医学界新聞

2010.08.02

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


膵癌診療ポケットガイド

奥坂 拓志,羽鳥 隆 編

《評 者》元雄 良治(金沢医大教授・腫瘍内科学)

膵癌診療に関するさまざまな問いに答えてくれる書

 研修医が希望する本の条件に,ポケットに入るサイズで,読みやすいということがある。本書はまさにそれを満たしており,本書の読者対象である研修医や膵癌診療に携わっている若手医師には心強い味方である。

 特に豊富な図や写真は,要点が一目瞭然で理解でき,長い文章よりも効果的である。例えば,103-108ページの膵癌進展度評価では,「上腸間膜静脈浸潤を伴う膵頭部癌」と「上腸間膜静脈浸潤を伴わない膵頭部癌」のCT画像を横断像と3D像で比較しながら示している。

 ほかにも,ある所見を伴う例と伴わない例を図示しているので,日ごろ症例検討会で先輩医師が議論の対象にしている重要所見について,典型的画像を自己学習できる。内視鏡診断のポイントでは,鮮明な写真で内視鏡機器や内視鏡像が呈示されており,非常にインパクトがある。

 治療では切除可能例と切除不能例に分け,特に化学療法に関しては,各レジメンの図示,禁忌や休薬・再開の方法・副作用対策(192-194ページには患者説明用の記載あり)についての具体的な記述が大変参考になる。

 またフルオロウラシルやS-1とほかの薬剤の併用療法の中でオキサリプラチンを紹介。現時点ではまだ保険適用未承認ではあるが,最新情報を知ることができ,著者同様に読者も臨床試験の結果に注目したくなる内容である。治療効果の判定には2009年に改訂されたRECISTガイドラインver. 1.1の要点が表3-17として掲載されている。

 膵癌患者では他の臓器の癌患者と同程度かそれ以上の頻度でうつ病や適応障害などの心の問題が認められるが,本書では治療の中に「心のケア」という項目を設け,膵癌患者の心のケアに必要なこととして,基本的な姿勢・傾聴・共感をはじめ,希望を支えるなどの重要な点が詳しく記載されている。

 また「膵がん教室の実際」「患者会PanCAN日本支部」「膵癌啓発パープルリボンキャンペーン」などが紹介されており,膵癌診療の最前線に立つ医師には患者・家族への対応において非常に参考になる。

 本書の表紙や本文が紫色を基本に統一されているのは,パープルリボンキャンペーンを意識しているのかもしれないが,きれいで落ち着いたデザインであり,目次からすぐ読みたいページを探すことができる。さらに引用文献が正確に記載されているので,文献検索・学会準備・論文作成などにも必ず役立つであろう。

 本書の随所にちりばめられた7つのTOPICSは,「新規抗癌剤へ期待すること」「免疫治療の現状と展望」「臨床試験とは」などについて詳しく書かれ,39のMEMOでは,「我が国の宝,膵癌登録」「CA19-9の思い出」「局所評価のみにとらわれるな」など,思わず読んでしまう項目である。以上のようにポケットガイドという名前からは想像できないくらいの濃縮された内容を満載し,膵癌診療に関するさまざまな問いに答えてくれる本書を日々の診療に活用していただきたい。

B6変型・頁320 定価5,250円(税5%)医学書院
ISBN978-4-260-00951-5


消化器外科レジデントマニュアル 第2版

小西 文雄 監修
自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科 編著

《評 者》小林 一博(茅ヶ崎市立病院一般・消化器外科診療部長)

新たな情報を盛り込みさらに使いやすくなったuser-friendlyなマニュアル

 2004年に新臨床研修制度が導入され,卒後研修先が大学から市中病院に大幅にシフトしてきているのは周知の通りである。当院でも臨床研修医のみならず,大学病院での外科修練を経ない後期研修医が勤務する事態となっている。第一線の病院における医師養成の比重は増大しているが,指導する側は勤務医としての過剰な業務量のため,研修医教育に時間的制約を受けている。

 このような状況では当然知識や経験は不足,偏りがちとなる。そのため外科をめざす若手医師にはその分野を網羅する知識を集約したマニュアルが不可欠となる。さらにそのマニュアルが診療現場で直ちに役に立つものであれば理想的である。『消化器外科レジデントマニュアル』初版の販売部数は予想をはるかに凌駕したと聞いている。この事実は本書が時代のニーズに見事にマッチしたことを示している。今般,最新の知見を取り入れて改訂され,第2版が出版された。

 本書の特徴は,(1)医療安全にも配慮され,修練すべき事項を広範囲に網羅していること,(2)研修医が経験すべき重要な疾患,診療手技が重点的に詳述されていること,(3)現場で役に立つ具体的内容であることであろう。

 内容としては総論と各論から構成されている。総論は術前検査の進め方,抗生物質使用の原則,インフォームド・コンセント,全身合併症と周術期管理,緩和医療など10章に及んでいる。術前・術後管理は当然としても,「第7章内視鏡下手術の基本」,「第10章stapling deviceの種類と使い方」などは,腹腔鏡手術や器械吻合全盛の時代にあっては必須の知識であり,今までにない的確な視点で編集されている。特にstapling deviceは似て非なるものも多く,研修医のときからその使用に慣れておくことが肝要と自身の経験から痛感している。

 また,インフォームド・コンセントの章も秀逸である。コミュニケーションやインフォームド・コンセントの注意点,文書化の必要性など,医療の根幹にかかわる問題をわかりやすく解説している。管理職の立場からすれば,医療安全の面からも,まずこの章を熟読してから実際の診療に従事してもらいたいと切に願うものである。

 各論は各消化器疾患の項目に分かれている。消化器癌に関しては,既掲載の癌取扱い規約の改訂はもちろん,大腸癌,胆道癌の取扱い規約も新たに追加され,さらに使いやすくなった。ガイドラインも新たな内容が盛り込まれ,抗癌剤治療にまで記述は及んでいる。

 研修医になじみ深い虫垂炎は診察法,超音波検査による画像診断,手術法などが丸々1章費やして詳述されており,充実した内容となっている。市中病院では頻繁に遭遇する術後癒着性イレウスも,独立した項目として症状から治療まで解説されていることは心強い。

 各項目の記載は簡潔明瞭であり,カラー写真や図表も多く,理解しやすい。使用薬剤には一般名のほか商品名も併記されており,投与方法も具体的である。研修医の立場に立った,まさにuser-friendlyなマニュアルである。当院の研修医もポケットに入れて日夜愛用しており,外科専門医をめざす若手医師には必携の書である。

B6変型・頁368 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00851-8


リハビリテーションレジデントマニュアル 第3版

木村 彰男 編
里宇 明元,正門 由久,長谷 公隆 編集協力

《評 者》水落 和也(横市大准教授・リハビリテーション科学)

実際的対処法をコンパクトに詰め込んだレジデント必読書

 多くの読者に利用されてきた『リハビリテーションレジデントマニュアル』の第3版が発行された。初版から16年,第2版から約8年ぶりの改訂である。初版は3刷,第2版は5刷と順調に発行部数を拡大し,リハビリテーション領域では数少ないロングセラーと言えよう。第2版と比較して,ページ数で144ページ(400⇒544ページ),重量で90 g(280⇒370 g)とボリュームが増し,白衣のポケットに入れて持ち歩くにはぎりぎりの大きさにとどまった感がある。実用書としてのコンパクトさを保ちながらいかに内容を充実させるか。編者のご苦労がうかがわれる。

 第3版で新たに追加された章は「VII.予防的リハビリテーション」で,各章で新設された項目は,「III.障害の診断・評価法」の章で呼吸機能評価,「V.症状・障害のリハビリテーション」の章で運動障害,上肢機能障害,高次脳機能障害,「VI.主な疾患のリハビリテーション」の章でポリオ後症候群,ジストニア,悪性腫瘍(がん),内部障害,「VIII.社会的リハビリテーション」の章で障害者自立支援法である。いずれもこの10年のリハビリテーション医療の対象疾患の拡大,社会福祉施策の変化にタイムリーに対応している。

 マニュアルとは実際的・実用的な解説書の意味であり,必ずしも小さい必要はないのだが(小さいものはハンドブック),医療現場で役立つマニュアルの条件は,常に携帯でき,知りたい情報が素早く手に入り,しかも当座の実際的対処法が示されることであろう。

 例えば,脳外傷後遺症の患者さんが急性期治療を終えて紹介状を持って外来に現れた場面での本書の活用法を考えよう。

 (1)患者さんの障害像を把握する上で脳外傷後遺症の一般的特徴を知りたい⇒「脳外傷」の項(pp. 286-288)を読む。

 (2)障害を客観的に評価するための検査は何が必要か⇒「高次脳機能の評価」の項(pp. 47-53)を読み,必要なテストバッテリーを選ぶ。

 (3)外来リハビリテーション処方はどうすればよいか⇒「V.症状・障害のリハビリテーション」の章にある「高次脳機能障害」の項(pp. 264-268)を読んで認知リハビリテーションの処方を作成する。

 (4)調整すべき福祉サービスはあるか⇒「障害者自立支援法」の項にある自立支援サービスの種類の一覧表(pp. 430-437)を読んで,就労継続支援の利用について医療ソーシャルワーカーに調整を依頼する。

 いかがだろうか。本書一冊あれば,ほんの数分間で,経験あるリハビリテーション専門医のような顔をして診療が進められるのである。リハビリテーション医学を志すレジデント諸氏にとって,これほど頼りになる本はないかもしれない。

 若者の活字離れ,出版業界の低迷と活字文化の衰退が指摘されている。確かに最近の医学生は重い教科書を持ち歩かず,医学電子辞書をポケットからさっと取り出して,手際良く情報を手に入れている。近い将来,何十冊もの医学書が入ったiPadのような電子書籍媒体一つを持ち歩いて診療にあたるようになるのかもしれないが,本書のような書籍の楽しみの一つは,足りない情報を手書きで追加したり,強調するところをマーカーで色分けしたりして自分なりの大切な一冊,いわばマイマニュアルを作ることでもある。使い古して手あかのついた自分だけの一冊を持ち歩く喜びを大切にしたい。

B6変型・頁544 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00844-0

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