実践 漢方ガイド
日常診療に活かすエキス製剤の使い方

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本書では西洋医学的鑑別診断チャートのなかに、使える・効く漢方薬を位置づけたことで、処方選択の幅を広げることが可能となった。また、漢方エキス製剤を関連図で示し、<からだを温める・冷やす>方剤の性質も一目で判明。患者の漢方薬ニーズが高まっている今日、医師・薬剤師にとってプラクティカルな漢方製剤ガイド。
監修 中野 哲 / 森 博美
発行 2010年06月判型:B5頁:416
ISBN 978-4-260-01045-0
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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推薦のことば(佐藤 祐造)/序にかえて(中野 哲,森 博美)

推薦のことば 
『実践 漢方ガイド─日常診療に活かすエキス製剤の使い方』を
漢方初心者の医師,薬剤師に薦める

 私が日頃より尊敬する中野哲先生(名古屋大学医学部昭和34年卒,元大垣市民病院院長)が監修者となっておられる『実践 漢方ガイド─日常診療に活かすエキス製剤の使い方』が出版されることとなった.先生は私が日本東洋医学会理事・東海支部長(平成13~21年)在任当時以来,同支部岐阜県部会長として,県部会の発展に尽力されている.また,本年6月に私が会頭として開催する第61回日本東洋医学会学術総会においても,シンポジウム5「機能性消化器障害(FGID)の漢方治療」の座長をお務めいただくこととなっている.
 大垣市民病院は岐阜県でも最大規模の病院であり,西濃地区の中核病院となっているが,同病院では,中野先生と今回の監修者でもある薬剤部調剤科長の森博美先生が中心となり,30年以上,140回以上にわたり,医師だけでなく,薬剤師,看護師などコメディカルも加わった漢方勉強会が開催されてきた.この漢方勉強会のメンバーが企画,編集,執筆を行い,上梓に至ったのが本書である.
 本書を拝読するに,漢方医学の歴史と基本的概念,漢方医学の診断と治療,中野先生の年来の持説である,東洋医学と西洋医学の相補的結合が「総論」として執筆されている.「臨床編」としては,症状別の漢方薬の使い方,疾患別の漢方薬の使い方が記載されており,発熱,頭痛,上腹部不定愁訴など症状によっても,また,循環器,呼吸器などの臓器の区分による本態性高血圧,インフルエンザ,アトピー性皮膚炎など疾患別によっても検索可能となっている.症状別のパートでは,症状別に漢方適用を示したチャートがあり,漢方診療だけでなく,西洋医学も含んだ診断チャートとなっており,初心者でも気軽に取り組むことができる.
 本書のもう1つの特色である「方剤編」には,方剤関連図があり,方剤と生薬を“体を温める,冷やす”で大別し,虚証,実証に対するおおよその適応が示されており,細部にわたる漢方方剤の注意点,解説がある.
 本書には執筆者のメンバーの多年にわたる勉強会,臨床の場でのエッセンスが集積されており,また,漢方医学の初心者でも臨床現場で手軽に利用できるよう配慮されており,ここに推薦の一文を記した次第である.

 平成22年5月
 第61回日本東洋医学会学術総会会頭
 愛知学院大学心身科学部長/健康科学科教授
 佐藤 祐造


序にかえて
 日本は現在,世界一の長寿国となっている.海に囲まれ春夏秋冬の四季をもつという自然環境に恵まれていることや,国民皆保険制度をはじめとする医療制度などさまざまなことがその要因にあげられている.しかし長寿国になったわが国でも臓器医学すなわち西洋医学のみでは対処できなくなっており,心身一元論からなる漢方医学に熱い眼差しが注がれるようになっている.
 さて現在,漢方医学を自由に駆使している医師は西洋医学を学んだ後,何らかの理由で漢方医学の有用性を理解し,その道の専門家である師匠のもとで難解な漢方医学を勉強し,研鑽を積んできた方々が多いと思われる.西洋医学のみで教育を受けてきた医師が実地臨床家になって漢方医学の有用性を知っても,この学問を個人レベルで勉強し理解するにはハードルが高すぎる感があった.われわれは30年以上にわたり,同志が集まり,書物から学んだり,専門家の講演を聞いたりして自己流に漢方医学を勉強してきたが,難解な解釈や,時にドグマティックな論法などに出くわして戸惑うことも多かった.しかしこの勉強会でわれわれが感じ取ったことは,長い経験によって裏づけされ,集約された妙なる生薬の配合のすばらしさであった.
 医学を実践する医師と薬学の専門家である薬剤師がこのすばらしい漢方医学の実践にあたって,従来の「証」から方剤を選ぶだけでなく,生薬や方剤を組み合わせてつくりだした先人の叡智を理解することから効きそうな病態を考えてはどうかと考え,さまざまな方剤の出自や,方剤の相互関係を明示することを試みてきた.また,臨床の場でこのすばらしい漢方薬の適応が間違ってはいけないとの思いなども加わって,検討を重ねてきた.こうして今回,漢方医学の専門家でもないわれわれがあえて浅学非才を顧みず本書の出版を企画した次第である.
 このわれわれの意図を理解し,本を作る機会を与えていただいた医学書院に深甚の謝意を申し上げたい.さらに漢方に詳しい山上勉氏には本書の「臨床編」に貴重なご意見をいただいたこと,また,当漢方勉強会が発足当時から現在の141回まで維持でき,本書が完成できたのも歴代の大垣市民病院長のご支援があったからと深く感謝を申し上げたい.

 本書が病院や薬局で活躍されている医師,薬剤師,看護師などの方々の漢方方剤の選択や服薬指導の一助となれば望外の喜びである.

 平成22年4月
 著者を代表して
 中野 哲,森 博美

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「臨床編」の利用の手引き
「方剤編」の利用の手引き

I 総論
(1)漢方医学の歴史と基本的概念
(2)漢方医学による診断と治療
(3)東洋医学と西洋医学の相補的結合,東西の医学の結合を目指して
 引用文献

II 臨床編
[1]症状別の漢方薬の使い方
 1 全身症状
 2 神経系の症状
 3 循環器系の症状
 4 呼吸器系の症状
 5 消化器系の症状
 引用文献
[2]疾患別の漢方薬の使い方
 1 中枢神経系
 2 循環器系
 3 呼吸器系
 4 消化器系
 5 血液内科系
 6 自己免疫系
 7 代謝・内分泌系
 8 小児科系
 9 腎・泌尿器系
 10 外科系
 11 産婦人科系
 12 整形外科系
 13 皮膚科系
 14 耳鼻科系
 15 眼科系
 16 歯科・口腔外科系
 引用文献

III 方剤編
[1]漢方薬の投与方法と注意事項
[2]方剤群別からみた漢方薬
 1 麻黄剤
 2 桂枝湯類
 3 柴胡剤と関連方剤
 4 柴胡を含む方剤(柴胡剤を除く)
 5 人参湯類と参耆剤
 6 地黄剤
 7 附子剤
 8 瀉心湯類と関連方剤
 9 承気湯類と関連方剤
 10 麦門冬を含む方剤
 11 厚朴・香附子・蘇葉を含む主な方剤
 12 大黄剤
 13 半夏剤
 14 石膏剤
 15 清熱剤
 16 気剤
 17 駆お血剤
 18 利水剤
 19 主に頓服的に用いられる方剤
 20 その他の方剤
 引用・参考文献

付録
 1 漢方薬の寒熱分類一覧
 2 生薬一覧(五十音順)
 3 ツムラ漢方製剤一覧〈本書の参照ページ付き〉

索引

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書評 (雑誌『月刊薬事』より)
書評者: 田代 眞一 (昭和薬科大教授・病態科学)
 『実践 漢方ガイド―日常診療に活かすエキス製剤の使い方』が,医学書院から上梓された。長年にわたる大垣市民病院での,実践に基づく漢方研究の成果である。最近でこそ漢方に関する教育は当然のことのようになっているが,今まで漢方を学ぶことには大変な努力を要したものだった。その中で,陰陽五行や気血水といった議論ではなく,傷寒論の解釈でもなく,なんとか漢方を自分たちのものにしたいという一念で学んでこられた,大垣市民病院の医師・薬剤師の先生方の知識や経験を,このたび集大成されたものである。

 本書は,特別な理論や知識を持たずとも,医師や薬剤師として日常の診療ができれば,それなりに適切な方剤を選ぶことが可能なように作られている。現場から出てきた,患者に責任を持つ医師や薬剤師の実践と,その検討の中から生まれたこの本は,実践に極めて有用なものであろう。その結果,この本のもう一つの大きな特色となっているのは,類似の,あるいは特定の疾患に適応可能な処方の,相互の関連性がチャートにまとめられており,一見して方剤の構成が解る点である。どの生薬を加減してそれぞれの方剤が組み立てられているかを知ることは,個々の生薬の役割や有害作用を理解するために有用であり,また,当然,方剤を使い分けるうえでも有用である。医師と薬剤師が協力して作り上げた成果が,こうした点にも表れている。

 漢方は伝統医学であるので,長年の伝承も重要である。そうしたことも十分配慮しながら,臨床の実践を基礎にまとめられたこの本には,医療者と患者さんの貴重な経験がまとめられている。日々の臨床の場で,座右に置かれ,活用されることを心から期待する。

(『月刊薬事』 第52巻 第12号,2010年11月,じほう社,115(1855)ページ掲載)
書評 (雑誌『日本病院薬剤師会雑誌』より)
書評者: 堀 美智子 (医薬情報研究所エス・アイ・シー医療情報部門責任者)
 漢方薬が記載された処方箋。患者さんから特別な訴えでもない限り,甘草の偽アルドステロン症ぐらいに注意を払い調剤して渡している私。「漢方を,少し勉強しなければ…」と思いながら,「一体どうやって勉強したらいいの…」。この「…」に応えてくれるのが,『実践 漢方ガイド』,まさにこんな本がほしかったのですと言いたくなる書籍です。

 構成は「総論」「臨床編」「方剤編」の3つの編からなり,「実践」という言葉がぴったりくる本書は,内容はもちろんのことチャートと図表の数々,小さなマスの色分け1つをとっても,読者にわかりやすいようにとの工夫のあとが見てとれます。

 熱い思いが込められた総論のあとの「臨床編」では,症状と疾患名から用いられる漢方薬が紹介されています。症状は発熱から腹部膨満まで,疾患は自律神経失調症から抜歯後疼痛まで,病気の側から漢方薬をみるという西洋医学的な手法で説明がなされ,漢方初心者にもわかりやすい記載です。

 続く「方剤編」では,方剤を20の群に分け,構成生薬の加除を系統図で示しているほか,方剤の構成生薬,含有量,薬能(気・血・水)なども記されています。初心者では,この「方剤編」のグループ分けの考え方や,中心になる生薬,漢方方剤について基礎を押さえてから「臨床編」へ進まれるとよいでしょう。

 執筆メンバーは,西洋医学全盛の中,30年以上,140回を超える漢方勉強会を続けてこられ,その成果が本書とのこと。知識と実践の積み重ねこそが,類書と一線を画す大きな力となっていると思います。

 漢方の奥深さ,奥が深いだけに漢方の勉強に一歩踏み出せないでいた多くの医療関係者に,漢方入門書として。さらには十分知識がある方にも,ちょっと臨床の場で確認のために。本書が多くの方に活用されることを願ってやみません。

(『日本病院薬剤師会雑誌』 第46巻 第9号,2010年9月,1291ページ掲載)
漢方診療の知恵の集積
書評者: 岡部 哲郎 (東大特任准教授・漢方生体防御機能学)
 漢方医学が伝来して以来ほぼ1500年になる。1967年に初の漢方製剤の薬価基準収載が行われ,再び日本国民の医療の一翼を担うことになった。現在148処方の漢方薬が保険医療に組み込まれている。

 “緑茶は頭部の熱を冷まし,精神を覚醒するので夏の暑さによる口渇,頭痛に効果がある”――漢方医学はこのような健康の知恵が東洋の自然哲学に基づき医学として理論的に体系化されたものである。同じ病気でも体が冷えている患者には温める漢方薬が,体が熱い患者には冷やす作用の処方を用いる。体質や環境を考慮に入れ多次元にわたり重層的診療を行う漢方医学の病理概念を科学教育を受けたわれわれが理解するのは容易でない。その上,古代より漢方医学は「方伎」に分類され,外科手術と同じく技術の伝承と訓練(相伝)の医学であった。漢方医学の治療効果は医師の相伝と熟練度に大きく左右される。

 漢方医学に習熟するには,漢方医学理論の習得と同時に,実践的修練が必要となる。『実践 漢方ガイド』は西洋医学各科の専門医と薬剤師が漢方医学を実践して獲得した,漢方診療の知恵の集積である。本書では,27の症状別に各専門科の医師が鑑別診断とともに漢方診療の実際を証に分類して述べている。また,内科,外科から眼科,歯科に至る16診療科ごとにそれぞれの代表的疾患について,西洋医学的診療と同時に漢方医学の証に基づいて細分類した実践的診療が網羅的に記載されている。証の診断や処方は図表をふんだんに使ってわかりやすく解説されている。

 また,本書では構成生薬の配合に基づき各処方の相互関係と対応する証に関して理論的分析がなされ,証と対応する処方生薬の薬性理論的根拠が示されている。このことにより,証候診断すなわち漢方医学の病理・病態生理と治療処方の構成の理論的対応が明らかにされている。

 本書により実践とともに漢方医学理論の理解も一段と深まり,理論に裏付けられた実践を可能にする相伝への一歩となる。本書は西洋医学の各科専門医にとって,また漢方診療を実践する臨床医にとっても有用な一書である。
思わず快哉を叫ぶ,本書の述べる漢方診療のあるべき姿
書評者: 秋葉 哲生 (あきば伝統医学クリニック院長)
 想像するに著者らは大垣市民病院において医療用漢方製剤を用いた臨床経験で一定の成功を収め,その成功の土台を踏まえて,これからの日本の漢方診療のあるべき姿を具体的な日常診療の位相で提言したものが本書であるといえるのではないか。

 本書にあって類書にないものとして,EBMに対する明確な批判の立場を表明していることである。1980年代から向かうところ敵なきがごときエビデンス万能主義に対し,ひたすらひれ伏すだけでは漢方医学の長所が失われるとの主張はまさしく正鵠を得た発言である。日本東洋医学会にあって「漢方医学のEBM 2002年中間報告」,および「2005年最終報告」をしゃにむに取りまとめた評者などは,この文章を発見して思わず快哉を叫んだほどだ。

 総論では「証」についてかなり丁寧に解説されているが,著者はほんとうのところは「証」がお嫌いのようである。あるいは持て余しているのかもしれない。「薬物学からの方剤選択」の項に,「薬物学から有効と思われる病態を選択するという,従来とは逆の発想のほうが,漢方医学にそれほど精通していない臨床医にも使用できる可能性があるのではないだろうか」と述べている。その例として,お血の徴候を表している患者には,虚実のおおまかな鑑別をしながら血液循環を促す生薬が入っている薬剤を考えることなどが挙げられている。しかしこれはまさに漢方薬学の知識であって,ある程度臨床に精通した医師ならば誰もが実践していることであろう。むしろ初学者向きの知識ではない。

 本書の位置付けを述べよう。第一に初学者の座学向けの書籍として適していよう。それも薬学の専門家が講義を担当して,多少の時間をかけて理解を深めるのに向いている。形態と内容から,携帯して回診したり診療卓に置いて常時参照したりするには実用的でない。

 また本書の記述はツムラの製品に即しているが,そのほかの会社の製品には該当しない部分があるので注意してほしい。各論で示される用法用量などは各社製品について改めて確認を必要とする。

 本書はその実利主義的なタイトルにもかかわらず,臨床に精通した漢方医が簡潔にその蘊蓄のあるところを披露するといったたぐいの入門書ではない。むしろ漢方医学をめぐるある種の思想書というのがふさわしい。なぜなら総論には従来の漢方医学のスタイルに対する厳しい批判が込められているからである。望みたいことは,入門書とするために総論に十分なスペースが割かれていないので,ここだけを展開発展させて執筆していただきたいことである。警世の一書となること疑いなしである。

 最後に本書の長所として挙げられるのは,医療用漢方製剤の方剤としての寒熱を明確にしたことだ。虚だの実だのを千万言費やすよりも入門書として必要な知識である。冷える人には原則的に温薬で治療し,熱する人には原則的に寒涼薬で治療する,これこそ随証治療の第一歩であるからである。

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