医学界新聞

2010.06.07

地域に身近な医療を学ぶ

家庭医療ワークショップ開催


 日本プライマリ・ケア連合学会学生・研修医部会主催の家庭医療ワークショップが5月8-9日,慶大(東京都新宿区)にて開催された。「学校では家庭医を学ぶ場所がない,家庭医療を知らない学生に家庭医療を知ってもらう」をテーマに,約100人の学生と29人の指導医が参加。家庭医の幅広い役割と指導医の情熱的な講義に,開会前は談笑していた学生たちも真剣に話を聞いていた。


患者と医療者の病気のとらえ方は異なる

 ワークショップ「患者目線を診療にいかす」(講師=北海道家庭医療学センター・草場鉄周氏,加藤光樹氏)では,高血圧を例に挙げ,患者と医療者の間の病気に対する感覚のずれへの注意が呼びかけられた。ワークショップが始まるとさっそく,患者目線に立てていない例として,高血圧を診断された男性に対する今後の治療の説明を行う場面を講師の両氏が演じた。

家庭医の産婦人科参画について議論する学生たち
 これについて,学生たちはディスカッションを行い,問題点を発表。「脳卒中の可能性を示唆しておきながら,患者の脳検査実施の希望を『今のところ』問題ないと聞き入れなかったこと」などを挙げた。

 次に両氏は,医療者は高血圧症を生物学的・病態生理学的な角度からとらえているのに対し,患者は家族や知人たちが高血圧による症状や能力の低下をどのように受け入れ,生活しているかをみてきた経験を想起し,病気に対する不安や心配を抱いていると指摘。医療者,患者の目線をそれぞれ「Disease(疾患)」の視点,「Illness(病い)」の視点と名付けた。

 では,患者目線に立った医療を行うにはどうすればよいのか。医療者には,想像することはできても完全な患者目線を持つことはできないと草場氏らは言う。そのため,患者に考えを聞いてIllnessの考え方を取り入れ,医療者のDiseaseの考え方も適宜加えながら患者に対応することが必要であるとした。

 さらに,患者に考えを聞く際のツールとして「かきかえ」というフレームワークを紹介。これは,解釈・期待・感情・影響の頭文字を取ったもので,「病気についてどう考えているか」「病態やその治療法について期待することはあるか」「診断されたときにどう感じたか」「診断されてから日常生活に影響はあったか」を聞くことが,患者の病気に対する考え方の理解につながるとしたものだ。

 最後に草場氏は,「かきかえ」の考え方は,日本プライマリ・ケア連合学会が認定する家庭医療専門医の備えるべき能力に位置づけられている「患者中心の医療の方法(Patient-centered clinical method, PCCM)」の一部であるとし,患者中心の医療を心がけていくように呼びかけた。

家庭医が周産期医療に参画する可能性を検討

 「ゆりかごから墓場まで」とはかつての英国社会福祉政策のスローガンであるが,家庭医療にこのフレーズを当てはめることができるのではないだろうか。吉岡哲也氏(けいじゅファミリークリニック)が講師を務めた「Womb-to-Tomb Care――生まれる前から死んだ後までケアできる家庭医」では,英国生まれのこの言葉を「胎内に宿る前から死んだ後まで」と解し,妊娠前から周産期,高齢期な...

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