医学界新聞

寄稿

2010.08.02

【夏休み寄稿特集】

Stay hungry, study hard!
夏だ,海だ,いや勉強だ~

医学生のための勉学のTips


 医学生のみなさん,待ちに待った夏休みをいかがお過ごしでしょうか。海水浴,花火,旅行,キャンプなど,夏は楽しいイベントがたくさん。いくら時間があっても足りないぐらいですね。

 いやしかし,学生たるもの勉強を欠かしてはなりません! みなさんも,今まで時間がなくて着手できなかった分野の勉強や,学外の研修,病院見学への参加などを考えているのではと思います。

 そこで今回は,本紙連載の執筆陣の方々に,勉強法を中心に夏休みの過ごし方についてアドバイスをいただきました。遊びと勉強を上手に両立させて充実した夏休みを過ごすために,ぜひ参考にしてください!

植田真一郎
田中和豊
大野博司
松下 明
谷口俊文
香坂 俊


植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


 私自身医学生時代は再試験の常連であり,あまつさえ出席が足りず留年するなど超劣等生だったので,国家試験はなんとか合格したものの,医学生にどうしたら夏を有意義に過ごせるかなどと書く立場にありません。しかし,なんとか都合の良いことばかり思い出して書いてみます。

Tips 1 医師にとって大切なのは英語よりも,国語力である

 私が医学生の間に最も時間を使ったのは,おそらく読書と音楽だと思います。私の学生時代の唯一のA評価(いわゆる優)は,教養課程で受講した国文学でした。いわゆる医学部の科目は1つを除いてすべて再試験で合格だったので(解剖などは再々々々試験),60点(可)しかつかないのです。

 しかし,医師にとって国語力は重要です。患者さんと話すときのちょっとした言葉の使い方,指導医など目上の人への言葉から紹介状に至るまで,国語力は随所で試されます。さらに,将来ある程度の責任を持つ立場になると,研究費や事業費の申請に国語力がものを言います。入試の小論文や授業のレポートを採点している限りでは,最近の医学生の国語力は低下しているような気がします。もう少し本を読んだほうが良いと思うのですが,残念ながら現代の日本の作家のなかにも文章がひどい人がいますね。医師の文章も言わずもがなです。

 良い日本語を読むことは良い感覚を持つために必要です。下記に,美しい日本語が読めるお薦めの本をいくつか挙げておきます。

・『冥途』(内田百閒/岩波文庫など)
・『苺畑の午前五時』(松村雄策/ちくま文庫,絶版)
・『酒呑みの自己弁護』(山口瞳/新潮文庫)

Tips 2 謦咳(けいがい)に接すること

 私が今の専攻分野(臨床薬理学)を勉強し始めたのは,研修医のときです。薬の選び方や用量の決め方がよくわからず困っていたときに,同僚に紹介された石﨑高志先生の『臨床薬理学レクチャー』(医学書院,絶版)に出会ってからです。全編を貫く医師としての理念に圧倒され,なんてすごい本だろうと感動し,(一種の軽躁状態だったと思うのですが)ぜひ会いたいと思い,手紙を書いたところ思いがけず丁寧な返事をいただきました。

 その後週末に石﨑先生の研究室に出入りするようになったのですが,実際に研究したわけではありません。抄読会や研究カンファレンスに出席し,もっぱら終了後の寿司とビールを楽しみにしていました。ですからそこで何かを学んだわけではなく,雑談やちょっとしたコメントのなかに後で思い出してはっとすることが多かったのだと思います。

 『臨床薬理学レクチャー』は今でも手に取ることがあります。現在の私の研究分野はオーソドックスな臨床薬理学からはやや離れた感がありますし,総論的な臨床薬理学自体,大学内での存在が危ういものになりつつあります。それでもこの本は,医療および臨床医学研究において最も大切なものは何かを教えてくれます。出版から4半世紀経った今もそれは変わりません。

 情報が溢れている状況では本質を見る,あるいは本筋を読むことが大切です。しかし,その感覚を持つためには勉強をするだけではなくて,誰かの謦咳に接することも1つの方法だと思います。医学生としての琴線に触れるような言葉,理念に出会えたらいいですね。

Tips 3 1987年までの音楽を聴こう

 前述したように,私の医学生時代に音楽はかなり大きな存在を占めていました。聴くだけではなく,演奏もすることがありました。留学先も,アメリカの音楽よりイギリスの音楽のほうが好きだという理由で決めて,結果的には成功でした。「自分の感覚が示唆するもの」はけっこう大切ですね。これを読んでいるあなたはおそらく1987年以降に生まれたのだと思います。しかし,音楽は1987年まで。それ以降は数少ない例外を除けばたいしたものはありません。マイケル・ジャクソンも「Off the Wall」以降はそれまでに比べるとよくないと思います。時間は限られています。医学生のときこそ良い音楽を聴きましょう。

◆医学生へのひと言メッセージ

 本筋を見極め,本質をつかむよい感覚を涵養しよう。


植田真一郎
1985年横浜市大卒,91年より5年間日本臨床薬理学会海外派遣研究員として英国グラスゴー大内科薬物治療学講座留学,96年横浜市大第二内科助手,2001年より現職。


大野博司(洛和会音羽病院 ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)


 Tipsというほどのヒントになるかわからないが,自分なりの経験を以下に記す。

Tips 1 その時その瞬間を大切に

 いつから勉強すればよいだろうか。筆者は医学部2年生まで,自分がなぜ医学を勉強しなければならないのか,その動機付けができなかった。どのように生きていけばよいのかさえわからず混乱していた。ただ定期的にやってくる試験に通ればよいという安直な考え方をする自分自身にどうしようもない焦りや,やり場のないいら立ちを感じ,嫌悪感を持っていた。

 2年の冬に出会った筋ジストロフィーの男の子と過ごした日々が,なぜ医師をめざしたのかという初期衝動を,そして医師になるために勉強する理由を思い出させ,気付かせてくれた。そして今の自分の医師としてのスタイルを作ってくれた。彼はもういない。

 自分が今何年生かというのはあまり重要ではない。早すぎることもなければ,遅すぎることもない。一生医療に向き合っていく,将来医師になるに当たって,その時その瞬間で何をすべきかを考えて,ベストを尽くすことだ。

Tips 2 解剖学+生理学+内科学

 どのように勉強すればよいだろうか。筆者は現在,一般市中病院のクリティカルケアの現場を中心に働いている。クリティカルケアでの多臓器不全,複雑なケースをひも解き,ケースごとの病態の診断・治療を行う過程には,「魔法の薬」もなければ「奇想天外な診断や治療」もない。最後のよりどころは,基本である「解剖学」と「生理学」だ。そして幅の広さを持たせるのは「内科学」だろう。正常を知らないと異常を理解できない,異常を理解できないと正常はわからない。病気の名前を知らないと何が起こっているのか気付けない。Frank-Starlingの法則をはじめ,ヒトの体液分布も,非てんかん性痙攣重積(NCSE)が意識障害の原因になることも,内頸静脈の走行も,タバチエもそうだ。10年くらい医者をやって,経験年数が上がるほどBack to basicを大切にするようになった。この3つを一通りオーバービューしてみると,意外に見通しがつくようになる。

Tips 3 情熱,責任感,判断力を持て

 どうして勉強するのだろうか。医学は総論,医療は各論であり,臨床医は各論で生きている。しかし,各論だけだと独りよがりになることもある。かといって,総論ばかり突き詰めると,一人ひとりの患者の顔が見えてこない。結局は,総論がわかっていないと各論に対応できないのだ。

 レジデントになってから各論の洪水の中で自分を見失わないためには,学生時代に総論を自分なりに消化させることが大切だ。学生時代の蓄えが自分のよりどころとなって,医師になってからの加速につながり,日々の医療現場の中で何十例も何百例もクリティカルなケースを経験し,うまくいった場合でも,また逆に思い通りにならずつらい場面でも,目を背けることなく直視することで今の仕事につながっていると感じる。臨床医は目の前の患者を何とかしたいという気持ちで仕事をする。そのために勉強する,とても単純だ。

 世の中には周りから先生と呼ばれる職業が主に3つ存在する。政治家は国と国民のため,国益のために命をかけて働く。教師は将来国を背負っていく学生のために命をかけて働く。医師,とりわけ臨床医は目の前の患者のために命をかけて働く。そのために情熱,責任感,判断力の3つが必須であり,どれが欠けてもいけない。

 大きな夢を抱くこともあるだろう,情熱を持つこともあるだろう。しかし現実はその夢や情熱だけでは動かない。時には患者と距離を置き,何がその患者のその時点での病態にベストかを考え,責任感を持って冷淡で無感情とも言える的確な判断を下すこともある。判断を下すには経験も必要だが,それと同時に基礎体力ともいうべき医学知識がないといけない。思いつきだけで医療行為はできない。夢だけ持っていて口先では偉そうなことを言っても,情熱を振りかざしても,誰も相手にしてくれない。患者をよくする(治し,癒して安楽を与える)という結果をまず出さなければいけない。そして患者にも,周囲のコメディカルにもこの医師についていきたいと思われるよう,結果を伴う努力をしなければいけない。そういう努力は惜しんではいけない。医師,特に臨床医とは厳しい仕事だが,そういうものだと信じている。

◆「夏の勉強」に関する個人的エピソード

 何でもかんでも欲張りな自分は,今から10数年前の夏も,あれもやりたい,これもやりたい,と周りへの好奇心・欲求のあるがままに生きていた。あの時期にひたむきに流した汗が,今の自分を作ってくれた。

◆医学生へのひと言メッセージ

 医師といってもいろいろな診療科があり,さまざまなスタイルがある。どんな土地にいても,どのような形であっても,大なり小なりこの国の今日そして明日の医療を支えるために何ができるのか,と考えてみるとこれほどやりがいがある仕事はないなという気持ちでいっぱいになる。


大野博司
2001年千葉大卒。麻生飯塚病院にて初期研修後,舞鶴市民病院などを経て現職。内科医として多臓器不全管理,周術期管理,

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