在148処方の漢方薬が保険医療に組み込まれている。
“緑茶は頭部の熱を冷まし,精神を覚醒するので夏の暑さによる口渇,頭痛に効果がある”――漢方医学はこのような健康の知恵が東洋の自然哲学に基づき医学として理論的に体系化されたものである。同じ病気でも体が冷えている患者には温める漢方薬が,体が熱い患者には冷やす作用の処方を用いる。体質や環境を考慮に入れ多次元にわたり重層的診療を行う漢方医学の病理概念を,科学教育を受けたわれわれが理解するのは容易でない。その上,古代より漢方医学は「方伎」に分類され,外科手術と同じく技術の伝承と訓練(相伝)の医学であった。漢方医学の治療効果は医師の相伝と熟練度に大きく左右される。
漢方医学に習熟するには,漢方医学理論の習得と同時に,実践的修練が必要となる。『実践 漢方ガイド』は西洋医学各科の専門医と薬剤師が漢方医学を実践して獲得した,漢方診療の知恵の集積である。本書では,27の症状別に各専門科の医師が鑑別診断とともに漢方診療の実際を証に分類して述べている。また,内科,外科から眼科,歯科に至る16診療科ごとにそれぞれの代表的疾患について,西洋医学的診療と同時に漢方医学の証に基づいて細分類した実践的診療が
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